中山間地域は日本の宝―事業化の潜在資源が眠る(戸隠地区・水谷)
2019年6月28日 | 活動内容:農地活用 |
濃厚な3年間が終了しました。
自然豊かな里山での暮らし・仕事の充足感は格別ですが、私の場合、所謂スローライフとは異なり、目まぐるしい展開とスピードの早い3年間でした。
3年間を振り返りながら、最後の記事を書かせて頂きます。
まず、田舎暮らしに必須な点からです。
生活・仕事のために、誰もが最低限習得すべき事項があり、スキルアップが日々の充実度に反映されると言っても良いほどだと思います。
・草刈り機の操作や、小型機械などが故障した際の応急処置方法
・長物、重量物の運搬の仕方、ロープ等の上手な使い方
・管理機、除雪機、場合によっては重機の使用方法 etc
農業・林業に関わらず、最低でも上記のような事項をスムーズに出来るようになることが第一歩であり、それをベースに様々な事業・企画を構想していくことが求められていると思います。
なぜなら、山で生きるとは、理念・ビジョン・アイデアよりも、まずは、いかに人として基礎スペックが備わっているかが重要であり、話しはそれから的なムードがあります。
でも、それは3年生活をしているとひしひしと感じる点です。
大豪雨や豪雪の後、人々は休みもなく、復旧作業に当たります。その時に必要なことは、現場でいかに独力で動けるかが肝だからです。
田舎独特の人間関係も注目すべき点です。
都会やビジネスライクとは異なった人間模様・信頼形成のために必要なことが里山には多々あります。人によっては抵抗感を持つケースがあると良く言われますが、環境と人々の暮らしは、相関関係があると私は考え、郷に入れば郷に従えで、様々な寄合い・集会、公道の草刈り・水路掃除等、参加できる限りは、全て参加しました。
同じ空気を吸い、同じ釜の飯を頂くスタンス。
頭で考え過ぎず、まずは行ってみること、やってみることの指針で取り組んできました。
その結果、得られたことは大きく、20代後半~30代前半でリアルな里山暮らしの経験値を増やせたこと、地域の尊敬できる諸先輩方との繋がりが出来たことが、何よりのギフトだと思っています。
さて、協力隊制度は、人よって捉え方は様々です。
私の場合、3年後には事業をある程度軌道に乗せていくという目標を立て、スタートしました。
自然が豊富な環境の中、里山暮らしにどっぷり浸かりながら、地域の眠った資源発掘に力を入れ、事業・起業を構想したい人にとっては、最適なフレームワークだと期間満了の今、思います。
活動期間中は、以下の4つの柱を常に念頭に置いてきました。
①何でも食わず嫌いをせず、自分の手でゼロから全てやってみること
②地域内外・他分野にまたがる、志を尊重した人的ネットワークの形成
③農と食に関して専門性の高い知識・スキルを身に付けること及び質の高い情報ソースを持つこと
④ブランド戦略と情報発信体制を整備すること
以下は、1~3年目の活動内容の概略です。
◆1年目(2016年7月~2017年6月)
里山で最低限必要なスキル習得と内外の人の繋がり形成に力を入れ、戸隠の強み・他の地域にはない独自性の高いものは何か?を常に考え、行動。
・約50aの耕作放棄地を独力で再生→体力、基礎力、機械使用技能が向上
・戸隠の気候環境にマッチする高原花豆とエディブルフラワー栽培&数々の野菜の自家採取
・信州大学地域戦略プロフェッショナル・ゼミ受講(通称プロゼミ)
・日本の台所 東京築地市場との関係作り
◆2年目(2017年7月~2018年6月)
伝統農法・食文化の習得に力を入れ、農作物の加工品化、宿泊業の許可取得を目標。
・信州大学大学院「ながのブランド郷土食」受講 ※加工品製造の専門知識習得
→修了後、ながの加工マイスターに認定され、同講座修了生(主に長野の加工品製造メーカーの方々)との繋がりが拡大
・2018年5月 飲食店営業許可取得
・2018年6月 長野県で電子申請による第1号で住宅宿泊事業(民泊)の許可取得
→飲食業、宿泊業としての営業が可能となり、空き家を活用し、サービス提供体制の準備開始
◆3年目(2018年7月~2019年6月)
2年間現場で実践してきた農と食を専門知識の融合によるステップアップを目指して。加工品は2年目にアカデミックで習得した知識をベースに現場で実践。情報発信体制のベースを整え、事業開始。
・信州大学大学院総合理工学研究科生命医工学専攻(修士課程)に入学し、土作りからこだわった栽培メソッドの確立のため、土壌微生物の探求
・2018年8月 公式WEBサイトを公開する
・2018年9年「戸隠ここのえ」にて事業化し、サービスを開始(宿泊業とオーガニックカフェの営業、ビオファームの運営)
・2019年3月 菓子製造業許可取得
・ECサイトの設計(公開は2019年夏頃)
協力隊期間中、地域の多くの方々よりご支援・サポートを頂き、農と食に関して基盤をある程度整えることが出来たため、今後は事業をより強化していく方針です。また、農家創設の手続きを行い、7月中に農家資格を正式に取得予定となっています。
戸隠 ここのえ 公式WEBサイト
ECサイト coming soon,,,
戸隠豊岡地区にて、農業体験ができる宿泊施設・オーガニックカフェを運営しています。寒暖の差が大きな高原育ちの野菜は一味違った味わい。料理の食材は、自家菜園の有機野菜、エディブルフラワー、自家製発酵調味料から、地の物・旬の物にこだわり、五感に訴える、滋味溢れる料理のご提供を心がけています。
地域の方のお力添えで店舗・農園の看板が設置できました。
インテリアとしても美しい色とりどりのエディブルフラワー。
ビオファーム ここのえ
食べ応えのある大粒の高原花豆栽培を目指して。
ナス、トマト、パプリカ等のナス科や野菜とエディブルフラワーを栽培している温室。
高原花豆栽培の棚。6月末の時点で地上部より70~80㎝生育しています。
原木なめこの伏せ込み。
地域の方より老舗養蜂場とのお引き合わせを頂き、養蜂を始めました。蜂は野菜栽培においても大切な存在です。
加工品の製造・販売
発酵のエッセンスを取り入れ、様々な菓子類・加工品類の試作を繰り返しています。生菌検査、パッケージデザイン、食品表示等、販売に必要な事項をクリアすべく、進めています。
エディブルフラワーから種菌をおこした花酵母でパンを焼いて。
信州大学大学院での専門知識の習得・土壌微生物の探求
美味しく栄養価が豊富で安心安全な野菜栽培には一体何が必要なのでしょうか?
この問題提起を深堀りし、土作りからこだわった農業実践のためには、土壌微生物の理解が不可欠だと思われました。その道のスペシャリストの先生方のご指導により、微生物の生態と相互作用、自然界の多様性に一躍担うミクロな仕組み、人間社会にもたらしてくれる恩恵(産業利用)等の面を、遺伝学・分子生物学等の切り口で、基礎から学びを深めさせて頂いています。
近年、機能性表示食品など、メディアでの露出も増え、社会的認知も高まっていると思います。微生物学を学ぶ事で、様々な有用とされる高分子の生合成のためのメカニズム、遺伝的なバックグラウンド、直接的間接的な関与が見えてきます。
大学の情報ネットワークを活かし、日本語にまだなっていない海外の論文のデータベースにアクセスできる点も大きいです。最新情報に触れることと、ロジカル面の強化は、時に感性を刺激し、実際の行動を前駆してくれるケースも多々あります。
複雑な自然界での現象・反応を基礎から理解することで、農と食はさらに輝きを増し、可能性と打つ手が拡がる実感があります。
学業と実業を並行して行うことは、時間的な面で大変ですが、それぞれを同時に走らせることで見えてくる世界もあり、充実感は計り知れません。
戸隠が国より重伝建の登録を受けたことで、主に宿坊の茅葺屋根の葺き替えが始まり、廃茅を畑で循環させる取り組みがスタートしています。
越冬させた3月頃の茅に菌糸がびっしり張っています。伝統的循環農法では、茅が土作りのための有用な自然資源として用いられてきたそうです。土壌微生物の代謝のメカニズムを理解することで、なぜ土を豊かにしていくのかが見えてきました。伝統農法と先端研究で得られる知識・理論の融合の立場で、美味しい野菜栽培を目指したいと考えています。
土壌微生物のDNA。ハイスペックなコンピュータとプログラムを駆使し、多種多様な土壌微生物のDNA配列を特定していきます。極めて微細な世界を、これほどまでに可視化する現代科学の水準には驚きの連続です。
人との繋がりの拡大。尊敬する友人が数多くできました。
協力隊期間中、地域内外に数多くの繋がりが出来ました。自分が信じる道に突き進むパワフルでエネルギッシュな同世代とのご縁も得られ、尊敬すべき友人が沢山出来ました。地域の未来のことを真剣に考える先輩方との繋がりが出来たことは、事業推進の上でも勇気づけられました。熱心に意見交換ができ、高め合える仲間ほど人生を豊かにしてくれるものはないと思います。
最後の記事の場をおかりし、お世話になりました皆様に厚く御礼申し上げます。
数々のご支援・サポートを頂き、本当に有難うございました。
・戸隠地域の皆様
・戸隠支所の皆様
・長野市役所、地域おこし協力隊の同期、諸先輩の皆様
・信州大学の教授、研究員の方々
・指導教官の先生とラボメンバー
・事業化・運営のサポートを下さっている方々
・お取引先、メディアの方々
・長野市保健所、県庁の方々
・家族、友人 and more,,,
~花豆の花言葉は幸せを運ぶ~
日本画家・栗原由子さんの作品 ここのえのシンボル画をお描き下さいました。
Yuko Kurihara 公式WEB
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実は、協力隊勤務最終日の翌日、どういう偶然の一致か、宿泊で訪れて下さった4人のお客様は、小学生の時の同級生。SNSやWEBで私が戸隠で活動している様子を見ていてくれたようで、皆で来てくれました。この嬉しさは格別でした。花豆が本当に幸せを運んできてくれたのかもしれません。
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最後にビッグイベントのお知らせです。
今年の戸隠はちょっと勢いが違います。
この夏、1,000人規模の熱いイベントが2つも開催されます。
有名無名に関わらず、強烈な個性と並々ならぬエネルギーも持つ人達が戸隠に集ってきています。
令和元年の今年、凄いことが起きそうです。
リンク先で詳細を是非チェックしてみてください!
2019.7.29 戸隠そばフェス 戸隠そば50周年特別企画
グラミー賞日本人最多ノミネート・シンセサイザー奏者 喜多郎氏
"和太鼓に選ばれた男"の異名を持つ戸隠在住の佐藤健作氏
個性的なミュージシャンやブースが多数出展予定!
2019.8.31-9.1 戸隠もののけ祭り
長野県戸隠で「もののけ祭り」を開催します!日本の芸能を革新的に表現するアーティスト達が爽快な夏の高原に集結して行われる "唯一無二の祭り" で、祭りの本当の意味を再認識し、伝統芸能/アート/音楽が価値観をシフトさせる瞬間を一緒に体感しましょう!
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未来に本気の地域ほど面白い場所はありません。
機会と可能性の芽吹きが次々に生じてくるからです。
中山間地域は日本の宝。事業化の潜在資源が豊富に眠っていると思います。
この先の時代、重要性がさらに高まってくる予感がします。
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勤務最終日に長野市地域活動支援課と戸隠支所より花束を頂きました。心より感謝致します。
今後も活動・事業を通じて地域に貢献していきたく応援のほど、宜しくお願い致します。
有難うございました。