土作りに凝縮される里山暮らしの哲学 ~茅の地域循環をめぐる戸隠での新たな動き~(戸隠地区・水谷)
2018年12月19日 | 活動内容:農地活用 |
「茅(カヤ)にはどうも大きな可能性が隠されていそうだ」
戸隠の山里で受け継がれる伝統農法に触れて以来、感じていたことです。天然由来の有機資材を活用する熟練農家の知恵と技。その姿に魅せられました。
それに茅と言えば茅葺屋根。古民家の茅葺屋根を見るとついつい嬉しくなってしまう人も多いのではないかと思います。
「いつか茅葺屋根の古民家に住みたい」とお話しされる都市部から田舎へ移住を希望されている方とお会いするケースも珍しくありません。
茅葺屋根は日本人の遺伝子に刻まれた情景とでも表現したら良いでしょうか、目まぐるしく変化する現代社会の中においても「心の拠り所」的な対象として、多くの人達に親和されている趣があります。
そもそも茅とは一体何でしょうか?
茅(かや)は、古くから屋根材や飼肥料などに利用されてきたイネ科およびカヤツリグサ科の草本の総称である。カヤと呼ばれるのは、細長い葉と茎を地上から立てる一部の有用草本植物で、代表種にチガヤ、スゲ、ススキがある。ススキを特定的に意味することもある。総称が本義でススキの意が派生だが、逆に、ススキが本義で意味が広がったとも。(wikipedia)
戸隠の田畑に生える茅
様々なポテンシャルを感じさせてくれる茅。
農業の現場や里山暮らしの中では具体的にどのように活用されているのでしょうか?
1.除草効果を狙って粉砕した茅を畝間に敷き詰める
写真はトマトの畝間ですが、他の品目の野菜でも同様の工夫が施されているケースが多いです。
茅マルチ、除草茅シートと表現すれば良いでしょうか。
冬の前に支柱の撤去が終わり、トラクターのロータリーで土を耕すと同時に土中に茅をすき込めば優れた有機物として土の肥沃化につながります。
この方法を初めて農家さんから教わった時の感動は今でもよく覚えています。
2.堆肥化を行う
秋に刈った茅を粉砕して牛糞と混ぜて堆肥化を進めているところです。
左右に切り返すスペースがあり、熟成具合にムラが出ない工夫もされています。
氷点下を大きく下回る冬は水の散布が難しいため、雪の塊を入れるそうです。
秋にタイミングよく堆肥化を仕込んでおけば、湯気が出るくらいの発酵熱が生み出され、水分補給に雪が最適だそうです。
この工夫にも感動ですね。
熟成が進んだ茅の堆肥を翌春に土にすき込むことで品質の高い野菜の栽培を促進します。
農業以外にも中山間地の生活の中で、今なお茅が活用されています。
3.防寒のために茅の束を家の壁面に並べるまたは積む
4.どんど焼きまつりで使われる
このように今でも農業・生活の一部になっている茅の活用方法を見てきましたが、昔の里山暮らしではさらに多面的に茅が活かされていたようです。
戸隠森林植物園内に「八十二森のまなびや」という施設があります。ここでは中山間地の昔の里山暮らしの様子や地形・地質、野鳥について知ることができます。
石炭やガス、プラスチック、化学肥料などが行きわたる前、昭和30年代くらいまでの山村の暮らしは、まわりの山(森林)が無くては成り立たないものでした。それは単に、山の木を木材として利用するというだけでなく、日常の燃料だった薪や木炭、田畑の肥料にするための落ち葉や下草、薬草や山菜、きのこなどの山の幸など、あらゆる面で山の恩恵を受けていたのです。(写真・文章 八十二森のまなびや資料館)
循環と持続可能性(サステイナブル)
今の時代のキーワードです。
生活・仕事を出来る限りこのベクトルに合わせていこうという向きは個人・組織に関わらず年々増加傾向にあると思います。
世界の流れを見てもそのように受け取れます。
では、どこからその具体的なステップを踏み出せば良いか?
比較的すぐに可能なことは何か?
里山ではこれまで見てきた「茅」に突破口があると考えています。
上記の図のような昔の生活リズムを参考にしつつ、現代にマッチする形で茅を生活・農業に取り入れ、地域全体の循環を意識していけば、もっと魅力的でワクワクする展開が出来るのではないか、常々思っていました。
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流れは思わぬ時にやってきます。
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※本記事はここのえブログにも掲載されています(2018/12/4)