活断層に囲まれた戸隠の地形(戸隠地区・水谷)
2017年2月11日 | 活動内容:農地活用 |
戸隠地区の水谷です。2月も半ば近いですがかなり寒いです。中山間地に春の気配はまだありません。こんなに積雪が多くて(雪かきをしていないところは寝雪が1m近く)植物は越冬できるのか?と感じてなりませんが、自然界の力は本当に凄いんですよね。
春になればきっと一斉に山野草が芽吹いて来るはずです。わらび、コゴミ、ウド、タラの芽、カンゾウ、ふきのとう、コシアブラ、、、今から春の恵みが楽しみです!
今月の協力隊ブログテーマはそれぞれの地区の特徴あるモノ・コトのご紹介です。私は農業に日々取り組んでいるので、植物の生育環境に関心が向いています。今回の記事では戸隠の地形について書かせて頂こうと思います。
まずは戸隠エリアを俯瞰したいと思います(大凡この四角の中が戸隠エリアです)。一目で山々に囲まれている場所だということがわかります。山あり谷ありの高低差が大きく不便なところとおっしゃる方もいますが、いやそこが魅力的なんですよね、と私は感じます。
長野市街地から車で20分程度で来ることができます。昔は長野市街地から戸隠までは一山二山を越えての行き来が難儀で奥地というイメージだったようですが、今はトンネルや車道が整備されており、信号が1基も無いので案外ストレスなくスムーズに街までおりることができます。
大体本州の中心北に位置します。地図を見ると思った以上に北陸寄りなんですねとおっしゃる方も多いです。
次は活断層で見た場合です。実に面白い位置にあることがわかります。今も地底部で活発に動いているとされる3つの活断層に挟まれています。それは日本最大級の断層「中央構造線」、新潟県⇔静岡県の南北に走る「糸井川静岡構造線」、同じく新潟県⇔千葉県の南北に走る「柏崎千葉構造線」です。
オレンジ色の場所はフォッサマグナと呼ばれる地帯です。ラテン語で「大きな割れ目」という意味だそうで、プレートが重なりひしめき合っている場所です。このエリアは一般的に知られているように地震が多い場所です。大地と大地が出会ってぶつかっている訳ですので当然そうなります。戸隠でも数年前に白馬を震源地とする大きな地震がありました。
地震は怖いですし、無い方が良いにこしたことはありません。しかし一方では、専門家の方々が大地・自然界の新陳代謝が大きな場所とも指摘しています。地下部が活動的であれば、地上部もその影響を大いに受けるものと思われます。その結果、動植鉱物への刺激も大きく、バラエティーに富んだ生態系の形成に繋がるのかもしれません。
戸隠の地形は四方八方から力が加わった結果、ぐにゃっと上部に押し上げられたようなアップダウンが激しい丘陵地帯です。フォッサマグナ地帯として、この土地は太古の時代から激しいエネルギーの凝集・拡散を経験してきたと予想されます。海底隆起、火山爆発、地震による地形変化、それを物語る風景を随所で見ることができます。
荒倉山山道から栃原地区を望む。複雑な地形に集落が点在しています。
こちらも荒倉山の山道。荒々しく野性的な岩肌がそこかしこに露出しています。
私の住む西条地区。防風のため北に山を背負った集落が多いです。
大地の新陳代謝の大きさを物語る指標として樹木の大きさが挙げられるのではないかと思います。仮に自然界に変化がほとんど無い場所があったとすると、その土地はやがて砂漠のように無機質な物質が大半を占めてしまい、生命が存在できる環境が失われていくはずです。戸隠はどうでしょうか。冬の寒さや食料調達、医療設備など人の現代的な暮らしの観点から見れば厳しい面はありますが、植物・動物・鳥類など豊かな生態系が存在しています。
こうした生態系に支えられてか、巨木がたくさん存在しています。奥社の巨大杉の参道以外にも驚くような巨木が各所に聳え立っています。
火之御子社の巨大な2本杉。木の皮がスパイラルしているのが印象的です。
人魚伝説が残る戸隠神社中社の3本杉。
岩窟観音の巨大杉(栃原地区の奥地にありますがこの杉が戸隠で一番大きい?)
この巨大杉は冬は雪で道が埋もれてしまうため行くことができませんが、その迫力は凄まじいものがあります。周囲には古い社や石仏の事跡がいくつか残っており、古代の人々にとっても大切な場所だったことが伺えます。
豊岡地区の大カツラ。周囲が10m以上もあり非常に大きいです。
さて、こうした古代から残る巨木は肥料をあげていないにも関わらず成長をしているのは明らかです。それは一体なぜなのでしょうか?
巨木が生育する環境条件について調べてみると「水」に焦点が当てられていることが多いようです。「ミネラル含有量が多い水または温泉水が地下部に豊富にあることで木々の成長を促進させる」という見方です。確かにそれには頷けます。
加えて考えてみたいのが、大地の新陳代謝が激しい地形・土壌には微量要素(ミネラル)と共に微動作用物質(微動料)と呼ばれる成分が多いのではないか?ということです。
植物にとっても人間にとっても微量要素(ミネラル)が生育・成長に不可欠なことはよく知られています。しかし、微動料という聞きなれない存在はいかがでしょうか。私は農業の学習を始めてから知ったのですが、含蓄に富んだ考え方であり、物質でした。
土壌には酸素、チッソ、カリウム、カルシウム、アルミニウム、リン、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、硫黄、珪素、その他多種の必須要素、微量要素が含有されていますが、その全てが植物成長のために活用されるかというとそうではないらしく、かなりの量が様々な要因によって死蔵化(活用されない状態)されているというのです。
その死蔵化されている養分のイオン化を促進させ、植物の根からの吸収を容易する働きを持つものが微動料と呼ばれる物質群です。より詳しくは「多種複合的物質の化学的、あるいは電気的反応を起動し誘発する作用のある微量物質」と定義されるそうです。それに当たるものとしてルビジウム、二酸化マンガン、塩化鉄、硫化銅などが指摘されていました。
土壌の中のこれほどのミクロな変化を観測するのは容易ではありませんが、メカニズムから結果を導き出すのではなく、今目の前にある結果から考えてみると案外シンプルに見解を導けそうです。
➀戸隠は活断層に囲まれた大地の新陳代謝が激しい地形として
②活発な地下での活動の影響を受けた地下水が微量要素・微動料を地表面まで運び
③その影響から肥料を与えずして樹木は成長・巨大化していく環境が形成される
④木々の成長は相互影響として動物、鳥類、微生物等の生態系も豊かにし
⑤生命のベースとなる土壌は肥沃化しますます生態系の豊かさを保持していく
こんなサイクルが回っていそうな気がしました。
このように考えるのは、野菜栽培にこうした自然界・生態系の特色・利点を活かしたいと思っているからです。
微動料とサツマイモの成長の相関関係(耕地面積は1反)について、ある栽培データを見たことがあるのですが驚くべき結果が出ていました。どういう内容かと言いますと、ある農地において
➀基肥のみを通常通り入れたところ
②基肥に微動料を1,500g入れたところ
③基肥に微動料を3,000g入れたところ
の比較検討が行われた結果、②は➀のおよそ1.7倍の収量となり、③に至っては➀の2倍以上の収量になったというのです。1反に対して数kgの物質というとかなり少量の感触がありますが、土壌中の化学変化は予想以上にダイナミックに発生しているのでしょう。
実際にまだ自分の目で見て体感をした訳ではありませんが、今年の作付け時には是非とも実験してみようと思っています。
2月に入り2回目の土壌分析の結果が出てきました。1つ目の圃場と比較的近くであったため、大体は同じような傾向の値でしたが、注目すべきは「腐植」という項目が高かったことです。腐植とは「土壌微生物の活動により動植物遺体が分解・変質した物質の総称。無定形の褐色ないし黒色の有機物」と定義され、腐植が多いと以下のような効果が生まれると言われています。
1.腐植は土壌中で粘土鉱物と結合して粘土腐植複合体となる
2.養分を保持したり土壌を団粒化させ、土壌の機能を高める重要な働きをする
3.腐植が多い土壌で団粒構造が発達すると団粒間に孔隙が広がる
4.この孔隙に液相、気相が形成され、水と空気が通りやすく、かつ保持される
(ルーラル電子図書館より)
有機・自然農法に努める方とのお話しでは団粒構造のことが話題に挙げることが多いですが、微生物の活発な働きが大きな影響を与えていくのは間違いなさそうです。「腐植が多い」⇔「大量の微生物が土壌に住み活動している」という相互関係も科学的アプローチで明らかになってきました。
私の農業を行う西条地区は概ね黒ボク土であると思われます。腐植が少ないと見た目は茶褐色になり、腐食が多いと表層部が黒色を帯びてくるようです。土壌の表面を見た限り、黒々としているので腐植が多いと見て確認できました。写真の茶褐色の土は表土から約30cm程度下にありました(写真は掘り返した時に撮影)。
ちなみに多様な土壌分布マップなるものもあり、土壌の違いは農作物の違いでもあり、その地域ごとの最適な品目選びにとても参考になりそうです。
(土壌立地学 読替えデジタル日本土壌図より)
この土壌調査マップからも戸隠エリアは黒ボク土が多い土壌であることがわかります。褐色森林土も多いようです。
「農産物のブランド化」や「地域農業・産業の魅力発信」のためには、まずは自分たちの取り組む足元の環境要因を今一度しっかりと見ていくことが先決かと思い取り組んでいます。新鮮な視点をいつも持てるよう心がけ、良さと特徴を再発見&認識し、さらなる良さを引き出せるように自然のリズムに沿って取り組んでいくことが大切だと感じます。
そうすればきっと土壌・環境がそれに応えてくれて、自然と魅力ある取り組み・農産物も育ち、やがて周りもそれを求めてくれる、そんな流れを作っていきたいと思っています。
戸隠で収穫される農産物は味が濃くて美味しいです。でも人が栽培した農産物だけでなく、豊かな生態系の中に自生する山野草やきのこ類は毎年多くの人を惹きつけているようです。その自然界の営みのリズムが農業でも大きなヒントになりそうです。
戸隠に自生するトガクシショウマ