コードネーム"美味しい果実"を追え
2015年10月 5日 | 活動内容:その他 |
草木も眠る丑三つ時。月は顔を隠し、ただでさえ暗い夜の大岡は深い闇の底へと沈む。国道19号線に連なるオレンジの街灯は、かえって周囲の暗さを際立たせている。風もなく、星も見えない。そんな金曜の未明。
大型トラックたちが眠る駐車場の一角。白の軽バンの中で、スマートフォンの明かりに照らし出された男の顔が少しゆがむ。メールの受信BOXにある上からの指令は、遂行難易度の高さを容易に想像させた。
『次の標的:コードネーム"美味しい果実"』
「やれやれ。今回は、ちと手こずりそうだな」
誰に言うともなくつぶやくと、飯島悠太は運転席から夜の闇に降り立った。
◆準備
数々の専門的な器具が並ぶ部屋で、今回の任務のためのブツの製作にかかる。
グラインダーで加工したのち、熱処理を施し抽出。薬品を加える工程がいちばん難しい。何度行っていても、額に汗が浮かぶ。
「頼むぜ・・・」
整形し、冷却装置へかけるとほっと一息。どうやらうまくいったようだ。
完成したモノを手に取ると、ズシリと重かった。単に物体のもつ質量のせいだけじゃないな、と思った。
薄明るくなった窓の外で、静かに雨が降り出した。
◆包囲
フロントガラスを叩く雨音が、徐々に大きくなる。カーブが連続する山道に、軽バンのエンジンが唸りをあげる。
いつものように、上は大した情報をくれなかった。標的の容姿はもちろん、正確な居所もわからない。エリアを大まかに絞り、最終的には足で捜す。地図は頭に入っている。あとはターゲットを追いつめるだけだ。
この天気だ。ヤツはおそらく民家に身を寄せているであろう。そう推理した彼は訪問販売業者を装い、作戦を開始する。
1軒目、2軒目と空振り。どうしたものかと思案しての3軒目。直感が彼にささやいた。
「ここだ」
懐の重さを確かめながら、その家の戸を叩いた。
◆突撃
現れたのは、にこやかな顔の婦人。架空の業者を名乗り、まずは商品説明をしながら、探りを入れる。それとなく『美味しい果実』というワードを混ぜたときの、一瞬の表情の変化を彼は見逃さなかった。
彼「こちらにヤツが潜伏していますね?」
婦人「さ、さぁ・・・なんのことですか?」
思いのほか手強い。荒っぽい手は使いたくないが、ここは致し方ないだろう。
彼は、懐から例のブツを取り出し、素早く相手に向けた。
(ドンッ!)
「ちょ、ちょっと待ってて!」と言い残して、奥へ駆け出す婦人。やはり、こいつの威力は計り知れない。数分後、小走りに戻ってきた婦人が「ごめんね~、今これしかないのよ~」と、ターゲットを連れてきた。次の家でも、そのまた次の家でも同様のことが起こった。
任務完了だ
―ということで、以上、果樹栽培がほとんど行われていない大岡で、美味しい果物を入手する方法でした。豆腐を売りに行くと逆にいろいろな物をいただくことが多く、本当にありがたいです。これからも愛される豆腐屋を目指していきます!