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No.465

ファイサル アハメド・

ショヴォン マジュムダーさん

シソーラス株式会社 ITエンジニア

バングラデシュから長野市へ。「信州ITバレー構想」が吹き込む新風

文・写真 島田浩美

長野県にIT産業を集積させ、産官学連携でIT人材の育成や誘致、ITビジネスの創出・誘発を実現しようとする「信州ITバレー構想」。その一環として2020年に初めて誘致されたのが、バングラデシュ出身のITエンジニア、ファイサル アハメドさんとショヴォン マジュムダーさんです。現在、ITコンサルティング事業を展開する長野市のシソーラス株式会社で働くふたりが長野市に生み出す影響とは。

IT人材豊富なバングラデシュと長野をつなぐ新たな流れ

ファイサル アハメドさんとショヴォン マジュムダーさんは、それぞれ現地の大学でWEB開発やエンジニアリングを学び、その後、現地のIT企業で数カ月間インターンシップを経験したあと、3カ月間日本語を勉強し、シソーラス株式会社に就職しました。

そんなふたりのご紹介の前に、まずは「信州ITバレー構想」とバングラデシュの関係を少々。そもそも「信州ITバレー構想」は、一般社団法人長野県経営者協会の山浦愛幸会長と長野県立大学の安藤国威理事長、シソーラス株式会社代表取締役の荒井雄彦さんが阿部守一知事に提案したことに端を発します。その取り組みのなかで荒井さんは、安藤理事長のつながりからバングラデシュでオフショア開発事業を手がける株式会社BJITと知り合いました。

バングラデシュは現在、国家戦略としてIT人材を育成し、IT産業を縫製業に次ぐ輸出産業に育て上げてIT立国をめざす「デジタル・バングラデシュ」を推進中で、大学ではコンピューターサイエンスなどを積極的に教育しているのだとか。そうして育ったIT人材を人手不足の日本のIT企業とつなぐべく、独立行政法人国際協力機構(JICA)は日本市場向けバングラデシュITエンジニア育成プログラム「B-JET」を現地で展開しています。株式会社BJITはJICAとともに「B-JET」で日本語やビジネスマナー教育を進めている存在です。

ファイサルさんとショヴォンさんは日本での就職をめざして「B-JET」に応募しました。そもそもなぜ日本だったのでしょう。

「どこでもいいから、どこかの国で働きたいと考えました。それに日本のイメージは、バングラデシュではとてもすごい。テクノロジーとか、日本のメーカーならすごいものを作っているとみんな信じていて、日本製だったらその品物はとてもよい。それは本当かなと。あと、日本のアニメはみんなよく知っているし、とても人気です。クルマも人気です」(ファイサル)
「大体クルマは日本車です」(ショヴォンさん)

来日して1年ちょっと経過しているとはいえ、現地での日本語教育は3カ月間だけとは思えないほど自然な日本語に驚きましたが、荒井さんは株式会社BJITの仲介によりふたりを現地で面接し、正社員としての採用を決めました。その決め手は「インスピレーション」といいますが、原石のような魅力を感じたのでしょう。

▲「B-JET」5期生に当たるふたり。日本語も上手だが、それ以上に英語は堪能なのだとか

では、そんなふたりの仕事ぶりをご紹介しましょう。ファイサルさんは、葬祭業を展開する企業のエンタープライズシステムを長期的に開発していくプロジェクトチームのメンバーとして、パッケージ開発やデザインを担当するほか、ブリッジSEとしてバングラデシュのビジネスパートナーとの架け橋となる役割も担っています。一方、ショヴォンさんは比較的短期で終わるさまざまなプロジェクトに関わり、その都度異なるプログラミング言語を駆使しながらビジネスアプリケーションの開発に取り組んでいます。

働く環境として日本とバングラデシュの違いはなく、使っているソフトも同じだそう。ただ、バングラデシュではインターンシップ経験のみだったため、仕事としての経験は日本が初めてになるのだとか。では、日本で働くうえで心がけていることはあるのでしょうか。

「時間を守って、やることはちゃんとやる。バングラデシュでは子どもの頃から『日本人はみんな時間通りにやる』と聞いていたので、今もその心を持って仕事をしています」(ファイサルさん)

なんと実直な返答なこと! ちなみに荒井さんも「彼らの面白いところは日本人気質で親日家で、日本人よりも純粋なところ」と評価します。

なお、葬祭業に関する開発に携わるファイサルさんは、日本人でもなかなか読めないような業界特有の漢字も使っているのだとか。

「説明してもらったらわかる言葉でしたが、最初はなにも読めなくて大変でした。難しかった。でも、みんなに教えてもらったり、いつでもちゃんと説明してもらえるので、今ではあまり大変ではないし、ちゃんと読めなくても形を見たら意味はわかります」(ファイサルさん)

こんな言葉からも彼らの誠実さ、勤勉さが伺えます。では、仕事のやりがいとは。

「開発が時間通りに終わって、やりたいプラグラムもちゃんとできて、リリースと聞いたら、そのタイミングはうれしいです。プログラミングはいつもそうです」(ファイサルさん)
「それと私はもうひとつあります。私の仕事はいろいろなものを作るので、いろいろなことを考えるとか、調べるとかできるところがうれしいです。それに、新しいアイデアを相手の企業の社長さんと話すことができるのも、とてもいいところです」(ショヴォンさん)

ふたりともクライアントの経営者層ともやりとりをしており「敬語は難しい」といいますが、すっかり会社の一社員として業務を任されている様子が伝わります。荒井さんも「英語能力に長けていて日本にこれだけ馴染めるのはすごいポテンシャル」と話します。

長野暮らしから広がる地域とのつながり

それでは、長野市で働き暮らす魅力はどのようなものがあるのでしょう。

「長野しか住んだことがないからほかのところはわかりませんが、東京に比べて長野は、私にとってはよいです。大きな都市より小さな都市のほうが人も少なくていいと思います」(ファイサルさん)
「長野の一番いいところは、人がとても優しいです。東京は1〜2回しか行ったことがないけど、長野の人のほうが優しいと思いました。でも、僕は静かなのよりちょっとうるさいのが好きです(笑)」(ショヴォンさん)

というのも、ファイサルさんはバングラデシュの地方出身で、ショヴォンさんは首都ダッカの出身なのだとか。

「バングラデシュでもダッカは人が多くてクルマも渋滞していてとてもにぎやかだから、彼(ショヴォン)はそういうところが好きで、私は田舎の村のようなところが好きだから、長野の自然も、人が少ない静かなところも、私にとってはいいんです」(ファイサルさん)

ちなみに、ふたりとも権堂商店街の飲み屋に出かけると自然と周囲と仲よくなり、ちょっとした有名人になっているのだとか。また、喫煙者のショヴォンさんは”タバコミュニケーション”でも見知らぬ人と仲よくなっているといいます。

「一度、一緒にタバコを吸っていた人と好きなものが大体同じで3時間ぐらい話して。クルマとかミュージックとかアニメとかの話をしていたら、時間が経っていたことに全然気づかなかった(笑)」(ショヴォンさん)

ただ、コロナ禍以前は社内で外国人のミートアップパーティーを開催し、100人ほどが集まったほか、ふたりは1〜2カ月に1回、長野市の外国人コミュニティーの仲間と出かけたりパーティーなどを楽しんでいたそうですが、現在は休止中。「最近は何もできなくて残念」とも話します。


▲外国人と知り合う場として開かれたミートアップパーティー。英語教師や長野県立大学の教員なども集まった

暮らしに関しては、長野の寒さは苦手かと思いきや、ファイサルさんは社内の仲間とスキーに行って以来、すっかりハマっているのだとか。冬も楽しんでいるようです。とはいえ、ショヴォンさんはそのときあばら骨を折ってしまい、以来1回も行っていないという対照的なところも。

では、そんなふたりを雇用したことで、社内の変化はあったのでしょうか。

「大阪市から長野市に拠点を移したのが2019年。もともとメンバーは多くなく、5月に会社をオープンしてから拡充し始め、その約半年後に彼らが入ってきたので大きな変化はありませんが、珍しがってくれる人がいることで外部との会話が増えました。また、社内的にもバングラデシュの会社とのやりとりから英語の必要性を感じて、現在15〜16人いるメンバーの7〜8割が、契約している会社から毎週英語教育を受けていたりと、英語を覚えようというモチベーションになっています」(荒井さん)

プログラミング技術に関してはふたりともまだまだ学ぶ余地があるそうですが、生まれ育ってきた国が違うことによって、それぞれ得るものがあるとも感じているといいます。日本人メンバーにはふたりがうまく社内のプロジェクトを理解し、溶け込めるよう工夫して考える力を、ふたりには日本のプロジェクトの進め方や凝り固まった業界慣習での疑問点を指摘してもらうことで、相乗効果が生まれることを期待しているそう。

そんなふたりに今後の展望を尋ねると…。

「そんなに遠い未来までは考えていないけど、今やっていることをちゃんとやって、スキルアップしながら進みたいです。これは私たちにとって最初の仕事で知らないことが多いですから。経験していったあと、大きな目標を考えます」(ファイサルさん)

と、どこまでもまっすぐな答えが。


▲プライベートではコロナ禍で移動が難しくなってどこにも行けていない分、収束して落ち着いたら「富士山など日本各地の名所を見てみたい」とショヴォンさん

なお、荒井さんは、なかなか日本人に馴染みがなく隣国のインドとは異なるバングラデシュ文化を広めることで、まちづくりの面白いコンテンツづくりができないかとも考えているといいます。

「バングラデシュの食に関して広めていくのも面白いですよね。異国文化をもう少し長野にもたらしたい思いもあります」(荒井さん)

ベンガル料理はなかなか日本では食べられませんし、食というコンテンツは関心を引きやすいので、実現したら長野市の新たな魅力になりそうです。

「信州ITバレー構想」を組織づくりや新事業のきっかけに

「僕はこの長野で、新しい事業を生み出して行くプロセスとして『信州ITバレー構想』があると思っているので、そのためには人材の多様性は極めて重要だと思っています。従来、IT業界は同じテクノロジーを使いこなせる人材を大量に雇用し受注して儲けるという、ある意味では同質性を求めていた構造のなかで、品質は低かったとしても、ひとつの新しいビジネスの道を見つける手段になりうるのではないでしょうか。そのためには、いろいろな人材がいる多様性を常に維持していかないといけないとは考えています」(荒井さん)

また、バングラデシュという国について言及すると、経済成長の伸び率は世界でもトップ5。今後も間違いなく伸び続け、1億6000万人もの人口の平均年齢が24歳と“ポテンシャルの塊”で、日本資本で交通インフラも整備中であり、ビジネスチャンスはさらに広がっていくと考えているそう。

「今後はよりボーダーレスな世界になっていくと思います。しかもITベースで考えると距離の壁が一切ないうえ、現地のITエンジニアはコストパフォーマンスが極めて高く、日本人とはまた違うポテンシャルがあると感じています」(荒井さん)

その点、ふたりが本領発揮できる仕事をまだまだ提供できていない実感もあるそうで、今後は長けた英語能力を生かし、英語がベースのIT系の一次情報から新しいものを生み出していく環境を整えたいとも考えているのだとか。

一方で、荒井さんが声を大にして受け入れ企業に伝えたいことは「海外からのIT人材に期待しすぎないこと」だといいます。

「意外とこうした人材は期待値が上がってスーパーエンジニアと捉えられがちですが、彼らは日本の新卒の大学生とスキル的には差はありません。能力ではなく、やはり異国のメンバーを受け入れる多様性に意味があると思っています。組織が変化し、新しいものにチャレンジしていくきっかけになると考えて受け入れてほしい。ただ、彼らに関しては、日本人よりも真面目で従順であることも強みな気がします(笑)」(荒井さん)

そのため企業側に大切なのは、抵抗を持たずフラットに受け入れる環境を整えていくこと。そうすれば自然に社内に馴染み、企業の可能性は広がっていくと話します。


▲例えば日本企業は1日5回の礼拝があるイスラム教徒の対応に気を使いがちですが、ファイサルさんは会議室の隅でお祈りをしているなど、柔軟に対応しているのだとか

長野県民はとかく閉鎖的といわれがちで、実際、私も自覚するところもありますが、だからこそ海外からのIT人材の受け入れは社内に新たな風を吹き込む存在になるでしょう。その一歩を歩み出したシソーラス株式会社で生き生きと活躍するふたりは、きっと「信州ITバレー構想」のロールモデルのひとつになっていくに違いありません。

(2021/04/19掲載)

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