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No.459

小林

さん

アーティスティックスイミング選手

華やかな演技が魅せる水上の芸術

文・写真 島田 浩美

音楽に合わせてプールの中でさまざまな動きを行い、技の完成度や同調性、演技構成、さらには芸術性や表現力を競うアーティスティックスイミング(AS)。昨年開催された第74回国民体育大会(国体)のデュエット競技で優勝したのが、長野代表の高校生ペア、小林唄さんと和田彩未さんです。小林さんは長野市出身。長野運動公園総合運動場総合市民プール「アクアウイング」を拠点に活動する「長野ASクラブ」から世界へと羽ばたいています。

楽しさから厳しさへ。努力に結果が伴うことが原動力

「高さをそろえて!」「角度を合わせる!」
アクアウイングの一角で響きわたる厳しい指導の声。小学生から高校生までのメンバーがそろう「長野ASクラブ」の練習風景です。なかでもひときわ水面高く伸びた脚技の美しさを誇るのが、小林唄さんと和田彩未さんペア。週4日、厳しい練習を重ね、週末は朝から夕方遅くまでアクアウイングで過ごします。

「私たちの武器は、脚の長さとまっすぐさです。ただ、先生から同調性を指摘されることが多いですし、上半身を水面から大きく出してダイナミックに動かす表現力も足りないので、まだまだ課題が多いですね」

アーティスティックスイミング
▲観客が目にする美しい演技とは対照的に、体力も求められ、演技構成や技の美しさはもちろん、スピードや芸術性、豊かな表情や表現力も勝負のカギとなる
 
小林さんは、現在、長野南高校に通う3年生。幼少期からアクアウイングでのスイミング教室に通い始め、小学2年生の時、友人に紹介された「長野ASクラブ」の体験イベント「はじめてシンクロ」に参加した際、ロンドン五輪代表コーチも務めた内山まゆみ先生から「手足が長いからASに向いている」と声をかけられたことをきっかけに、小学3年生の終盤でクラブに入りました。

最初は楽しく練習をしていたものの、次第に大会に出場するようになると、年上の選手たちについていく苦しさを覚えるように。チーム競技では身長差による水面からの脚の高さの違いを補うため、陸上での筋トレも重ね、水中でのスカーリング(水を捉えて掻き出す手の動き)をより多く行うなど努力をしてきたそう。

陸上でのストレッチや筋トレ
▲陸上でのストレッチや筋トレなど、基礎的な運動も日々欠かせない
 
「それでも小学生の時は結果に恵まれず、デュエットでメダルを狙っていた小学6年の大会では4位で悔しかったですね」

そんな無念さをバネに迎えた中学1年生の「JOCジュニアオリンピックカップ(ジュニアオリンピック)」は長野で開催。友人も応援に駆けつけてくれ、チーム競技で銅メダルを取った時の達成感は今も一番の思い出だといいます。

「朝から夜まで厳しい練習する分、大会に出てメダルが取れた時は、これまでの努力が無駄ではなかったと実感し、心から仲間と一緒に頑張ってきてよかった、また頑張ろうと思えます」

練習した分、結果が伴うこと。それが原動力になっているのは、今も昔も変わりません。

補欠での成長を経て「絶対優勝」と挑んだ国体

小林さんが1歳下の和田さんと初めてペアを組んだのは、中学3年生だった2017年。
しかし翌2018年に和田さんは3歳上の選手とペアになり、日本代表として、ハンガリーで開催された第16回FINA世界ジュニア選手権大会(世界ジュニア)への出場を果たします。さらに同ペアは長野県代表として国体でも初優勝。その際、小林さんは補欠となり、3人で練習を重ねました。

「ふたりとの練習はすごく大変でしたが、そこでやる気が起こり、私も国体に出て優勝したいと思えるようになりました。先生にも普段以上にしっかり見てもらい、国体に向けての練習で大きく成長を感じました」

精神面も進歩したそう。今までは失敗を引きずるタイプだったものの、広いプールでふたりだけで演技するデュエットでは、より自分のメンタルが相手に影響を与えてしまうと考え、気持ちの切り替えを早くするように。また、あまり指導を受けられない補欠という立場だからこそ、ふたりの練習を踏まえ、失敗しそうなポイントや修正点を自分で考えて泳ぐ意識が高まったといいます。

実際、近くで見ていたコーチも「指導を素直に受け入れ練習する小林さんは、本人の努力もあって高校生からめきめきと力をつけていった」と評価します
▲実際、近くで見ていたコーチも「指導を素直に受け入れ練習する小林さんは、本人の努力もあって高校生からめきめきと力をつけていった」と評価します
 
再び和田さんとペアになったのは、その翌年。小林さんが高校2年生になった2019年です。しかし、前年に世界大会に出場し、国体優勝まで果たしていた和田さんは、もはや小林さんにとっては遠い存在になっていたとか。再度のペア結成に不安があったと話します。

「彩未ちゃん(和田さん)は脚技もきれいだし、競泳が速いので気を抜くとすぐに離れてしまいます。それに彩未ちゃんは前年に多くの大会に出場している分、審判員の印象も違うので、私が下手だったら評価を落としてしまうとプレッシャーと責任を感じていました」

デュエットはひときわ同調性が求められる競技。小林さんはソロやチーム競技より苦手意識を感じていたそう。そこで、ふたりで陸上でカウントの取り方を確認したり、鏡の前で手の角度を合わせるなど練習を重ね、プールでは和田さんからアドバイスも受けつつ、互いに改善点を指摘し合いました。

遠慮なく意見が言い合える友だちのような仲のよさも魅力のペア。「ふたりで課題を乗り越えています」と小林さん
▲遠慮なく意見が言い合える友だちのような仲のよさも魅力のペア。「ふたりで課題を乗り越えています」と小林さん
 
そうしたなか、8月に行われたジュニアオリンピックでは2位に。悔しさが残る結果となったことで、続いて行われた9月の国体では、周囲は年上の高校3年生の選手も多かったものの「絶対優勝」という強い気持ちを抱いて臨みました。

「特に大阪は強いクラブで、高3の2人が出場していたこともあり、最後まで僅差のギリギリ勝負でした。それでも予選を1位で通過し、決勝で優勝が決まった時は、信じられないくらいうれしかったですね」

2019年9月に開催された第74回国体優勝時の小林さん・和田さんペア(写真:長野ASクラブ提供)
▲2019年9月に開催された第74回国体優勝時の小林さん・和田さんペア(写真:長野ASクラブ提供)

目標は世界ジュニアでのメダル獲得。長野は練習環境も魅力

国体の3週間後には、インドで開催された第10回アジアエージグループ選手権大会でもテクニカルルーティン(TR)で優勝。4月の日本選手権から出場した大会は計5つで、その集大成となる大会での優勝はとりわけ感慨深いものがあったそう。

「それまではどれだけよい結果を残しても、また合宿と大会の繰り返し。学校も月に1~2日しか通えない時もあり、心が休まる場所もなく、日本代表ではあるもののネガティブな気持ちに襲われることもありました。だからこそ、最後のインドの大会でメダルが取れた時は、ようやくしっかりと喜べると思いました」

2019年の第10回アジアエージグループ選手権大会デュエットTRで優勝した小林さん・和田さんペア(写真:長野ASクラブ提供)
▲2019年の第10回アジアエージグループ選手権大会デュエットTRで優勝した小林さん・和田さんペア(写真:長野ASクラブ提供)
 
一方で、フリールーティン(FR)のメダルは逃し、悔しさも残ったうえ、国体でもまだまだ同調性に課題を感じたことから、来年は最高得点を狙おうと、さらなる練習に励むようになりました。

ところが12月、小林さんは練習中の接触事故で足の指を骨折。目標にしてきた世界ジュニアの選考会が1カ月後に迫るなか、全治3カ月との診断に泣き崩れたといいます。しかし、コーチ陣がすぐに手術ができる病院を探してくれ、「諦めなければ絶対に間に合う」と励ましてくれたことが後押しになりました。

「先生たちは練習中は厳しいものの、悩みを聞いてもらい、支えになっています」と小林さん
▲「先生たちは練習中は厳しいものの、悩みを聞いてもらい、支えになっています」と小林さん
 
「年齢制限が18歳の世界ジュニアに出場できるのは今年だけ。骨折しても諦めずに頑張ろう」

そう奮起した矢先、新型コロナウイルスの感染拡大により、選考会の開催が中止に。和田さんと悲しみにくれました。
さらに、高校生活でASに終止符を打とうと思っていた小林さんにつらい知らせが続きます。最後のチーム戦となる予定だった日本選手権も中止に。くわえて国体も世界ジュニアも中止になり、その時の落ち込みようは大きかったそう。

「目標にしていた全ての大会がなくなり、メンタルが完全に参っちゃいました」

アクアウイング自体も、政府の自粛要請により使用禁止に。それでもチームの最年長であり、コーチ陣が「チームのムードメーカー的存在」と評価する小林さんは、持ち前の明るさで自粛期間中もチームを牽引。全員で映像を共有し、後輩たちに筋トレの指示を出したりとモチベーションの維持に努めました。

「先生たちは練習中は厳しいものの、悩みを聞いてもらい、支えになっています」と小林さん
 
そうしたなか、世界ジュニアの1年延期と年齢制限の引き上げが決定したことで、小林さんの心境に大きな変化が生まれたのです。

「ずっと何年もASを辞めたい気持ちはありましたが、それよりもメダルが取りたいという思いで続けてきました。高校を卒業する今年で引退しようと思っていましたが、こういう状況になり、このまま終わったら悔いが残るなと。そう思ったら、大学に進学しても続けようという気持ちになりました」

こうして迎えた、つい先日の9月20日に開催されたジュニアオリンピックの代替大会となる北信越ブロック大会で、小林さん・和田さんペアは見事、デュエットで優勝。1年ぶりとなる大会出場で、より成長した姿を披露したのです。

2020年9月20日に開催された第43回全国JOCジュニアオリンピックカップ夏季水泳競技大会北信越ブロック大会のデュエットで優勝した小林さん・和田さんペア(写真:長野ASクラブ提供)
▲2020年9月20日に開催された第43回全国JOCジュニアオリンピックカップ夏季水泳競技大会北信越ブロック大会のデュ&エットで優勝した小林さん・和田さんペア(写真:長野ASクラブ提供)
 
来年は県外の大学に進学する予定の小林さん。しかし、長野ASクラブの所属を続け、週末は長野に帰ってきて練習を続けていくそうです。

「長野の練習環境は恵まれていて、他県のクラブはプールを転々としているのに、私たちは小さい時からアクアウイングを使わせてもらっています。先生たちからも毎回『環境に感謝しなさい』といわれて育ってきました。ASは大変ですが、泳いでいる時は楽しいですし、努力すれば結果も伴います。幅広い年代が関わり、いろいろな人に助けられ、成長することもできるのも魅力です」


 
そんな今後の小林さんの目標は、世界ジュニアでメダルを取ること。

「クラブの中での最年長者として、これからも彩未ちゃんと一緒にしっかりとチームを引っ張っていけたらと思っています」

一つひとつの言葉から、素直さと朗らかさ、ひたむきさ、そして高校生ならではのみずみずしさが伝わってくるような小林さんのインタビュー。背筋が伸びる思いになると同時に、コロナ禍の鬱屈とした気分も吹き飛ばしてくれるようでした。

個性豊かな演技と音楽がひとつになり、躍動し、水中ならではの浮力と水力を生かして陸上では困難な技も華麗に見せてくれるAS。2028年には半世紀ぶりに長野県での国体開催も予定されています。今後も小林さんと長野ASクラブから目が離せません。


 

(2020/10/09掲載)

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