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No.418

山中

瑶子さん

映画監督

初監督作品『あみこ』公開。「高校生、いっぱい来てください」

文・写真 塚田 結子(文)、安斎 高志(写真)

映画『あみこ』、長野松竹相生座・ロキシーで公開

『あみこ』は、長野市出身で現在21歳の山中瑶子さんが19歳から20歳にかけて撮った初監督作品です。この映画は、2017年の「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」において、自主映画のコンペティションであるPFFアワードで観客賞を受賞し、その翌年には「ベルリン国際映画祭」のフォーラム部門に招待されました。その後、香港、韓国、モントリーオール、ニューヨークなどなど世界各地の映画祭でも上映されています。
 
2018年9月に東京で封切られた際には、1週間限定のレイトショーだったはずが、観客が殺到して異例のアンコール上映を重ねることになりました。長野市では、2019年2月9日に長野松竹相生座・ロキシーで上映がはじまりました。満席札止め、2階席にも人があふれる初回上映を終えて、山中監督と主演女優の春原愛良さんによる舞台あいさつが行われました。
 
春原さんは小布施町の出身で、山中監督とふたりそろって地元での上映ということもあって、それぞれの知人から花束が贈られる場面もあり、「海外での上映より緊張していた」という山中監督も、会場のあたたかな雰囲気に笑みをこぼしました。
 
山中監督にとってロキシーは、高校生の頃に通っていた懐かしい館。「ここが人でいっぱいだなんて」と感慨深げに語り、「いい映画館なので、高校生、いっぱい来てください」と舞台あいさつを締めくくりました。
 

 

高校2年の進路指導で「映画を撮る」と宣言

「人生頑張ったって仕方がない。どこへ行こうが意味はない、どうせ全員死ぬんだから」−−そんなあみこが恋に落ちたのは、同じく超ニヒリストながらサッカー部の人気者でもあるアオミくん。一生忘れられない魂の時間を共有したふたりは、愛だの恋だのつまらない概念を超越した完全運命共同体、現代日本のボニー&クライド、シド&ナンシーになるはずだったが……。これが映画『あみこ』のあらすじです。
 
主人公のあみこは高校生で、身につけているセーラー服は、山中監督の母校である長野西高校の制服です。「登場人物には自分の要素が少しずつ反映されている」という監督自身は、どんな高校生だったのでしょうか。
 
「高校生の私は、心の中はあみこだったけど、外面(そとづら)はアオミくんぽかったと思います。自分がスクールカーストのどの位置にいるかを自覚して、いい感じにふるまっていたから、楽に過ごせてはいました。でも、あとから思い返すと、人間関係を円滑にするために当たり障りなくふるまったり、自分の存在価値を高いところに位置づけようとする努力は無駄だったし、そんなことをがんばらなくても良かった。そう思ったときに、あみこのテーマやキャラクターが出てきました。これくらい振り切っていても良かったんじゃないかと、あみこには憧れのような思いがあります」
 
高校2年生のとき、好きでもないのに続けていたバドミントン部を思い切って辞めて以降、ひたすら映画漬けの日々がはじまります。近所のTSUTAYA、あるいは長野市内の映画館、ときに高速バスで東京まで出かけて映画を観まくり、進路指導の際には「将来は映画を撮る」と表明。
 
「突飛なことを言うのは昔からだったので、親も驚きませんでした。絵画は小学校低学年から習って中学3年まで続け、自分の限界がわかるところまでやり切ったので、やめました。映画はあまりにも未知すぎて。絵や音楽とちがって、映画は撮る才能があるかどうか、すぐにはわからないから、しばらく時間が稼げるな、とは思っていました」
 
その未知なる映画に惹きこまれ、日本大学芸術学部の監督コースに進学します。が、映画の話をしたくても、年間500本は観ていたという山中監督と話の合う人はおらず、本気で映画を撮りたいと思っている人も見あたらず。
 
「日芸は、良くも悪くも個性的な人がいると聞いていたのに、あまりにも没個性的でした。1、2年生の間は通学バスに乗らないといけないくらい辺鄙な場所に通うんです。バスに揺られ、しょうもない周りの会話を聞く15分がきつかったです」
 

 

構想から半年、撮影10日、編集3日で完成

機材は貸してくれないし、好きなように撮らせてもくれない。そんな大学に半年ほどで見切りをつけ、自主映画製作の道へ踏み出します。バイトをしながら、ひたすら映画を観る日々を送り、そろそろ書けそうだぞと思い立ち、脚本を書きはじめたのが2016年9月のこと。半分ほど書いたところで筆が止まり、脚本未完のまま11月からSNSを駆使してキャストを集めはじめました。
 
「フリーの役者さんをTwitterで100から200人くらい見て、あみこ役は唯一ピンと来た顔でした」
 
アオミくん役はなかなか見つからず、Instagramでさがしあてたといいます。あみこ役の春原さんと、アオミくん役の大下ヒロトさん。映画はこのふたりの魅力に大いに支えられています。
 

 
「スタッフは日芸のわずかな友だちから、カメラマンはTwitterでようやく見つけて、キャストとスタッフがそろったのが1月末。2月は1カ月間で10日ほど撮影。まったり撮っていたら時間がなくなって、3月のPFFの締め切りまで、編集は3日しか残されていませんでした」
 
映画は、前半は長野、後半は東京が舞台となります。前半は、あみこがアオミくんと魂の触れ合うような邂逅をした(と、あみこが一方的に思っていた)日から、アオミくんが家出をしてミズキ先輩の家にいることを知るまでの1年間。後半は、あみこが東京でアオミくんをさがし出すまでの約1日を描いています。
 
2泊3日の長野ロケを終えてなお、脚本はラストシーンしか仕上がっておらず、後半は現地で動きを決めていったといいます。エリック・サティの曲ではさまれる、“東京あるある”の叫ぶ男のシーンも、ハル・ハートリー監督作品『シンブルメン』へのオマージュだという唐突すぎるダンスシーンも!
 

 

理想とはちがうけれど、すごいものが撮れているぞ

構築的な前半と、即興的な後半。その間をつなぐレモンのシーンは特に印象的で、汗と湿気とレモンの酸味でむせかえるような匂いを放ち、ミュージシャンの向井秀徳さんが映画に寄せたコメント−−オンナの臭みが充満している。眩しいぜ、匂いがキラキラと輝きを放っている−−が、この場面を中心に、映画全体をよく言い表しています。
 
「本当は、淡々とした映画にしたかったんです。エドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』のようなセリフや動きのあまりない、静かな熱量をもった映画が好きなので。でも、理想とはちがうけど、すごいものが撮れているぞと、楽しくて興奮する瞬間が、あみこの現場ではありました」
 
「がむしゃらに撮りましたが、どうしても不本意だった部分もあります。それが結果、おもしろがられているというのは、複雑な気持ちも。でも、もしかしたらイメージどおりに撮れたものは、つまんなかったかもしれない。そんなことも含めて映画はおもしろいです」
 
「感性だけで映画は撮れない」し、「初期衝動だけで映画は完成しない」。そんなことは誰より承知のうえで、「自分の現状を打破しなければという思いはありました」と山中監督。己の衝動を抱えながらも、映画への愛をもって、どこまでも理知的に撮りあげた山中監督自身が、登場人物だけでなく、この処女作にも反映されています。
 

 
やまなかようこ。1997年生まれ、長野市出身。2017年、日本大学芸術学部の監督コースを休学中に制作した初監督作品『あみこ』がぴあフィルムフェスティバルアワード2017にて観客賞を受賞。2018年、20歳で第68回ベルリン国際映画祭に長編監督としては史上最年少で招待される。その他、香港国際映画祭、全州映画祭(韓国)、ファンタジア国際映画祭(モントリオール)、JAPAN CUTS 2018(米・ニューヨーク)など海外映画祭に多数参加。
 

(2019/02/18掲載)

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