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No.227

北澤

良洋さん

三河屋洋傘専門店 店主

嫁に出す気持ちで作る
3代使える傘

文・写真 安斎高志

いいものを長持ちさせたい人が増えてきた

明治10年(1877年)創業の三河屋洋傘専門店。長野県で初めて洋傘の製造を手掛けたお店です。そして現在、手作りで洋傘を生産しているのは県内でこの店だけ。歴史が感じられる店舗で、無数の傘に囲まれながら、店主の北澤良洋さんは奥さんと二人三脚で傘をつくり続けています。

「傘で食っていけるか、心配してくれる人はいっぱいいたよ。安いのがいっぱい売られているのに、よくやっていられるな、とね。でも、ここにきて、国産だとか、手作りといったものを好む人が多くなってきた。いいものを買って、長持ちさせたいと言う人がね」

三河屋洋傘店の売れ筋は5,000円から8,000円のもの。決して安くはありませんが、近年は生産が追いつかないほどの人気です。店で最高級の25,000円の傘もよく売れているとのこと。そのため、現在、82歳の北澤さんですが、夜中の2時ごろまで仕事を続けることもざらだそうです。

「仕事ばっかりしていたから腰がまがっちゃって。でも、お客さんから『おじさん、元気で頑張ってね』ってなんて言われるんだもの、次に来るまでやめるわけにいかないじゃない。昨日も結婚式の引き出物を夜中まで作ってたんだよ。そのお客さんには初め、間に合わないからって断ったんだ。そしたら『じゃあ結婚式の日取りを伸ばします』って言うんだもの、断れないよね」

夜中の仕事はつらい歳になったとぼやきながらも、その表情はうれしそうです。

老舗だけに、店内には洋傘の歴史も詰まっている。写真は柄が水牛、布が木綿の傘

最低でも80年使えるものを

三河屋は元々、灯り用の石油を扱う商家でした。しかし、電気の普及などで家業の転換を迫られ、北澤さんの祖父が洋傘の製造、販売を始めたそうです。最盛期は、番頭や職人など5名ほどで店を営んでいました。

北澤さんがこの世界に入ったのは17歳のとき。職人気質の父親は、言葉で技術を伝えてくれることはなく、北澤さんは父の仕事ぶりを見ながら、雑用ばかりをこなしていたそうです。実際に傘作りに関わるようになったのは5年が過ぎた頃。それから60年余り、傘を作り続けています。縫製は奥さんの仕事ですが、骨の組み立てや裁断などは北澤さんの担当です。

「うちの傘は丈夫なんだよね。もの作りと言うのは、心を込めて作るのと、機械的に作るのでは、全然違うんだよ。この傘はどんな人が使ってくれるだろう、大事にしてくれる人だといいな、とか、そういう思いを込めながらつくっている。流れ作業で作っているのとは、そりゃ違うさ。嫁に出すような気持ちだから、『かわいがって使ってくれよ』と伝えて手渡しているよ」

目指しているのは3代にわたって使われる傘を作ること。

「最低80年は使えるようなものを売りたいね。『これはおかあさんも、おばあさんも使ってきたのよ』と子どもに渡すような。そうすれば、ものを大切にする気持ちが伝わって、良い子どもが育つよ」

実際、北澤さんのもとには10年以上前に”嫁入り”した傘が、修繕に持ち込まれることが多々あります。

よい傘は端に縫い目がないのだそう。そして模様はプリントではなく織ってあるとのこと

傘はこれでいいってことがない

全国でも数少ない洋傘職人。技術を学びたいと三河屋洋傘店の門をたたく若者も多いそうです。しかし、北澤さんは弟子を取っていません。

「一度なんて夫婦で来て、私が『生活費も出せないよ』と言ったら、奥さんが『私が稼ぎますので旦那に仕込んでやってください』って言うんだ。でもね、弟子にして技術を覚えてもらって、さあ独立しなさいって私が手放したときに、食べていけるか心配なんだよね」

創業は明治10年(1877年)。善光寺の表参道から西へ一本入ったところに趣ある建物がたたずむ

北澤さんによると、一時は全国で1万軒あったとされる手作りの洋傘店は、現在、40軒ほどに減っているそう。そのため、2人いる息子さんにも、無理に家業を継げとは言わないそうです。

しかし、その一方で、手作りのものに価値を感じる人は増えていると感じています。

「一度はやめようと思ったけど、ご先祖様に申し訳ないと思って踏みとどまったんだよ。そしたらブームになっちゃった。テレビは来るし、雑誌は来るし。テレビなんて40回以上出たね」

ブームは20年以上続いている、と北澤さんはいたずらっぽく笑います。それだけ続いているのは、北澤さんの思いが使う人たちに伝わっているからでしょう。

「傘はね、これでいいっていうことがない。裁断だって1mm違うと出来上がりの形が全然違う。まあ、その違いは自分ではわかっても、人にはわからないんだけどね(笑)」

高級な傘は、男性を出世させ、女性を幸せにすると話す北澤さん。手塩にかけた傘を嫁に出すため、全国から次々と届く注文に応えて、今日も夜なべをしています。

「裁断は1mm違ってもいけないから、二日酔いの日はやるなと親父に言われたよ」

(2015/04/17掲載)

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会える場所 三河屋洋傘店
長野市西之門町500
電話 026-232-2512
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