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ナガラボはながのシティプロモーションの一環です

No.303

高城

さん

グラフィックデザイナー

自然豊かな山と門前の人々の魅力から
ワクワクするデザインを発信

文・写真 島田浩美

山と自然に囲まれた長野の豊かな暮らしを考えて帰郷

2004年から毎年2月に開催されている善光寺界隈の「長野灯明まつり」に合わせ、門前町では「もんぜんまち劇場」という演劇イベントが行われます。この事務局であるナノグラフィカ関連のチラシなどを手がけているのが、「ながの・門前暮らしのすすめ(※)」のプロジェクトスタッフでもあるグラフィック・デザイナーの高城晃さんです。

昔から漫画やイラストを描くことが好きだった高城さんは、高校卒業後に東京のデザイン専門学校に進学。卒業後は印刷会社やデザイン事務所で働き、製版や広告デザインを学びました。そして、数年の社会人経験を経て、リフレッシュを兼ねて以前から憧れていたインドを旅行。帰国後はデザイナーの派遣業に就き、パッケージデザインなども手がけるなかで意気投合したデザイナー仲間とともに、2007年、デザイン事務所「JINEN」を立ち上げます。しかし、実は高城さん、「JINEN」設立当初から地元の長野に帰郷することを考えていたそうです。

「インド旅行のなかでも(インドの隣国)ネパールで経験したトレッキングが特に印象的でした。現地で知り合った友人に誘われてナガルコットという山域の村を訪ね歩く軽いトレッキングに行くと、現地の人々の暮らしや自然にすっかり魅了されて山登りにハマってしまったんです。そこで、帰国してからはいろいろな山に登るようになり、長野の山もネパール同様に素晴らしいと感じて、そこから地元の長野に帰りたいと思うようになりました。でも、その頃すでに『JINEN』を始める話になっていたから、相方のデザイナーに『いずれは長野に帰りたい』と話したんですよね。それでも、当時すでにインターネットも普及していたから『長野に帰っても一緒に仕事はできるよね』という流れで始めたんです」

高城さんがこれまで手がけた制作物の一部。一番左は音楽の専門学校の入学案内で、「JINEN」で多く制作していた分野

こうして「JINEN」で働きながら、休日は長野の山々に登山。そんな2年間を経て、高城さんは2009年にいよいよ帰郷を決意します。

「帰ってくる決め手は、山の魅力もあったんですが、このまま都会で年を取っていっても、自分はあまりいい死に方をしないような気がしたからです(笑)。都会で生きていくのも悪くないけど、長野での生活を考えたほうがワクワクしたんですよね」

こうして同年の秋、高校卒業以来10数年ぶりに、高城さんは生活拠点を地元・長野へと移動させました。

(※)「長野・門前暮らしのすすめ」とは…近年、門前町で進む空き家や空き地の増加と住民の高齢化の対策のために、さまざまなイベントやワークショップ、空き家の調査や見学などを企画し、暮らす人と訪れる人が一緒に門前町を楽しもうというプロジェクト。長野市西之門町で編集・出版、イベント制作、ギャラリー・喫茶を営む「ナノグラフィカ」が中心となって運営している。

岩手県大槌町でボランティアを続ける「南部ハナマガリ鮭Tシャツプロジェクト」から依頼を受けて、知人であるイラストレーターやコピーライター、製本所などのボランティアメンバーと共同制作した、3月11日から始まる日めくりカレンダー。岩手県と大槌町の魚「南部ハナマガリ鮭」と、岩手県ゆかりの童話作家・宮沢賢治の『雨ニモマケズ』の物語がモチーフになっている

おもしろいデザイナーを訪ねた縁で「長野・門前暮らしのすすめ」スタッフに

東京で暮らしている間、すでに長野への帰郷を視野に入れていた高城さんは、インターネットを使って長野市でユニークな活動を展開している制作会社やデザイナーを調べ、お盆休みなどを利用して仕事のスタイルを聞きに出かけていました。そうして訪ねた一人が、ナガラボでも紹介している『デザインスタジオ・エル』のWebディレクターで、「長野・門前暮らしのすすめ」のスタッフでもあるハラヒロシさんです。

「アポイントを取って伺った『デザインスタジオ・エル』で、どこの馬の骨ともわからない自分に快く対応してくれたのがハラさんでした。それで、『長野・門前暮らしのすすめ』のミーティングでグラフィック・デザイナーを探している話題になった時に、ハラさんが僕の名前を挙げてくれたんです。それが、ナノグラフィカとつながったきっかけでした」

ハラさんが高城さんの名前を挙げたのは、「長野・門前暮らしのすすめ」で映画館・長野ロキシーを会場に、音楽ユニット『ハンバート ハンバート』のライブを企画していたからです。高城さんのポートフォリオ(過去の制作物)の中に「ハンバート ハンバート」の別プロジェクト・バンド「グッバイマイラブ」のCDジャケットがあったのを、ハラさんは覚えていたのでした。

2009年、長野に帰郷してすぐに制作した『長野・門前暮らしのすすめ』の冊子。ナノグラフィカにパソコンを持参し、泊まり込みで作った。

「それまでナノグラフィカの存在は知ってはいましたが、すでに『街並み』という小冊子を発行していて組織としても完成しているイメージがあったので、自分に入る余地はないだろうと思っていました。でも、ハラさんの紹介によって、ナノグラフィカのメンバーから『〈門前暮らしのすすめ〉という本を制作したいので一緒につくってみませんか』と連絡をもらえたんです。ただ、最初は本作りを手伝わせてもらうだけのつもりでした」

しかし、その後も同プロジェクトで進めた市民演劇『柔らかいモザイクの街』のポスターなどを手がけるうちに、ナノグラフィカのメンバーから「一緒にやってみない?」と誘われるようになったそうです。

「最初は自分のペースでやってみたいというのもあったので断ったんですが、ある日、自宅で酒を飲みながらじっくり考えた時、本づくりや演劇ポスターを一緒にやらせてもらえて、すごく大変だったけど少しだけ成長できている自分に気がついたり、強烈なナノグラフィカの面々を思い浮かべて『一緒にやったほうが絶対楽しそうだな』と思ったんです。夜中でしたが、すぐに電話をすると『ぜひ』と快く受け入れてもらえました。よかったですね」

こうして、ナノグラフィカにも近い場所に事務所を構えた高城さん。現在は「長野・門前暮らしのすすめ」の仕事もやりつつ、門前エリアで知り合った人たちから依頼されるロゴやパッケージデザインを手がけるほか、「JINEN」経由の東京の仕事や長野の広告代理店の仕事にも携わり、忙しい日々を過ごしています。

2010年2月、若手演出家の西村和宏さんを長野市に招き、一般公募した市民劇団員と東京で活躍するプロの役者とで創作した『柔らかいモザイクの街』のポスター。ハラさんがデザインした「長野・門前暮らしのすすめ」のWebサイトのイメージで手がけた

長野の人々や暮らしを楽しむ日常のなかで「ワクワク」を発見

ところで、帰郷のきっかけのひとつには山の影響もあった高城さんですが、山登りは続けているのでしょうか。

「長野に帰ってきたら休みのたびに山に行こうと思い描いていたけど、実際は忙しさもあってなかなか行けないんですよね(笑)。でも、近くに山があるのは安心感がありますし、たまちゃん(ナノグラフィカ代表の増澤たまみさん)からは『ナノグラフィカのなかで高城も責任のある企画をしなよ』と言われて、2014年5月から『山カフェ』を始めたんです」

「山カフェ」とは月に1回、高城さんが案内人となって門前町から歩いていける範囲の里山に登り、山頂で高城さんが淹れたコーヒーを飲むイベント。朝8時にスタートして午前中に帰ってこられるルート設定で、山好きの人や小さい子どもや年配の方を含む近隣住民、近所のゲストハウスからの旅行者や外国人バックパッカーなど幅広い参加者が集まるそうです。雨天時以外は決行で、なんと冬場も開催しています。

アウトドアグッズがあふれる高城さんの事務所の一角。長野市立図書館近くのビル4階にあり、かつては「ナガラボ」でも紹介した、イラストレーターのながはり朱実さんや、グラフィック・デザイナーの相澤徳行さんも事務所として使っていた

このように、日常のなかに自然と山歩きを取り入れている高城さん。そこで目にした風景が、高城さんのデザインにも影響を与えています。

「アイデアにつまった時は、とりあえず外に出ていろいろと歩いてみます。近所の山に生えている植物の色や形、商店街のへんてこ看板や門前に建つ古い建物の意匠とか、意外なところから受けた刺激が発想となって浮かんでくるんですよね」

デザインの考案で意識しているのは「ワクワクする感じ」という高城さん。発注者が思い描いているモチーフがあれば、実際に見に行ってイメージを共有し、”ワクワク”を見つけ出しています。

「ワクワク感がないと、自分で納得したものが提案できないんです。それに、デザインは格好つけるのではなく、ユーモアの要素をどこかに加えたいと考えていますね。あとは、今っぽい要素も取り入れながら、何年経っても使えるようにと耐久性も意識しています」

2015年4月から飼い始めた愛犬・つくしと毎日出勤している高城さん。シーズーとボストンテリアのミックスで、長野市保健所の犬譲渡会で譲り受けた。疲れた時はつくしに癒されている

確かに高城さんの作品を見ていると、ポップで可愛いものや、ウィットに富んだものなど、男女を問わず幅広い世代に親しまれそうな雰囲気が漂い、素直な気持ちで惹かれてしまいます。

「手がけるデザインは可愛いものが多いと言われますが、意識しているわけではなくて、ナノグラフィカの影響を受けているのかもしれません。たまちゃんは機能性なども考えながら面倒なことも構わずに提案してくるので、大変だけどすごく勉強になるというか刺激を受けるんです。それに、実際に言われた方向に進めるとうまくいく事が多いので『やる気を出せばできるんだよな』と自分を奮い起こすきっかけにもなっています」

こうした前向きな気持ちこそが、高城さんが手がける明るい雰囲気のデザインの根幹にあるのではないかと感じます。

最後に今後の展望を尋ねると、「なにか形のあるものを作りたい」という答えが返ってきました。

山カフェのルートは、当日集まったメンバーの顔ぶれを見て決めているそう。おすすめは「頼朝山」や戸隠方面まで見渡せる「葛山」、旭山の手前にある「大黒山」

「まだ妄想の話ですが、門前にはさまざまな作家さんがいるので、例えば山カフェ関連なら、金属造形作家の角居康宏さんや、革ベルトを制作する「OND WORK SHOP」の木村真也さんにお願いして、革のストラップがついた熊鈴を作ってもらったり、木工作家さんにコーヒーを飲むための木の器を作ってもらったり。ほかにも、この界隈の山のマップをデザインした手ぬぐいを小玉屋さんに染めてもらったらおもしろそうだと思っています。こんな風に門前界隈につながっているものを作ることを考えるとワクワクしますね」

こうしたアイデアの背景にあるのは「長野に帰ってきてよかった」という思いです。

「長野の暮らしは季節を感じ、四季の変化とともに生きていることを実感します。自然が近くにあって、自分のアイデア次第ですぐに楽しめるのがいいな。それに、この辺は街なかを歩いているだけでいろいろな知り合いと会えるのもうれしいですね。こうして出会った人たちの力を借りて作る作品は長く使えるものになると思うし、ほかの地域の人から見たら、その土地の人が作ったものというだけで価値が生まれると思うんです」

常にワクワク感を大切にしたデザインを手がけている高城さん。その会話も、心が弾むような希望にあふれていました。

「大黒山」もおすすめの山のひとつ。羊がいたり湧き水があって、日本三大お稲荷さんのひとつとされる商売の神様が祀られている

(2016/01/22掲載)

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長野市西之門町930-1
電話 026-232-1532
ホームページ http://www.neonhall.com/nanographica/
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