善光寺のお膝元、元善町にある「常智院(じようちいん)」は、手づくりの精進料理がおいしいと評判の宿坊です。名物は、飯山産常磐(ときわ)ごぼうの蒲焼きとゆでたてのそば。そして自家菜園でとれた野菜の漬物です。旬の野菜はおいしい漬物となって、いつでも善光寺参詣客にふるまわれます。
厨房をあずかるのは住職夫人の宮澤直子さん。直子さんの暦は、漬物とともにまわります。
春が来れば、まずヤエザクラを漬けます。お花は善光寺さん付近で頂戴して、塩漬けにしてから梅酢に漬けると、きれいな色になります。
初夏は梅仕事。往生寺に畑がありまして、梅の木が植わっているんです。その実と、いただきものの小梅も漬けます。梅酢と、瓶かめの底に残る塩も取っておく。何かと重宝するんですよ。
夏になれば、なす、きゅうり、みょうが。畑の野菜がどんどんとれますから、梅塩をすり込んで、糠床に入れます。糠床は何度かダメにして、タッパーごと冷蔵庫に入れる方法に落ち着きました。
寒くなれば野沢菜を漬けて、青首大根を糠漬けにします。糠漬けは、漬かり過ぎてしょっぱくなったら、炒りゴマと和えると香ばしさが加わっておいしくなる。これがホントの「ゴマかす」ねと、三重県伊賀上野に住んでいた義母に教わりました。
手前から時計回りに、金糸瓜、なす、みょうがの糠漬け。ゆず酢をからめた紫色のじゃがいも。桜茶と、小梅の漬物2種。梅酢しょうが。すべて直子さんのお手製
殺生をしないというのが精進料理です。なるべくものを捨てない、ものの命を大切にする。どこの精進料理も、最後はご飯と糠漬けです。玄米では食べづらくても、糠の栄養を野菜に移して白米と一緒に食べれば、まるごといただくことになる。糠漬けは、理に適かなった食べ物ですね。
日本では時季に応じてとれるものが山ほどある。一方で、高温多湿で腐りやすい。そこで生まれた知恵が発酵という保存食です。
「身土不二(しんどふに)」という仏教の言葉がありますが、食に言いかえれば、この地の旬のものをいただくという教えです。日本は瑞穂の国です。お米を消化する長い腸をもった日本人には、その身体に合った食生活がある。それに逆らってはいけない
のではないでしょうか。
私は、母からは料理のおもしろさを教わりました。義母には晩年こちらで一緒に住んでもらって、本当にたくさんのことを習いました。ふたりのほかにも、私にはお母さんのような人がたくさんいて、事務所の方、まかないの方、みなさんにいろんなことを教わってきました。
子どもを育てる母性は、無償の愛情。仏様の慈悲と一緒なんです。世の中で悲しい事件が起こるのは、食が乱れているからと思えてなりません。人はやっぱり、一緒にご飯を食べないといけません。食べることで、家族が強い絆で結ばれるのだと思います。(談)
常智院 住職夫人
宮澤直子さん
学生時代に栄養士と調理師の資格を取得。寺の跡取り娘として25歳で結婚し、住職に覚明さんを迎える。3人の子どもを育てあげ、宿坊の厨房をスタッフとともに切り盛りする。
常智院 | 長野市元善町478 電話 026-235-4012 |
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