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ナガラボはながのシティプロモーションの一環です

No.346

堤史江さん(左)

堀川真理さん

おやきの店 ほり川 三代目

「楽しむ」をキーワードに
おばあちゃんの味を守り継ぐ

文・写真 合津幸

長野県北部の郷土食のひとつ、おやき。今回は、祖母の代から続く「おやきの店 ほり川」を、おやき作りの師匠である叔母さまと力を合わせて切り盛りする、堤さん・堀川さん姉妹にご登場いただきます。毎朝手作りするおやきの店頭販売のほか、イートインスペースでは自慢のおやきはもちろん手作りデザートも提供しています。

創業37年、三代続くおやき屋

長野市青木島にある「おやきの店 ほり川」は、現店長を務める堤史江さんと主にスイーツ作りを担当する堤さんの姉・堀川真理さんの代で三代目。二人の祖母である堀川ナカさんが68歳(!)でお店を始めてから37年、史江さんがお店に入って19年、そして真理さんが本格的に手伝うようになって17年と、地域に愛されながら時を刻んできました。

「今も二代目にあたる82歳の叔母が早朝からおやきを作ってくれています。おやきの味も形も手際の良さも、まだまだ叔母には敵いませんね」

そんな「ほり川」のおやきは、小麦粉と水で作った生地と主に自家菜園の野菜を使った具でできています。サラダ油で表面を揚げ焼きにしてから蒸かすタイプで、香ばしくもっちりとした皮と素材の旨味たっぷりの具が特徴です。この、初代から伝わる「ほり川」流の作り方を基本に、「より美味しく喜んでもらえる味に」と、叔母さまが少しずつ改良を加えて来たそうです。

生地をはじめ野菜やあんこなどの具ももちろん手作りですし、やわらかめの生地でキレイに具を包んで形を整えるにはコツが必要です。さらに、焼いてから蒸すという2工程を経るにはある程度の手間と時間がかかります。

実際、史江さんが皮で具を包むところから見せていただきましたが、手慣れているとはいえ、とことん手作りにこだわる姿勢に驚かされました。

「確かに、どれだけ手を掛けるの!? と思わなくもないんですが(苦笑)、人の手を介した食べ物ってやはり美味しいんですよね。祖母の代から愛されてきた味を守るためも、これからもひとつ1つ気持ちを込めて作り続けたいです」

とは言え、もとは家庭の味。そもそもの材料や工程はシンプルです。

「ご家庭用なら形はそれほど気にならないでしょうから、一度手順さえ覚えれば誰でも簡単に作れます。そうした魅力も含め、もっとたくさんの方におやきの素晴らしさを知ってもらい、身近に感じていただけたら嬉しいです」

おやき1個120円(季節のおやきは130円)。店内でいただく場合は土のフライパンでカリカリに焼いてもらうのがオススメ

包んだら表面を香ばしく揚げ焼きに。この後、蒸してじっくり中まで火を通すので、具材の旨味が余さず引き出される

祖母の味を残し、受け継ごう

実は史江さんも真理さんも、初めからおやき屋を継ごうと考えていたわけではありませんでした。むしろ幼い頃は友達から家業のことをからかわれたりもして、良い印象を抱いたことはなかったそうです。しかし、史江さんがちょうど20歳の時、お父様が思いも寄らぬアイデアを提案します。それは、「実家(おやき屋)を壊してビルを建てて、テナントとして貸し出したい」という内容でした。

それまで店に対して特別な想いを抱いたことのなかった史江さんですが、毎日イキイキとおやき作りに励み、お客様と楽しそうに接するおばあさまの姿をふと思い出します。それらの思い出や歴史を失うのはあまりに寂しくもったいないと感じ、気が付いたら後継者として手を挙げていたのだとか。

こうして史江さんが叔母さんと一緒におやき屋を続けることを決意したため、ビル建設案は白紙に。それと同時に、自宅の一角で営業していたお店のリニューアルのための全面的な建て替えが決まったのです。

「お店の内外装はすべて父と父がお願いしたデザイナーさんのアイデアです。娘の私が言うのも何ですが、父はすごく変わった人で、人と違うものや個性的なものを好む傾向がありました。ここも『おやき屋だけどおやき屋っぽくない店にしたい』と言っていました。参考にしたのも割烹料理屋さんや和食店で、何度も連れて行かれました」

そうして完成したお店は、当時では珍しく窓にはステンドグラスが入っていたり凝った竹細工の装飾が施されていたりと、お父様が狙った通りの“らしからぬ”雰囲気に仕上がりました。

「最初は、おやき屋さんなのになぜこんなお店なの? と、正直好きにはなれませんでした。でも、お客様の声を受けて喫茶を始めてみたところ、この造りだからこそゆっくり過ごしていただけますし、この雰囲気が好きだとおっしゃってくださる方もたくさんいました。今は私たちもすごく気に入っていますし、父にとても感謝しています」

お店は長野市街地から丹波島橋を渡り、青木島の信号を大塚方面に左折してすぐ。外観はオシャレな和カフェか和食処のような印象

テーブル席と個室仕立ての小上がりがある。「ここにわざわざ足を運んでくださるお客様への感謝の念は常に抱いています」と、二人声を揃えた

「まずは自分が楽しむこと」が大切

ところで、建物が無事完成しても、20歳そこそこの史江さんにはわからないことだらけです。そのため、あまりに忙し過ぎたからか、お店に入ってから数年間のことは記憶が曖昧なのだとか。

「唯一ハッキリと覚えているのは、リニューアルオープンの当日に叔母が風邪で体調を崩したことでしょうか(笑)。ホント、散々なスタートでした」

この突然のピンチを家族や友人の助けを得て何とか乗り切った史江さん。その後は、お客様のちょっとした声をヒントに喫茶を始めたりオリジナルデザートを考案したりと、真理さんという最強のパートナーと叔母さまという偉大な師匠と共に、現在の「ほり川」を創りあげてきました。

「お客様からの感想やアイデアは貴重な財産。これまでにない発想や気付きをたくさん与えていただけるので、すごく大切にしています。ですから、何でも気兼ねなく言ってもらえる雰囲気づくりや心地良い距離感を意識しています」

また、ここ1〜2年は新たな出会いや発見に恵まれ、二人の心持ちも大きく変わったそうです。

「以前は、おやきには安易に手を加えてはダメ! とか、お店は休まずに営業しなければダメ! など、固く考えていました。でも最近は、店内で召し上がっていただく時はこれまでにない食べ方を提案しよう、イベント出店時や家族との時間のためにたまにはお休みを頂戴しよう、など、柔軟に考えられるようになりました」

その変化は、「まず自分が楽しむこと」という、仕事にもプライベートにも通じる揺るぎないモットーを得たことが大きく影響しているのだとか。

「自分が幸せでなければ、お客様はもちろん最も身近な存在である家族ですら笑顔にはできない、と気付いたんです。ですから、今はまず自分が楽しむことを最も大切にしています」

そう笑顔で語ってくださった二人がキビキビと働く姿を眺めているだけで、こちらまで自然と笑顔になってゆくから不思議です。楽しさや幸せな気持ちは、こうして伝染するのだな…と、実感したのでした。

善光寺境内で開かれた「びんずる市」の様子。この日は史江さんと、いつもは裏方として畑で野菜の栽培を担ってくれているお母さまが参加(写真提供:堤史江さん)

どんな時も笑顔を絶やさない史江さん。「本当に毎日楽しくて充実していて、本当に幸せ者だなーって思っています」と、話してくれた

(2016/11/09掲載)

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会える場所 おやきの店 ほり川
長野市青木島2-2-1
電話 026-284-5377
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