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わくわく・共感できる長野の元気情報を配信します!

ナガラボはながのシティプロモーションの一環です

No.501

くろやなぎ

てっぺいさん

映像作家、プランナー

東京から長野へ。五感を開いて見えたもの、創るもの

文・写真 石井 妙子

長野のおじいちゃんおばあちゃんはかっこいい

「80歳以上のクリエイター事務所」。思わず二度見するコンセプトのショート動画が、NHK長野放送局の特設ページで公開されています。登場するのは長野県在住の普通のおじいちゃん、おばあちゃん。近所にいそうな親近感と、見ているうちに好きになってしまうチャーミングさ、そして少しだけの哀愁がグッときます


▲駒ヶ根市の「演歌体操集団 はなみずき」のみなさん。HIHOPに合わせて軽快なステップを踏む


▲御歳100歳。大町市の竹村いし子さんは75歳から始めた俳句で一日一句が習慣

80歳以上のおじいちゃんおばあちゃんを「クリエイター」と呼び、その豊かなスキルや知恵をエンターテインメント化する動画プロジェクト「R80プロダクション」。NHKと一緒に企画から映像制作まで手がけるのが、映像作家のくろやなぎてっぺいさんです

過去に手がけた作品例はNHKの連続テレビ小説「半分、青い。」のオープニング映像、ファッションブランド「ISSEY MIYAKE」のムービー、Mr.Childrenステージビジュアル、Eテレ「デザインあ」のコンテンツ。きっと「見たことある!」とピンとくる人も多いはず。


▲くろやなぎさんの映像作品の一例。左上から「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE 2023」映像、「かんぽ生命」CM、「JRA日本ダービー」CM、「半分、青い。」オープニング映像、「デザインあ」コンテンツ映像、BiSH「LETTERS」オフィシャルビデオ

東京で暮らしてきたくろやなぎさんが、家族と長野市に移住したのは2021年のこと。翌年に始まった「R80プロダクション」は、念願のメイド・イン長野の初プロジェクトです。アイデアは、自身が長野で過ごす日常から生まれました。

「権堂商店街で、80代のおじいちゃんおばあちゃんが現役で働いていたり元気に笑っていたりする姿がすごくいいなと思って。長野は全国トップクラスの長寿県だし、何か一緒にできたらおもしろいと考えるようになりました。人生の大先輩である彼らは、みんな何かの専門家だと思うんです。長年続けた仕事だったり趣味だったり、暮らしの知恵だったり。そうした技や知恵をエンターテインメントとして表現したら、世代を越えて若者ともシェアできるんじゃないかなと、この企画を考えました」


▲「R80プロダクション」のメインビジュアル

NHKのネットワークを活かして県内各地のユニークなおじいちゃんおばあちゃんを掘り起こし、現地を訪ねて撮影。映像は「エンターテインメントとして面白いこと」と「R80クリエイター本人がやりたいこと」が重なる所を探って企画しています。例えば演歌体操集団の皆さんは、「新しい音楽で踊ってみませんか?」と提案して、初めてEDMやヒップホップに挑戦。「テンポがすごく速いから『足腰が鍛えられて、いつの間にか階段の上り下りが楽になったの』と話す方もいました(笑)」。

ユニークなシニア紹介、というよくある切り口ではなく、「クリエイター」と肩書きをつけたことが肝。一人ひとりの個性が際立ち、見ているこちらも年を重ねることが楽しみになります。こうしたネーミングの妙も、くろやなぎさんの企画力の一つなのでしょう。

「おじいちゃんおばあちゃんをテーマにしたコンテンツを作りたいと思い始めたのは、長野に来てからの変化でした。仕事で東京と行き来していますが、東京にいる時と長野にいる時で頭に浮かぶアイデアが違う。それがおもしろくて」


▲「『R80プロダクション』を他の県にも広げていけたらおもしろそう」とくろやなぎさん

長野市には「ちょうどいい余白」がある

2021年、長野市に移住。心を決めた瞬間を、くろやなぎさんは今もはっきりと覚えています。

「移住を考えて候補地を見て回っていた頃、仲の良い編集者の徳谷柿次郎くんに長野市近郊を案内してもらったんです。住まい候補として入居者が自由にリノベーションできる団地へ連れて行ってもらって、住んでいる人に話を聞いたりもして。敷地の真ん中にある共有のデッキテラスで過ごしていたら、住人のおばあちゃんがじょうろに水を汲みにやって来て、少しお話したんですよ。

その時、おばあちゃんにすごくきれいな木漏れ日が射して、ひゅうっといい風が吹いたんです。夏だったかなあ。その瞬間、僕も妻も落ちちゃって。ここに住んだらこんないい空気で、こんなふうに人と関われるだろうなって瞬時にイメージできました」

実は「移住に120%反対だった」という妻も、「ここに住みたい」と即決。翌日この団地の物件を内見し、数カ月後に引っ越しを決行したと言います。

光と風で移住を決めた。不思議な理由に感じますが、くろやなぎさんが移住を考えたきっかけは「五感を取り戻す暮らしをしたかったから」。みずから体で感じとった感覚だからこそ、信じることができたのでしょう。

「東京の暮らしは、VRのゴーグルをかぶっているみたいだとよく思うんです。僕の仕事は空調が整えられた場所でパソコンに向かって、周りと競争しながら働くこと。ゲームの感覚に近いんですよね。それも楽しいんだけれど、コロナ禍になってゴーグルが半分外れた時、あまり意識してなかった身体のことを考え始めました。その時は脳と身体がつながっている感じがしなかった。脳は活発でも、体がすごく貧弱に感じて。身体の解像度を高めたいと思って、当時はサウナに通ったりもしました。けれどだんだん、生活の基軸を自然の近くに置きたいと思うようになったんです」

東京から新幹線や特急に乗って90分以内で行ける移住先を検討し、候補に挙がったのが長野。県内の他の街も巡ったなかで心を決めた長野市の魅力を、くろやなぎさんは「ちょうどいい余白があること」と表現しました

「東京の街は情報量がとにかく多い。大量の看板や広告、歩いている人も色んなファッションやヘアスタイルで、音も騒がしいでしょう。そうした過密さもおもしろいけど、全部受け入れるとパンクしちゃう。だから、東京では無意識にすごく五感を狭めて生きている気がして。

長野市は、ちょうどいい余白がある街だと思います。視覚、聴覚、嗅覚、それから時間もゆとりがある。都市部もあれば適度な距離に山も温泉もあるから、バランスがちょうどいい。余白があると五感のキャパシティが少し増えて、色々なものを繊細に感じ取れる気がします」


▲長野駅から車で40分圏内にある戸隠山

3歳と0歳、二人の子どもの父親であるくろやなぎさん。長野に住んで、一つの嬉しい変化に気づきました。

「子どもたちを抱きしめると、毎日違う匂いがするんです。甘酸っぱい匂いの日や、いい匂いの日。シャンプーは変えていないのに不思議ですよね。ささやかなその違いに東京では気づかなかった。長野に来て、五感が少し鋭くなっているのかもしれません。子どもの成長を丁寧に感じられる気がして、うれしいです」

長野の友人との関わりで気づいたもの

仕事は映像の監督業がメイン。撮影以外はリモートでできる業務が多く、月の大半を長野で過ごします。柿次郎さんが立ち上げたコミュニティスペース「MADO」のメンバーになり、西後町にある共有スペースを仕事場に。MADOメンバーやコミュニティを通じて増えていく友人との関わりは、東京の友人とは違う楽しさがあると話します。

「長野では農業や林業、狩猟をする人と話す機会があって、視野が広がるからめっちゃ楽しいんです。一次産業に従事している人や山あいに住んでいる人は、なんだかその人自体が大自然みたいに感じるんですよね。厳しい自然の中で過ごしている残り香みたいなものを、街なかにいてもまとっている。東京の人にはない厳しさと、同時に優しさみたいなものもあるなって。そういった人との関わりは初めてだから、すごく新鮮です」


MADO の共有スペースが仕事場。不定期でイベント開催やお試し利用ができるオープンデーも実施

東京の友人は同業者が多く、よく知った関係ゆえに共通の話題も多いそう。対して長野では、くろやなぎさんが映像作家であることも、どんな仕事をしているかも知らない人が多くいる。その感覚をくろやなぎさんは「旅に似ている」と話します。

「昔よく一人で東南アジアを旅したんですが、違う国を旅している時って、社会的な肩書きのない裸の自分と向き合うんです。長野に来て、その感覚を思い出しました。東京では監督という肩書きで偉そうにしてるけど、こっちではただのおじさん(笑)。農業も林業も大工仕事もできない僕は、長野では生きていくレベルがめちゃくちゃ低いんです。ただのおじさんでもなく、弱いおじさん。東京で認められる価値が通じないことがおもしろいし、東京と長野のギャップで人間力を取り戻している感覚がありますね」

新幹線は「あさま」派

東京出張は月に数回。移動の新幹線は、仕事に集中できる空間なのだといいます。

「はくたかよりあさま派です。少し長く乗れるし空いているから、仕事に集中できるんですよ。それに、移動速度とアイデアの量は比例する気がして。ゆっくり進む方がいいアイデアが浮かぶんです。風景や空が視界に入るから、脳が普段と違う動きをするのかもしれません」

体の感覚を開いて過ごす長野から、情報の洪水のような東京へ。新幹線は、自分のモードを切り替える場でもあります。

「東京へ行くときは素の自分じゃなく、気持ち的に何かをまとわなきゃいけない。監督という立場上、弱いところを見せられないのもあって(笑)。一度外したVRのゴーグルを、もう一回装着する感覚です。普段の長野の感覚と違うから、これが新鮮で。ゴーグルを装着すると、都心の高層ビルがすごくかっこよく見えるんですよ」

五感を開いて自然を感じる長野の暮らしと、刺激にあふれた街をゲーム感覚で泳ぐ東京の暮らし。双方を行き来することで、くろやなぎさんの中に新しい発見が生まれているようです。


▲「東京で同業の友達と会って話すことも新鮮で、移住前より楽しい」とくろやなぎさん

友人とばったり会える街

仲間が増えた長野で、仕事と遊びの中間のような試みも始めました。その一つが、長野のクリエイターによる学びと交流のプロジェクト「山脈」。県内のデザインや映像、音楽、写真など多彩なジャンルのクリエイターのつながりを作ることが目的です。

「長野に来て、おもしろいクリエイターにたくさん会うことができました。でもみんな住んでいる場所が点在していて、山あいで暮らしている人にはなかなか会えない。山脈は、彼らを山から“下ろす”ための企画です。下りてきて、作品を紹介してもらったり知見やスキルをシェアしたり。何人かのクリエイターと立ち上げて、不定期でSTUDY&交流会を開いています」


▲ロゴは長野のデザイナー、小島有さんがデザイン

名前の由来は「クリエイター個人=山。長野に点在する素敵な山を、山脈みたいに並べるイメージ」とのことで、ここにも名付けの妙が。

「魅力的な“個”を魅力的な“面”にして、長野でしかできないクリエイティブを探りたい。いずれは他県の山脈につながったら良いなと思っています」

もう一つの興味深いプロジェクトが、MADOメンバーを含む仲間数人と進めている企画「途中」。長野市近郊のとある元倉庫を「何かにしていく」プロジェクトです。こちらは柿次郎さんの命名で、「いつ聞かれても『途中だから』と答えられるように」とのこと。毎月集まって掃除をしたりワークショップを開いたりしながら、どんな場所にするかを計画中です。


▲飯綱町にある元倉庫を、使い方から考えるプロジェクト「途中」

「物件や土地の価格が安い長野だからできること。東京ではこんな贅沢な遊びはできない」とくろやなぎさん。印象的だったのがこんな言葉でした。

「友達とご飯に行った時に『こんなことがやりたいよね』って話して盛り上がること、あるじゃないですか。東京だとだいたいその場限りで終わっちゃうんですよ。約束しなければ次に会うことってなかなかないから。でも長野だと、友達と街なかでよくばったり会っちゃう(笑)。だから、自然と計画が進むんです」

取材をしながら感じたのは、くろやなぎさんが長野を表現する独特の言葉選びのおもしろさ。長野での日々が深まるにつれて、街の印象や表現する言葉もきっと変わっていくのでしょう。それをまた見たい、聞きたいと思いました。

(2024/03/27掲載)

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会える場所

電話
ホームページ https://www.nipppon.com/

クリエイター交流の場「山脈」:
https://www.instagram.com/sanmyaku_collective/

2024年3月30日に「山脈 vol2」を開催します。
テーマは「デザインとブランドとアニメーション」。
好きなことを仕事にしたい人、仕事の幅を広げたいと考えている人、
長野で活動するクリエイターとつながりたい人など、
興味を持ったらぜひ参加してみてください。

日時:2024年3月30日(土)13時〜15時
料金:1,500円
会場:R-DEPOT 長野市南長野西後町610−12 R-DEPOT 2階
詳細・申し込み:https://8l9tm.hp.peraichi.com//

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