No.401
丹波
岳仁さん
「信州蕎麦ダイニング 音菜」店長
「信州の食と全国の美酒」を届ける。菓子職人、ファッションバイヤーを経て、長野ではじめた新たなお店。
文・写真 小林 隆史
個性豊かな飲食店がひしめく長野市。おすすめを聞かれて迷ってしまったことはありませんか?人気店、隠れ家、老舗、洗練された和食やフレンチ、イタリアン……。そんな幅広い選択肢に、新たな切り口で挑戦するお店ができました。それが『信州そばダイニング 音菜(おとな)』です。
▲明治の洋館のような建物をリノベーションした店内。グレーの壁に、街路樹の緑光が映えるシンプルな空間。壁面には、長野県在住のデザイナー小島有さんの作品が飾られている
和風や洋風のつゆを選べる信州蕎麦をメインに、「全国の地酒や海の幸」と「信州の山の幸」、「季節野菜の奈良漬け」なども揃う料理メニューは、古き良き家庭料理を継ぐバラエティ。そんな和食とは対照的に、1Fにはバーカウンター、2Fはニューヨークのアートギャラリーを思わせるシンプルな空間で、BGMはジャズを中心にあらゆるジャンルの音楽。「信州と九州の美味」の伝統を受け継ぎつつ、BARやギャラリーのような空気が同居する斬新さ。そんなカジュアルとフォーマルの絶妙なバランスをもつこのお店の店長を務めるのが、丹波岳仁(たんば・たけひと)さんです。長野の魅力に惹かれてスタートした今、その思いを訊ねました。
「長野の食を見つめ直したい」。オーナーの言葉に呼びおこされた熱意
2018年8月8日。長野駅から徒歩3分のところにオープンした『蕎麦ダイニング 音菜』。この場所で店長を務める丹波さんは、今年の4月に東京から長野に移住。これまでには、故郷・宮崎で高校を卒業した後、福岡や東京のレストランやBARをはじめ、数々の飲食店を経験。20代の頃には、洋菓子店を開業していたこともあります。そんな丹波さんが、これまでの経験の集大成とも言えるお店をスタートさせる大きなきっかけとなったのは、不動産業を営むオーナーの市川昇さん(株式会社イツワ・代表取締役)との出会いでした。
「ある時、いろんなきっかけがあり、オーナーと出会いました。そこで、オーナーからこんな言葉を投げかけられたんです。ーーー“長野の食を見つめ直した場づくりをしたい”と。
これまでずっと、九州や東京で飲食の世界を経験してきたので、正直、飲食業はもういいかなと思っていたので迷いました。違うジャンルの仕事もしてみたくて、昨年は東京で、児童館の先生をやったりもしていて。
それでも、オーナーの言葉に、何か使命のようなものを感じたんです。だから、食材がおいしい長野で、本当においしい食を届ける場をつくってみたいと思うようになったんです」
「食材のよさを引き立てる」という思いは、作品を引き立てるアートギャラリーのようなシンプルな空間にも表われています。その魅せ方には、10代から飲食の世界に飛び込みつつ、ファッションバイヤーも経験してきた丹波さんならではの美意識が込められていました。
「ハコをつくりたい」。10代の頃と変わらぬ夢
ーーー「僕は、10代の頃からずっと、ハコ(空間)をつくりたいと思っていたんです」
約20年の歳月を振り返りながら、ぽつりとつぶやく丹波さん。宮崎の高校を卒業してすぐに、飲食業界に飛び込んだ当時は、90年代。カフェや海外ブランドのショップが、各都市に広がりはじめた頃で、丹波さんは日本に舞い込んできた異国のカルチャーに大きな影響を受けたと言います。
「特に、パリのデザイナーが手がける『アニエスベー』の旗艦店は衝撃的でした。シンプルな店舗空間とファッションの美しさ。そのどれもが秀逸で。世界ブランドに憧れを抱くきっかけになりましたね。飲食店で働きつつ、九州と東京を行き来きする日々を過ごしながら、文化服装学院や、ロンドンのセントマーティンズなどに見学へ行って、本気でファッションの道を歩んでみようと考えたこともありました」
昼は洋菓子の製造会社、夜はBARで働き、休日は東京でファッションの世界に感性を養う。そして20代で洋菓子店を開業した丹波さんは、心機一転、30歳で上京を果たしました。飲食業を続けながらも、セレクトショップのバイヤー補佐として、パリにある『マルタン・マルジェラ』のアトリエや、ニューヨーク、ロンドンなど、ファッションの世界を渡るチャンスも掴みました。
「本当にいろんなことをやってきたなあと思います(笑)。でもその中でも、社会に出てすぐの19歳の頃、BARで働くきっかけをつくってくれた人に“あなたには夢があるの?”と唐突に訊かれたことが、ずっと記憶に残っていて。“ハコをつくりたい”と僕は答えていたんですけど、それがやっぱり、ずっと変わらなかったんです。見てきたファッションも、飲食も、それらが存在する“空間”が好きだったんだなあって、今になって気づきましたね」
そして、巡り合った長野ではじめた、新たな場。
「料理の裏側にある物語や、この場所でお客様同士が交わす会話。それらがこのお店の空気感になっていくといいなと思っています。だから、“料理とお客様が主役になるような余白”を空間に残したいと思い、極力シンプルなお店を目指しました」
一杯の寄り道。気軽に寄れるお店でありたい
何を食べて、誰と楽しむかは、お客さん次第。信州のおいしさに舌鼓を打つもよし、長野では珍しい全国の地酒を、丹波さんのおすすめで飲み比べてみるもよし。この場所で、人それぞれの愉しみ方を味わってもらいたいと、丹波さんは話します。
「お仕事帰りも、休日の夜でも、ふらっと立ち寄って、一杯だけお酒を飲んで帰る。そんな気軽さのある場所にしたいですね。
長野に来てみて、いろんな場所に足を運んでみたら、出会う人みんな、とても優しい人が多くて。僕は長野をすっかり好きになりました。長野で、新しい出会いを提供するとともに、自分も楽しみたいなって思います」
▲信州蕎麦、九州から届く海と山の幸。九州のお酒は、宮崎出身の丹波さんがセレクト。この他にも、洋菓子店を営んでいた丹波さん監修のスイーツもおすすめ
▲「まだはじまったばかり。改善できることは、山のようにあります。少しずつ長野らしく、でも、いい意味で、長野を“心地よく”裏切ってゆく。そんなことを考えながら、お店を育てていきたいと思っています」
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会える場所 | 蕎麦ダイニング 音菜 長野市南石堂1422-1 電話 026-217-2888 11:30-24:00(L.O 23:00) |
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