No.344
柏崎
美恵さん
漢方とハーブの店 なつめや店主
女性たちの健康をサポートしたい
文・写真 みやがわゆき
ハーブの香り漂う漢方薬局
“漢方”ときいて、多くの人が連想するのは、風邪の引き始めに飲む葛根湯ではないでしょうか。2012年、門前に漢方とハーブのお店「なつめや」がオープンしたとき、子供のアトピーに悩んでいた筆者は、早速来店しました。そして、頭の中にあった“漢方”のイメージと、そのお店の雰囲気のギャップに驚いたのです。木のカウンターとハーブの瓶が並ぶ棚。そして、何より店主の柏崎美恵さん(以下、美恵さん)の明るい笑顔と柔らかな物腰が印象的でした。
2012年といえば、門前の空き家・空き店舗をリノベーションしたオシャレなカフェや雑貨屋さんが注目され始めた頃。美恵さんに開業までのいきさつを伺うと、「たまたま」という予想外の答えが返ってきました。
「それまで、市内のカフェで薬膳講座をやらせていただいていたんですが、そのカフェが移転のため閉店することになったんです。その時は、お店をやろうなんて思ってなかったんですけど、たまたま知り合いを介して良い物件に出会ってしまって…」
桜枝町にある、元は麻問屋だった建物と、そこから見える風景が気に入ったという美恵さん。
その後、友人知人に手伝ってもらいながら、3ヶ月間、改装を手がけました。目指したのは、“自分の体のことを相談するとき、緊張しないでゆっくりと話ができるような薬局”。
道路に面した東側はガラス張りで明るく、内装は漆喰と木で仕上げられた、手作りの温かみが感じられる空間が生まれました。
無農薬栽培のハーブの種類は20種類以上。季節や、患者さんの症状・希望に併せて自在にブレンドしてくれます。
はじまりは、玄米菜食のカレー
美恵さんが、薬膳や漢方の世界に出会ったきっかけは、何だったのでしょう。この問いにもまた、予想を覆すような答えが返ってきました。
「薬学部を出て、松本の製薬会社に就職したんですけど、そのときに、玄米菜食のお店に出会ったんです。そこで、スパイスをたくさん使ったカレーに出会って、生薬というものに興味を持ったことが大きかったですね。」
長野市で生まれ育った美恵さんは、「とにかく、親元を離れたい」と、長野県内の大学にはないという単純な動機で、薬学部のある愛知県の大学に進学。とはいえ、人の体の仕組みや薬学の授業は退屈で、大学2年の時に、カナダに短期留学をしたそうです。
世界中の旅人たちが行き交う街で、カメラの魅力に取り憑かれた美恵さん。帰国後はカメラマンのアシスタントのバイトをするようになり、一時は本気でカメラマンを志望するほどでした。しかし、両親の猛反対を受けて断念。薬剤師の資格を取得して大学を卒業後、しぶしぶ就職した製薬会社では、病院のドクターに新しい薬の説明をするDIという職種に就き、論文をあさるように読んだり、MRを対象とした研修会で薬の解説をする日々でした。人前で話すことや、玄米菜食との出会いなど、松本での生活は、その後の美恵さんの人生を支える土台となりました。
しかし、臨床を遠く離れた製薬会社での仕事に、違和感を感じ、2年後に退職。その後、長野に戻り、薬剤師として市内の複数の基幹病院の前の調剤薬局を何箇所か経験し、患者と直接触れ合う日々の中で、新たな問題意識が生まれました。それは、西洋医学の対処療法の薬では「患者さんが、なかなか治っていかない」という現実でした。「人が健康であるということはどういうことか」という視点から、病気の根本を見る東洋医学に興味を持ち、漢方薬局へ転職。そこで中国人の中医師から東洋医学や中医学の基本やいろいろなことを学びました。
その後、結婚を機に薬局を退職。しばらくはのんびり過ごそうかなとも思いつつも、東洋医学を一から学びたいとの思いは消えず、それまでの貯金を費やして、東京にある北京中医薬大学の日本校に入学した美恵さん。中国の国立大学とあって、当然、授業も教科書も、試験もすべて中国語でしたが、持ち前のフットワークの軽さと、中医学を学びたいという意欲、そして、新婚でありながら、東京への通学生活を見守ってくれたご主人の優しさに支えられ、見事、3年間の学生生活を終え、中国の国家資格である、“国際中医師”の資格を取得しました。
在学中からスタートしたカフェでの薬膳講座も、中医師としての視点と知識の深さが生かされるようになりました。
薬膳講座では約2時間の講義のために、毎回10枚以上のレジュメを準備。堅苦しくなく、会話を楽しみながらの講義にリピータが多い(取材協力:Green Kithen Alam)
次の世代に伝えたい「食養生」
屋号になっている「なつめ」は、気血を補う作用があることから、様々な漢方薬に使われる生薬。“このお店を訪れる方、特に、女性が元気になっていくのを応援していきたい”という思いを込めて名付けたそうです。
開業以来、ほとんど宣伝をしていないにも関わらず、美恵さんのカウンセリングを受ける患者さんは、後を絶ちません。そのほとんどが、口コミで広がったご縁で、30代、40代の女性を中心に幅広い世代にわたるといいます。若い女性の生理痛や、アラフォーでの妊活の相談も多い昨今、薬に頼るのではなく、日々の生活の積み重ねの「食養生」こそが重要ということを、伝えていきたいと、使命感を感じている美恵さん。
現在、長野市内外で月に3回程行っている薬膳講座には、未婚・既婚・子育て中の女性が多く参加しています。
遺伝子組み換え食物や、過剰なホルモン剤が打たれた食肉などが大量に出回っている現代社会で、昔ながらの「食養生」の知識を身につけ、実践していくことは、人々の命を左右する重要なこと。そのために、機会があれば、学校などに出向いて子どもたちに伝えていきたいと語る美恵さんは、長野の未来を支える心強いサポーターです。
秋の薬膳プレート。上からかぼちゃと黒豆のモチきび和え、秋の芋揚げ出し、レンコンとゴボウのトロトロスープ、キノコの餃子、さんまごはん。薬膳献立は毎回、美恵さんが考案し、講座を開催するお店で調理してもらう。(取材協力:Green Kithen Alam)
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会える場所 | 漢方とハーブの店 なつめや 長野市桜枝町892-1 電話 026−217−7418 ホームページ http://www.natsume-ya.com/ |
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