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No.307

鵜飼

誌子さん

うかい ふみこ

café中寿美(なかずみ)オーナー

心豊かに、素のままに。
出会いをもたらす森のカフェ

文・写真 合津幸

長野市街地から戸隠へ向かう途中の森に、女性オーナーが営む1軒のカフェがあります。目印の飯縄山登山口入口バス停からは飯縄山の方角へ道を折れてすぐ、右手に「café中寿美(なかずみ)」が現れます。お手製ケーキとコーヒー、本と薪ストーブと窓の外の大自然、そしてオーナーの鵜飼誌子(ふみこ)さんを訪ねに飯綱高原へ出掛けました。

飯綱高原に念願の店をオープン

2007年10月のオープンから9年目。「café中寿美」はこの冬もまた雪景色の中で、いつのもようにひっそりと、でも温かくお客様を迎えています。

この店を営む鵜飼誌子さんは、上伊那郡辰野町出身で信州大学教育学部卒。学生の頃は都会への憧れと出版関係の仕事を希望する気持ちが強く、卒業後の4年弱は東京で医学書の編集者として働いたそうです。

「大好きな本に携わる仕事に就くことができ、刺激的な都会での暮らしも楽しかったので、それなりに充実していました。でも、しばらくして、会社と家を往復する日々を送る中、東京で暮らし続ける意味に疑問を感じ始めました」

ちょうど結婚の話が進んでいたこともあり、同じく長野県出身の当時の旦那さんと共に長野市で暮らすことを決意。アルバイトスタッフとして市内の出版社で働き始めました。

木々に守られるようにして建つ店舗兼自宅の建物。ここで暮らし始めてから、四季の巡りを意識するようになったそう

「それほど長く勤めたわけではないのですが、経営者ご夫妻に本当によくしていただいて。何度かご自宅にも遊びに行かせてもらったんですね。そのご自宅というのが、ここから約1キロの距離にあるんですよ」

そうして夫妻を訪ねるうち、次第に自然豊かな飯綱高原の地に惹かれるようになったそうです。

「漠然とですが、ずっと自分でお店をやりたいとは思っていました。姉ともそんな話をしていて、『店名は実家の屋号の中寿美だね』と、決めてみたり。人が多い街中での出店も考えましたが、メリットとデメリットをじっくり検討してここを選びました」

お姉さんとの共同経営の話はなくなったものの、鵜飼さん以上に飯綱での暮らしを望んでいた当時のご主人の理解と協力もあり、念願の「中寿美」をオープンします。

提供するケーキもカレーもすべて鵜飼さんの手作り、コーヒーも1杯ずつ丁寧にドリップします。大きな書棚には大好きな本を並べ、外の景色を眺められるように大きな開口部も設けました。ゆったり、ゆっくり。そんな言葉が似合う空間です。

ケーキは日替わりで数種類を用意。写真は、やさしい甘み&果実の酸味&しっとりふんわり食感のブルーベリーシフォン

励ましと救いの手に支えられて

ところが、お店も飯綱暮らしもこれからという時に、予期せぬ大きな壁が立ちはだかります。

「オープンして1年余りで離婚することになってしまって…。精神的ダメージが大きかったうえ、慣れない山の暮らしと始めたばかりのお店のやりくり、現実問題として資金面での負担も大きくて、頭の中が真っ白になりました。好きで造った空間に独りで身を置いていても苦痛しか感じられませんでした」

心身ともに追い込まれ、逃げるようにして実家に身を寄せた鵜飼さん。「もう店は続けられない。ひとりでは無理」と、望まずとも諦めの気持ちに心が支配されます。

それでも、飯綱で知り合ったご近所さんやすでに常連になってくださっていた方から、心配の声や励ましの手紙が届くと、少しずつ心境に変化が現れます。

「最初は、どんなに温かな言葉をいただいても、勝手なことを言わないで! なんて思っていました(苦笑)。でも、応援してくれる方や待っていてくさださる方がいるのって嬉しいものですね。しばらくして、いずれダメになるのなら、やれるところまでやってみようと考えられるようになりました」

覚悟を決めたら、1日1日を全力で過ごすだけ。お姉さんのアドバイスもあり、資金面で苦しくても副業を持たずに店の経営に集中しました。そして、そんな鵜飼さんにあちこちから救いの手が差し伸べられます。

冬季の必需品は除雪機、雪かき、薪ストーブ。「ゆらゆらと揺れる炎を眺めていると、嫌なことを忘れられる気がします(笑)」

「飯綱の方って本当にやさしくて、人とのつながりをとても大事にしてくださるんです。お店を再開した時は特に大変だったのを察してか、山での暮らし方を教えてくださったり、野菜や薪の原木を分けてくださったり。たくさんの方にいろいろな場面で助けていただきました」

こうして周囲の支えも得て、鵜飼さんは何とか大きな壁を乗り越えます。
後になって振り返ってみると、その困難もまた、大切な人々との絆を深め、支えや協力への感謝の念を強くするきっかけになったのかもしれません。

「手間はかかっても自分の手で作ったものを提供したかった」と、調理もコーヒーのドリップも独学で習得

人が集い、出会いをもたらす場に

飯綱高原には、この地を気に入って移り住んだ方が多く、お互いに共感・共有できることが多いそうです。鵜飼さんは、そうした方々とのつながりや「中寿美」によってもたらされる出会いを大切に、そして感謝の気持ちを忘れずに日々を過ごしてきました。

「ご近所さんやお客様にとって、ここがご縁をつなぐ場所、ホッとできる場所になれば嬉しいです。ここで出会って知り合いになるとか、ここに来れば知っている人に会えるとか。毎日誰かがお茶を飲みに訪ねて来るのが当たり前だった、実家のような雰囲気をつくりたいです」

格好を付けず、素のままでいられる。人を歓迎することを最優先に考えられる。鵜飼さんが目指しているのはそんなお店づくりであり、生き方なのです。

「過去いくつかの仕事を経験しましたが、今が一番本来の私でいられます。以前はなりたい自分になろうと頑張り過ぎていました」

また、山あり谷ありの月日を経て、気付いたことがあるそうです。それは、人は1人では生きられないということ、誰かと関わって支えたり支えられたりしてこそ生きられるということ。そして、人とのつながりを感じられることがいかに幸せか、ということです。

店内の手描きメニュー。夏の繁忙期にのみ手伝いを頼む程度で、普段は鵜飼さん1人ですべてをこなしている

「もちろん、いい事ばかりではないと思います。人と人は関わりが深ければ深いほど、時に面倒なことにも遭遇します。でも、それらも含めたここでの暮らしには、都会や街中での生活では得られぬ心の豊かさや人の温もりが感じられます」

ところで、人とのご縁と言えば、鵜飼さんは特別な方との出会いも経験しています。それは、現在のご主人との出会いです。

「彼は私が移住する前から飯綱に住んでいた人なので、逞しい山での暮らし方を実践していてとても頼りになる存在です。いろいろありましたが、それもまた運命。これで本当に良かったと、今は思います」

そう語る鵜飼さんの笑顔は、なんだかとても温かくて美しくて–。
真の豊かさを知るとは、こういうことなのかな。と、ふと思ったのでした。

塗り壁に木の床、大きな書棚に薪ストーブ。温かな雰囲気の店内は居心地が良く、長時間滞在される常連さんも多い

(2016/02/05掲載)

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会える場所 café中寿美
長野市大字上ヶ屋字麓原2471-1127
電話 026-239-1250
ホームページ http://cafenakazumi.web.fc2.com/
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