No.262
小川
泰祐さん
小川醸造場 4代目
みそは子守をするように、
丹精を込めて造り出す
文・写真 くぼたかおり
毎年11月に開かれる「全国味噌鑑評会」は、各都道府県から400点以上もの味噌が出品されます。2012年の鑑評会では最高の賞にあたる「農林水産大臣賞」を受賞した小川醸造場は、県内でも特別小さな味噌蔵です。
絵描き志望の青年が、家業を継ぐ
りんご栽培などが盛んな長野市津野にある「小川醸造場」。そのはじまりは定かではなく、明治18(1885)年にはすでに麹造りをしていた記録が残されています。
かつては麹の知識を生かして、冬の間だけ県内外の蔵を借りて日本酒造りをしていました。しかし出稼ぎの仕事も年とともに大変になり、初代の小川順作さんが自分でみそ、醤油造りを始めたのではないかといわれています。
4代目の泰祐さんは若いころ、家業を継ぐことに閉塞感を覚え、自由を求めて多摩美術大学へ進学し、油絵を専攻していました。しかし卒業を間近に控えて現実と向き合った時、「絵で食べていけるのか」と考えるように。そして家業を継ぐために、小諸にある醸造業を営む会社に就職してさまざまな知識を身につけました。
「絵から味噌造りというと接点が無いように見えますが、『醸造は芸術なり』という人がいるように、何かを生み出すという視点では通じるものがあるんです」
麹蓋に押されている「順代」の焼き印は、初代順作さんが考案したもの。最近になってその焼き印を見つけたことから、新調した麹蓋にも引き継いでいる
信州の環境にあった大豆・ナカセンナリを使ったみそ
小川醸造場のみそは”米みそ”に分類され、その名の通り米が原料の米麹に大豆、塩を配合して造られます。
まずは米を精米・洗浄し、水に一晩つけます。その後蒸した米に種付をし、40~45時間ほどかけて目的とする米麹を造ります。大豆も同様に水に一晩つけてから蒸煮(じょうしゃ)し、米麹、食塩を加え、発酵・熟成させていきます。
「一番気を遣うのは、仕込む時です。一度に大量の米や大豆を使うので、失敗は許されません。大きな工場なら機械で管理するのでしょうが、私どもは経験によって培った温度、手触り、香りなど五感をフルに働かせたみそ造りをしています。想い描くみそが出来るように”子守り”をするような感じかな」
使用する大豆は、昭和50年代に中信農業試験場で開発されたナカセンナリ(仲千成)という品種です。なめらかさと甘みがあるこの大豆を気に入り、現在では自家栽培もしています。この辺りは農業が盛んな地域ですが、高齢化により遊休農地が増えています。小川さんはそういった土地を借りて、ナカセンナリの栽培に励みます。
「朝陽を眺めながら、畑仕事をする。年を重ねるとともに、そんな時間が最高に思えます。これって農耕民族のDNAなのかな」
千曲川沿いに整然と並ぶ大豆は青々とした葉が茂り、周辺の農家や散歩で歩いている人から「まるで北海道の大地みたい」と言われるほど、美しい風景を作り出しています。
8月になると紫色の花を咲かせるナカセンナリ。取材時はまだ花は咲いていなかった
みそ造りは地味な作業の連続。モチベーションを維持するには
小川醸造場のみそは現在までにさまざまな評価を得てきました。2012年には「全国味噌鑑評会」で「農林水産大臣賞」を、昨年は4度目の「食料産業局長賞」を受賞しました。
「会社という組織にいれば、いつでも誰かが何かしら評価をしてくれます。しかし個人の場合、そういったことがありません。製造現場中心の生活になりがちで、実際にみそを購入してくださるお客様の評価も届きにくい状況なんです。私にとって鑑評会は、自分の醸造技術の向上とモチベーションを維持するためにとても大事なんです」
1年に1度開かれる県や全国の鑑評会では、全国からみそ造り職人が集まります。現状報告から技術情報の交換をすることで、より良いみそ造りをしようと思えるそうです。
工場の一角には賞状の数々が飾られている。受賞歴を自慢するためではなく、あくまで自身のモチベーションのためにあるという
「材料が麹、大豆、塩だけ。シンプルだからこそ、良し悪しがはっきり出るんです。だからこそメインとなる大豆にはこだわっています。自家栽培から一貫して食を追求する。これが自分のスタイルに合っているようです」
みそは、毎日の食卓に欠かせない調味料のひとつです。日本人になじみのあるみそ汁こそ、その良さが感じられるものだと小川さんは話します。
「ありきたりだけど、たくさんの人に喜んでもらえるみそをこれからも造りたいですね」
小川さんのみそは自身の人柄のように、味わうたびにほっと安心できるまろやかさを感じます。
屋号から付けた「まるこ味噌」と「地大豆みそ」
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会える場所 | 小川醸造場 長野市津野672 電話 026-296-9419 |
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