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No.261

櫻井

群晃さん

出版&美術企画 桜華書林 オーナー

35周年を迎える小さなギャラリーから
可能性を秘めた若手作家の作品を発信

文・写真 島田浩美

住宅街にある自宅兼の小さなギャラリー

長野市川中島の住宅街にある「出版&美術企画 桜華書林」は、オーナーの櫻井群晃さんが特別な思いを込めて本を制作・出版したり、絵画や彫刻、陶芸といった現代美術の企画・展示・販売をしている自宅兼の小さなギャラリーです。

大きな看板もなく、知る人ぞ知るといった佇まいですが、実は今年でオープン35年。これまでに若かりし頃の奈良美智に注目して展覧会を行ったり、まだまだ認知度が低い存在であった草間彌生の作品展示を行ったりと、先見の明を持った展開をしてきました。

「展示する作家は、基本的に僕が好きな人です。それに、すでに世に名前が出て売れている作家は僕が紹介しなくてもいいわけで、おもしろい作品をつくるけど食わず嫌いの人がたくさんいるような作家の作品を展示するほうがおもしろいと思って始めたんです」

そう話す櫻井さんの審美眼は、実はどこで修業を積んだり鍛えられたりしたわけではありません。「子どもの頃から美術作品の周辺にいることや展覧会に行くことが好きだった」ことから磨き上げられたものです。

そんな美術好きな青年が出版やギャラリーを手がけるに至った経緯は、どのようなものがあったのでしょうか。

長野市川中島の住宅街にある「出版&美術企画 桜華書林」。大きな看板等はないので、うっかりしていると通り過ぎてしまうことも

限定本発行から若手作家を支えるギャラリーへ

桜華書林を始める前の櫻井さんは、家庭の事情から、父親の実家が営む上田市の老舗小売酒屋で、妻・園子さんと酒屋を営んでいました。その後、紆余曲折を経て31歳の時に故郷の長野市に戻り、1年間をかけて何かおもしろそうな仕事を探そうと人生の”浪人生活”へ。そのなかで、本を読んだり集めたりすることが好きだった共通の趣味を持つ年長の友人とふたりで小さな出版社を起業することになりました。

「出版社といっても大量部数の出版物を発行するのは大変だから、少ない部数の”限定本”を作ろうと考えたんです。当時、日本には限定本のコレクターが300人いるといわれていたので、その10分の1、30人分くらいの本を作ればいいと思ったんです。それが、『書肆科野(しょししなの)』でした」

桜華書林の活動を始めた数年後に、自宅に溢れる本を整理するために書庫をつくることをきっかけに新設したギャラリー。取材時には、ユーモラスな絵付けと組み合わせが特徴的な長野市出身の若手陶芸家・谷田真美の作品展が開催されていた

限定本で発行したのは、いずれもふたりが好きな小説家や随筆家など。そのなかでも装丁などに興味を持っている作家の書き下ろし作品です。「あなたの作品が好きだから本を出版しませんか」と作家に直接声をかけて実現したそうで、最初に発行したフランス文学者・澁澤龍彦の限定本には長野市の画家で池田満寿夫の畏友である岡澤喜美雄の挿絵を、続いて発行した福永武彦の本には奈良県出身の銅版画家・木村茂の作品を挿入するなど、常に文字と挿絵をセットにして制作しました。

「そうした活動を5年ほど続けるうちに、次第にブームに乗って大手出版社も限定本を出すようになったり、僕自身も挿絵を描いてもらった美術家たちの作品自体を紹介する美術企画のほうに軸足が移ってきたんです。そこで、それぞれ別々に活動をしようということになって『出版&美術企画 桜華書林』が生まれました」

櫻井さんが好きな_作家に直接声をかけることで制作が実現してきた限定本たち。山の文芸誌『アルプ』の主宰だった串田孫一や、同誌に長年、草木随想を寄せていた女流作家宇都宮貞子、文芸評論家の源 高根など、貴重な作家の書籍が多い

出版物に関しては、数十部の限定本では限られた人のところにしか届かなかったことから、1000部ほどを発行する形にシフト。美術企画については、最初の6~7年間は長野市街地にある施設のフリースペースを使って展覧会を企画していましたが、自宅の改装に伴ってギャラリースペースを新設し、現在の桜華書林の形ができあがりました。
こうした企画は1つひとつが失敗と成功の連続。やっと「この仕事で食べていけるかな」と思ったのは、桜華書林という形で始めてから3年ほど経った40歳の頃だったといいます。

「その頃になって、ようやく僕のことを『なんだかおもしろいことをやっている』と喜んで認めてくれる人が出てきたんです。その多くは長野市近郊の女性客で、それまで全く絵を買ったことがない人たちでした。絵を買うおもしろさや作家との交流の楽しさを知ったんでしょうね」

草木や山村の暮らしにまつわる書籍を多く出版している宇都宮貞子と、長野市でイラストレーター、型染作家として活躍する宮沢千賀の版画による作品集。装丁など細部にも櫻井さんのこだわりを感じる

しかし、「いつまでも特定の顧客ばかりで商売をしているわけにもいかない」と思ったことに加え、ある頃から「30歳くらいの作家の展覧会をやろう」と考えたという櫻井さん。

そうして、開催した作家のひとりが、今や世界に名を馳せるようになった奈良美智です。30歳当時の作品は1点2~3万円。その金額ならば若い人も手が届きやすいということもあり、客層は広がっていきました。ほかにも、国立近代美術館で個展を開催したり、現在は多摩美術大学の教授を務めるなど、桜華書林で若い頃に展覧会を企画した作家のなかには、全国区以上に活躍している人が多くいます。「種をまいて水をやり、花が咲くまでの過程がおもしろい」それが櫻井さんの考えなのです。

「作家たちを見ていたら、学生時代から苦労して制作を続けて30歳くらいになると、自分の基礎が確立できてきて、そこから次のステップにいくための10年が大切な時期じゃないかと僕は考えました。そこで、30歳から10年かけて全国区になれる作家の企画展を開催することにしたんです」

公益財団法人・八十二文化財団の主催で3年に1回、八十二銀行本店に併設の「ギャラリー82」で開催される「メタモルフォーシス」は、長野県にゆかりのある39歳までの若手芸術家を紹介する企画展。櫻井さんの提案によって始まった(写真提供:公益財団法人・八十二文化財団)

35年を節目に、さらなる挑戦へ

そんな桜華書林も今年でオープン35周年。櫻井さんは、このタイミングを節目に「来年36周年に向けて、原点に戻ってみようかな」という思いがあるそうです。原点、それは本づくりです。

「作家の展覧会を行うことは、それはそれで大切なことだけど、本は基本的に何年も先まで形に残ります。これまで自分がやってきたことをチェックする意味も含めて、もう一度、出版物をきちんと出すことに力を入れようかなと思っています。それに、うちで展覧会を開催した若手作家が将来、全国区になった時に、本や出版物を見て『こういう機会を経て自分が世に出てきた』と思ってもらえたら、そちらのほうがおもしろいでしょう」

また、展示会に関しても、ほかの施設になんらかの企画を提案し、長いスパンで展示をしてもらう方向に少しずつ切り替えていこうと考えているそうです。そのひとつが、今年9月に開催される彫刻家・青木野枝の展覧会での小さな試みです。展示は今まで通り桜華書林で行うものの、長野県企画振興部地域振興課の協力を得て、長野市東町の貸しホール・SHINKOJIホール(http://rifare-web.com/)での企画を考えています。

2011年から始まった「メタモルフォーシス」の次回開催は2017年の予定。松本市や上田市での巡回展開催の話もあがっているそうだ(写真提供:公益財団法人・八十二文化財団)

「ここでは、昨年3月まで信濃美術館副館長を務めていた横山勝彦さんと青木野枝さんの対談を考えています。こうした働きかけをすることで、今まで桜華書林に来てもらったことがない人にも足を運んでもらえ、彼らに新しい世界に出会ってもらえる機会になるのではないかな。さらに今後は、作家の公開制作や共同作業も含めた提案も考えていて、今までとちょっと違う苦労をしてみようかなと思っています」

現在の日本国内美術業界の景気は低迷気味で、マーケットは中国や東南アジアに広がっているそうです。だから、お金儲けだけを考えるなら海外のアートフェアで販売すればいいはず。しかし、櫻井さんは「クリエイティブな苦労をするほうがおもしろい」と考えるのです。その背景には、未知の可能性をもつ若手作家をサポートしたいというより「感性を共有したい」という思いがあります。

「若い人の感性というのは言葉じゃない。その作家との交流や作品を通じて、僕は感性をつかむことができると思っています。それは、作家を応援というより感性を共有したいという考えなんです。欲張りなんですよ。ただ、以前は10年かけて若手作家を育てるとのんびり構えていたけど、もうそんなに待っていられないから、新しく出会った作家たちには5年のうちに全国区になってくれと言っていますけどね(笑)」

常に新しい感覚の美術作品を求め続け、今年、74歳を迎える櫻井さん。その精力的かつ独創的な挑戦はまだまだ続いていきます。

これまで桜華書林で展示をしていた若手作家・樋口佳絵は、2013年から桜華書林が企画協力する形で、軽井沢現代美術館で展覧会を開催している

(2015/08/18掲載)

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会える場所 出版&美術企画 桜華書林
長野市川中島町上氷鉋1248-5
電話 026-286-2091
ホームページ http://www12.plala.or.jp/oukashorin/
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