No.192
小山
紗地穂さん
和菓子 豆暦店主
季節感を大事にした
かわいらしい和菓子が並ぶ
文・写真 Takashi Anzai
遊び心あふれる見た目も楽しいお菓子
上生菓子の彩りの美しさや上品な甘さが、お茶のお供や贈り物として人気を集めている和菓子店「豆暦」。どら焼きや干菓子も美味しいのはもちろんのこと、見た目もかわいらしいため、ついつい手が伸びてしまいます。
和菓子の世界は力仕事が多いことなどから、女性の職人は多くありません。店主の小山紗地穂さんも、体力的には大変だと苦笑いしつつ、その仕事を楽しんでいます。
「和菓子は季節を追うのも楽しいですね。あ、あの花が咲いているから、明日つくってみようとか。どら焼きは定番なんですけど、焼き印だけは暦や季節などに合わせてしょっちゅう変えています」
その日、買い求めたどら焼きは雪だるまが焼き印されていましたが、つい先週までは正月のお祝いということで富士山でした。他にも、一寸法師など昔話をモチーフにした上生菓子などもつくっていて、その遊び心も人気を集める理由の一つです。
かつて「成金まんじゅう」を焼いていたカウンターは、そのまま残され、現在は小山さんがどら焼きを焼いている
人気だったまんじゅう屋をリノベーション
豆暦がオープンしたのは2013年8月のことですが、実はこの建物、約20年前まで「成金まんじゅう」というちょっとした名物を売っている和菓子屋さんでした。成金まんじゅうは閉店するころまでずっと30円で売られていたそうで、今でも懐かしい思いを胸に豆暦を覗く人も多いようです。
「開店してから1年間は毎日のように、成金まんじゅうが復活したと思った方に『売っていないの?』と尋ねられましたよ(笑)」
小山さん自身も、もう1つの名物だったかき氷を食べた思い出があり、写真も残っているそうです。
小山さんがこの店を借りることになったエピソードには、不思議な縁を感じずにはいられません。まだ独立を考え始めたばかりのころ、小山さんは散策していて、ふとこの店のことを思い出し、空き家になっていた店の前に立っていました。すると偶然、隣人が出てきて、会話が弾んだそうです。
「和菓子屋をやりたいというような話をしたら、大家さんの電話番号を教えてくれたんです。それまで、他にも借りたいという人はいたみたいなんですけど、私がやりたいのが和菓子屋だったこともあって、すぐに貸していただけることになって、それから事がとんとんと進みました」
かつて、おばあさんがおまんじゅうを焼いて手渡していたカウンター。今は小山さんがどら焼きを焼く姿が見られます。
季節感を大事にしている上生菓子。売り切れになる日も多い
重労働を上回る楽しさ
小山さんは戸隠の出身。お菓子作りの道に進むきっかけは、小さいころから習っていた茶道でした。
「飽きないように、辞めないように、と先生が考えて、全国各地のお弟子さんが送ってくるお菓子を出してくださったんです。それが毎回、楽しみでした。家では、洋菓子はつくっていたんですけど、和菓子はそう簡単につくれなかったので、ちゃんと勉強するなら和菓子を選ぼうと思いました」
高校卒業後、和菓子の専門学校へ進学。前述のとおり、女性には体力的には厳しい重労働のため、入学時8人いた女子は卒業時5人ほどに減っていたとのこと。
「砂糖や豆の袋は30キロ単位ですから、それが持てなければはじまらないわけです(笑)。私は楽しいから続けられましたけど」
卒業後は、京都の「鍵善良房」と名古屋の「芳光」といった有名店でそれぞれ3年余り働きました。
その後、地元で開業しようと帰郷し、前述の不思議な縁により、思っていたより早く豆暦をオープンさせました。
人気のどら焼き。ふわふわした食感が人気。焼き印もかわいらしい
季節を感じられる長野で
長野市で開業した理由は、家族など手伝ってくれる人が多かったこと、そして季節を強く感じられる環境だからだそうです。
「名古屋や東京にいたときは、あまり季節を感じなかったんです。お花もそんなに咲いていない。信州だとそこらじゅうにいっぱい季節を感じられるものがあるので、和菓子をつくるのにはいい環境だと思います。細部まで知らないとつくれないことも多いので、イメージはしやすいですね」
独立してからは、よりいっそう材料にもこだわりを持つようになりました。
「せっかく和菓子なのに、お砂糖や小麦粉が輸入物というのは嫌でした。それに、日本のものなら、辿っていけば生産者までわかる。海外だと常識も全然違うので、できるだけ国産、可能であれば生産者の顔が見える県内産を使うようにしています」
オープンから約1年半が経とうとしています。あっという間だったと振り返りながら、小山さんは先を見据えます。
「せっかくなので、長野市の名物になるようなものがつくれたらいいなと思います。何年もかかりそうですけど(笑)」
豆暦は中央通りを西に一本入った路地にあります。その通りには、ここ数年でレストランやカフェ、ゲストハウスなどが次々と開業し、活気を取り戻しています。かつて30円のおまんじゅうが人気を集めた店で、若き和菓子職人がどら焼きを焼く姿は、その象徴のような光景だと思えるのでした。
かわいらしくリノベーションされた店舗。窓からは小山さんがまめまめしく働く姿が見られる
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会える場所 | 和菓子 豆暦 長野市西町1042-2 電話 026-219-2629 ホームページ https://www.facebook.com/mamekoyomi |
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