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No.475

徳永

直考さん

Groover Leather代表

信州のジビエレザーを通じて地産地消の持続可能な取り組みを

文・写真 島田 浩美

近年、長野県で普及に力を入れている信州ジビエ。肉はジビエ料理として広く親しまれるようになりましたが、皮であるジビエレザーはほとんどが廃棄処分されているのが実状です。しかし、鹿革は柔らかくて繊維のきめが細かく強度があり、日本では古くから武具や衣類に使われてきました。そんな信州の野生鹿の皮を長野県内でなめし、製品に加工して商品化する地産地消のサステナブルなプロジェクト「信州鹿革エシカルプロジェクト」がスタートしました。活動を進めるのが、レザークラフト工房・Groover Leather(グルーバーレザー)の代表、徳永直考さんです。

使いやすく、長く愛されるためのギミックにこだわった革製品

Groover Leatherは2017年に徳永さんの出身地である長野市篠ノ井で開業しました。2021年には、それまで別々に行っていた自社製品の製造とOEMを一ヵ所で手がけるべく、より大きな店舗兼工房を千曲市に設立。現在は全従業員7名と、北信地域の革細工の工房としては最大級の規模を誇っています。
 
千曲市稲荷山にあった元福祉系カフェの跡地に移転オープンしたGroover Leather
▲千曲市稲荷山にあった元福祉系カフェの跡地に移転オープンしたGroover Leather
 
Groover Leather
 
グルーバーとは革を削り取って手縫いステッチの縫線ガイドを引く道具。通常は革の表面にラインを引きますが、Groover Leatherでは表面をより美しく仕上げるために革の裏側にグルーバーを使い、そこに糸を沈み込ませる独自の技術を編み出しました。また、Grooverには“イカすやつ、格好いいやつ”という意味もあります。そんな言葉を店名に冠した由来からもわかるように、こだわりの技術とデザインがGroover Leatherの魅力です。
 
革の裏側にグルーバーを使ってラインを引く。グルーバーにもいくつか種類があり、加工によって使い分けている
▲革の裏側にグルーバーを使ってラインを引く。グルーバーにもいくつか種類があり、加工によって使い分けている
 
代表的なテクニックのひとつが「隠しスタッズ」。一枚革の銀面(表面)を薄く裂き、革と革の間に星型スタッズを打ち込んで再び張り合わせ、一枚革にすることで、スタッズが内側から浮かび上がる技法です。
 
隠しスタッズ
 
「隠しステッチ」は、革の内側から縫製し、表側からステッチが見えない製法。よく触る角に糸がほつれやすいステッチがないため耐久性に優れています。
 
「隠しステッチ」で縫製した財布。糸がほつれる心配がなく長持ちする
▲「隠しステッチ」で縫製した財布。糸がほつれる心配がなく長持ちする
 
「さらに手が触れるところは強度が増すようにヘリ返し(革を折り返す技法)をしたり、小銭を取り出しやすいようにしたりと、細かいこだわりやギミックは商品ごとにあります。それでいて、例えばお財布であれば、中をミシンで縫って外は手縫いにするなど余計な手間をかけているところは省き、合理的な製法で金額を抑えるよう工夫しています」
 
細かいこだわりやギミックは商品ごとにあります
 
小銭入れは底面に段差をつけて小銭が取り出しやすいデザインを考案
▲小銭入れは底面に段差をつけて小銭が取り出しやすいデザインを考案
 
こう話す徳永さんは、もともと千曲市にあった人気アメカジブランドが展開するレザー製品の工場長として、立ち上げから12年間、事業を牽引してきました。若かりし頃は、建設会社を経て家具職人として働いていましたが、趣味の大型バイク、ハーレー・ダビッドソンがきっかけで、レザークラフトを手がけるように。そして、前職のアメカジブランドが開講していたレザー教室に通ううちに、同社の革製品工場立ち上げに際して入社を誘われたと言います。
 
「工場をなんとかかたちにしてほしいと、ひとりで全部任されました。商品構成やデザインからこだわりまで考えるのは大変でしたが、かえって自分のやりたいように提案できたのがよかったですね」
 
結果的に半年ほどで販路が拡大し、ひとりでは手が回らなくなったことから、かつての建設会社時代の同僚だった原山純一さんを職人として招き、ふたりで事業を進めていきました。次第に時代の流行も後押しし、オーダーは常にパンク状態になるほど人気に。工場で働くパート従業員が20人を超えるまでに成長しました。
そして、会社のデザインの方向性がアメカジから変化したこともあって独立を決意。2017年、原山さんとともにGroover Leatherを開業しました。
 
徳永さんとともに独立した原山さん。現在は徳永さんが考えた商品のデザインを原山さんがかたちにしていく
▲徳永さんとともに独立した原山さん。現在は徳永さんが考えた商品のデザインを原山さんがかたちにしていく
 
高い技術力でオーダーメイドの受注も多いほか、アパレル系のOEMも着実に増えている
▲高い技術力でオーダーメイドの受注も多いほか、アパレル系のOEMも着実に増えている
 

品質も価格面も納得の信州鹿革との出合い

そんな徳永さんがもともと国産のジビエレザーに抱いていた印章は「傷が多く、とてもではないが商品として使えないもの」だったそう。
 
「前職時代に営業先からサンプルとして持ち込まれた鹿革が、なめしの工程上で傷がついているように見えたので、ジビエの皮は加工が難しいという固定観念を持つようになりました。牛革のいいところは、食肉加工の副産物であり、品質も安定しているところです。だから、ジビエの副産物である鹿革も、品質がよくなければ消費者に長く愛着を持って使ってもらえず、結果的にエシカルではないという考えで、前職ではジビエレザーを使うことはありませんでした」
 
信州鹿革エシカルプロジェクト
 
独立後も、鹿革はニュージーランドで放牧されて育った品質が安定したものを使用。また、間もなくしてOEMの受注により、仕上がりがきれいな静岡県の業者のジビエレザーも手がけるようになりましたが、自社製品としては安定的な入手が難しく、なかなか商品化できない状況でした。そうしたなか、2021年10月に長野市の優れた地場産品を紹介する「産業フェア」に参加して出合ったのが、ニュージーランド産にも引けを取らない品質の信州産のジビエレザーでした。出展していたのは、長野市若穂地区の地域おこし協力隊として有害鳥獣駆除に取り組む小野寺可菜子さんです。
 
「小野寺さんは長野市内で駆除され、『長野市ジビエ加工センター』に持ち込まれた鹿の革を展示販売していたんですが、品質の高さに驚き、すぐに何枚か購入を決めました。さらに、革をなめしているのは飯田市の皮革製造メーカー・株式会社メルセンと聞き、僕らがその革で製品を作ったら、長野県内で生産から商品化まで全部が完結する。こんな面白い話はないなと思いました」
 
信州鹿革エシカルプロジェクト
 
もちろん、野生鹿ならではの個体差や傷、猟師の皮の剥ぎ方による違いなどはありますが、メルセンの最終仕上げの美しさは一級品だったそう。というのも、メルセンが主になめしているのは、ソファなど人の体に多く触れる革。色落ちや色移りは許されない分、トップの仕上がりが見事で、製造へのこだわりを感じたとか。他社にはない鹿革専用の設備があることにも惹かれたと徳永さんは話します。
 
こうして、長野市で捕獲された鹿の原皮を小野寺さんがメルセンに運び入れ、なめされた鹿革をGroover Leatherが商品化させる「信州鹿革エシカルプロジェクト」が誕生しました。
 
信州鹿革エシカルプロジェクト
 
現在は、5月26日(木)まで新商品の応援購入サービス「Makuake」にて、信州鹿革を使った小物の予約購入を受付中。また、5月12日(木)から6月15日(水)には、ながの東急百貨店本館2階のイベントステージ「ハンドメイドショップtezucuna(テズクナ)」にてGroover Leatherが出店し、鹿革のアイテムが販売される予定です。
 
Groover Leatherとしては、これまでも複数回ながの東急百貨店に出店。今年からは信州鹿革の商品も並べ、好評を博しているそう。「鹿革に意識が向くので、足を止めてもらえることが多かったですね」と徳永さん
▲Groover Leatherとしては、これまでも複数回ながの東急百貨店に出店。今年からは信州鹿革の商品も並べ、好評を博しているそう。「鹿革に意識が向くので、足を止めてもらえることが多かったですね」と徳永さん
 
徳永さんと原山さんが講師となって毎月開催している人気のワークショップでも、鹿革を使ったバッグやスリッパなどを製作している
 
徳永さんと原山さんが講師となって毎月開催している人気のワークショップでも、鹿革を使ったバッグやスリッパなどを製作している
▲徳永さんと原山さんが講師となって毎月開催している人気のワークショップでも、鹿革を使ったバッグやスリッパなどを製作している
 

プロジェクトを通じてめざすのは、世の中のちょっとした意識の変化

現在、長野県内にはジビエ加工処理施設が32施設ありますが、その多くが南信地域に位置しています。また、「信州ジビエ衛生管理ガイドライン」に沿った信州産鹿肉認証制度を受けている施設は、「長野市ジビエ加工センター」を含めてわずか3施設。捕獲からおおむね2時間以内に施設に運び込むのがよいとされていることを考えると、現状では山中で駆除され、そのまま廃棄されている個体が少なくないのでは、と徳永さんは話します。だからこそ、このプロジェクトを通じて、少しでも世の中の人の意識が変化したら、というのが徳永さんの思いです。
 
「僕らのできることは地道ではありますが、一般消費者に向けてストーリーのあるもの、愛着の持てるよりよいものを作ることで『無駄をなくそう』『ゴミひとつの分別も気をつけよう』と考えてもらう小さなきっかけになったらいいと考えています。それが何千人と広がれば、ジビエレザーの認識が高まり、世の中の関心がもっと有害駆除の対策に向かうのかな」
 
プロジェクトを通じてめざすのは、世の中のちょっとした意識の変化
 
プロジェクトを通じてめざすのは、世の中のちょっとした意識の変化
 
とはいえ、昨年10月に小野寺さんと出会い、わずか半年でかたちにしたプロジェクト。そのためにも、スタートしたばかりの今が一番大事だと言います。そこで、メディアを使った情報発信など、積極的に多くの人の目に触れる機会を活用していきたいと徳永さん。
 
「どんなに世の中のためになるプロジェクトでも、ボランティアのうえに成り立っていては、継続は難しくなります。そこで、まずは『Makuake』での販売を成功させること。そして、今後も継続してプロジェクトを進めていくために、1ヵ月40体ほどの鹿が持ち込まれる『長野市ジビエ加工センター』で出る原皮を無駄なく円滑に使えるよう、自分たちだけで手が回らなくなれば、ほかの革職人にも紹介するなど、ジビエレザーを循環させるプロジェクトにしていきたいと思っています」
 
加えて、高い技術を持ったメルセンの存在も世に広めていくことも展望です。
 
「OEMを通じて上質なジビエレザーがあることを知った静岡の業者にも、先日出会った小谷村の猟師の方にも、メルセンを紹介しました。よりよいものが流通したほうが品質に納得してくれる一般消費者が増えるので、ますます小さな意識の変化につながると思っています」
 
プロジェクトを通じてめざすのは、世の中のちょっとした意識の変化
 
近年、SDGsの取り組みに関するニュースなどが話題になり、食品ロス削減や省エネなど環境問題への意識に少しずつ変化が見られるようになりました。このように、持続可能な暮らしには、小さくても個人のアクションが欠かせません。駆除された命を地域のなかで循環させることも、限りある資源の活用に関する意識がうねりとなって次第に世の中に浸透していけば、いずれは大きな変化につながります。「信州鹿革エシカルプロジェクト」は、そのための小さな一歩。こうした取り組みが広がれば、きっと一人ひとりがアクションを起こすきっかけになることでしょう。
 
プロジェクトを通じてめざすのは、世の中のちょっとした意識の変化
 
 
Makuake「信州鹿革エシカルプロジェクト」ページ
https://www.makuake.com/project/sinca/

(2022/05/11掲載)

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会える場所 Groover Leather
千曲市稲荷山783-5
電話 026-214-9664
ホームページ https://www.grooverleather.com/

営業時間:12時~19時
定休日:火曜

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