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No.101

上市

真輔さん

日本バーテンダー協会長野支部長/エランドールオーナー

生涯、バーテンダーであり続けたい

文・写真 Chieko Iwashima

一杯のカクテル以上の価値ある時間を提供

「自分が好きな言葉に『バーテンダーは医者であり、バーテンダーは先生であり、バーテンダーは親であり兄弟であり、また恋人である』というのがあります。確かに、人生相談をされることもあれば歓喜の報告を受けることもあるし、本当にいろんなお客様がいるので、バーテンダーっていうのはカクテルを作るスペシャリストというより、接客のスペシャリストでいなくちゃいけないと思っているんです」

そう話してくれたのは、日本バーテンダー協会の長野支部長を務めている上市真輔さん。
長野市長野北石堂町にあるダイニングバー「エランドール」をはじめ、長野駅前界隈で4店舗の飲食店を経営するオーナーであり、バーテンダーとして第一線に立ち続けています。

カウンター正面の棚は上市さん自身が設計したもの。店名の「エランドール」とは、黄金の羽根という意味。芸能界で若手俳優に贈られるエランドール賞をヒントに、1枚の羽根をロゴのモチーフに使い、いつかは2枚の羽根で羽ばたけるようにと思いを込めた

「バーの世界では、一概には言えませんが原価は(居酒屋と)一緒なのに値段がちょっと違いますよね。じゃあ、何を売るのかと言うと付加価値です。それは、雰囲気かもしれないし、グラスかもしれないし、サービスや技術かもしれないし。付加価値でどれだけ納得していただけるかが重要だと思います」

その付加価値を高めるため、上市さんはお客さんの状況、雰囲気などさまざまなことを瞬時に察知します。それは初めてのお客さんであっても常連のお客さんであっても変わらないといいます。

「一度来た人も、次に来たときは状況も状態も違う別人です。飲食業って不景気になれば一番先に淘汰される世界だと思うんですが、それでもここにわざわざ足を運んで来てくださる人がいる。そこには何かを求めて来ていると思うので、その何かを提供するって考えると、難しいけどすごくおもしろい世界だと思っています」

そして、帰るときにまた来たいと思ってもらえるかどうかが一番大切だと言葉に力を込めます。

「それが難しくて、今でも毎日1人で反省会しています。毎日100%の状態で仕事をしますが、明日は101%にしなきゃいけないと思っています」

21歳から日本バーテンダー協会に加入。国際バーテンダー協会認定インターナショナルバーテンダーの肩書きも持つ

建築の世界からバーテンダーへの転身

上市さんは、建築の仕事をしていたお父さんに憧れ、高校卒業後は東京にある建築関係の専門学校に進学しました。ずっと闘病中だったお父さんは、入学式当日、息子の門出を見届けるかのように亡くなったといいます。その後、たまたま始めたアルバイトでバーの世界を知ることになります。

「バーでバイトをしたのは、単にモテたかったからです(笑)。動機はそんなことだったんですけど、やってみたら難しくて、もっとやってみたいって思いましたね。あと、親父と同世代の人と話せたので、親父代わりがたくさんいる感じでうれしかったんです。お客さんからの一言一言が僕にとってはすごく居心地が良くて温かかったんですよね」

「いつかは自分が設計したバーで働いてみたい」と、バーへの憧れを抱きつつ、専門学校卒業後は長野市へと戻り、夢だった建築関係の会社に入社。しかし、就職して1年が過ぎたころ、会社が突然倒産してしまいます。

「倒産した当日に知ったので、びっくりしましたね。でも、この道で生きる決意をしていたのに、そんな自分の意思とは違うところで勝手にその道にストップがかけられるってことは、もう縁がないんだなって思ったんです。すぐにバーで働こうと思いました」

ほかの建築関係の会社からの誘いも断り、バーテンダーとして進むことを決意した上市さんは、当時、権堂にあった老舗のバーで働き始めます。楽しいことだけではなく、苦しいこともありましたが、一つでも多く自分のものにしようという思いで働き続け、4年後には後輩の指導にもあたり、独立するまで約7年勤めました。

「あの頃、厳しく指導していただいたことが今の仕事だけじゃなく生き方にもつながっていると思います。マスターは僕が店を辞めるその日の最後の最後までみてくださった方。足を向けて寝られない恩人です」

2004年4月に「エランドール」をオープン。今年10周年を迎えました。バーテンダーという仕事で社会的にも認められようと、カクテルの大会に出場して賞を獲得したり、店を法人化して株式会社にしたりと、一つひとつを積み重ねてきた10年でした。

「10年経ってやっと一つ、自分の体にエランドールという店を取り込めた感じがしました。10周年記念のパーティーでたくさんの方に祝福していただいて、おふくろの涙を見たときは、やってきてよかったなって思いましたね。もう一回原点に帰らせてもらった感じでしたが、一方でここからだなとすごくプレッシャーを感じて…不安になりました(笑)。でも悩まなかったら伸びないし成長もないと思うので、これからも不安を抱えながらやっていきたいですね」

エランドールでは世界35国95種類のビールが楽しめる。パスタなどのフードメニューも充実。写真はベルギービール

いつまでもカウンターの中に

現在、経営している4店舗は雰囲気もメニューもさまざまですが、どの店もカウンターがあってお客さんと対面できます。それは上市さんが接客を一番に考えるからです。

「将来、自分が引退して店を閉めるときに、お客様に少しでも印象に残っていて、なんかいい店だったねって思い起こしてもらえたらそれでいいと思っています。あとは、そんな自分の思いに足並みそろえてついてきてくれているスタッフたちが、ここで働いてよかったと思えるようなことをしてあげられたらって思います」

経営者としてスタッフの後ろ盾になれれば、という上市さん。ただ、それ以上に自分は常にバーテンダーでいたいといいます。

「いつまでもカウンターの中にいたいですね。いつまでも人気者でいたい(笑)。でも、もう40歳近くになるともうぜんぜんだめ。みんな若い店員にシフトしていっちゃう。もうモテなくなったか~って。だって最初の目的はそこなんですから(笑)」

悔しそうに笑うその顔には、スタッフの成長に対するうれしさもにじみ出ていました。

尊敬する父の名前「勇」から店名を付けた系列店の「マ田力(またりき)」。ほか、「ヴァンドール」と「黄金」も、上市さん自身が客として行きたい店ということがコンセプト

「子どもが3人いるんですけど、3人が成人するときに、自分の店でお祝いのオリジナルのカクテルを作って出せたらいいかなぁっていうのが今の夢ですね。親父が死んで今一番思うのは、一緒に酒を飲みたかったってことなんですよね」

そう言いながら目を細める上市さん。

「この先何年やれるかなんて考えたこともないですけど、やれるときまでやりたいし、いつか、よくやったよねって人にも言われて自分でも思えるまでは毎日不安でいたいと思います(笑)。バーテンダーとして死ねたら本望だと思いますね」

お酒の価値を高めるバーテンダーの存在。上市さんから手渡された一杯のカクテルが、心まで満たしてくれる理由が分かる気がしました。

上市さんがバイト時代に人生で初めてお客さんに出した「ホワイトレディ」は、ジンベースのさっぱりとしたスタンダードなカクテル。お客さんにおいしいと言われたことがずっと心に響いていたという

(2014/09/25掲載)

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電話 026‐223‐1618
ホームページ http://elan-co.com/
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