No.458
岡田
義彦さん
クリエイティブ ラボ/チーム・未来のMikata プロデューサー・プランナー
持続可能な長野県を目指して、
未来をつくる若者に地域や企業・SDGsの情報を届ける
文・写真 宮木 慧美(文)、TAMATE(写真)
「長野県高校生のためのハローキャリア・ガイド」をご存知ですか?
長野県内全ての高校3年生・2年生に向けて制作されているこの冊子は、高校生に地元の企業をより身近に感じてもらい、進路選択の一助としてもらうことを目的に発行されています。
この冊子の企画・運営を行なっているのが「クリエイティブ ラボ チーム・未来のMikata」代表の岡田義彦さん。高校生に向けた地域企業情報の発信のほか、中小企業向けのマーケティングコンサルティング、地域の社会課題への取り組みとしてSDGs達成へ向けたサポートなども行っています。多岐にわたるその活動の原動力についてお話を伺いました。
社会課題をビジネスの力で解決する “ソーシャルビジネス”に可能性を感じて
長野市出身の岡田さんは、首都圏の大学を中退後Uターンし、市内の商業カメラマン事務所へ就職。その後、広告制作会社でクリエイティブディレクター・プランナー・コピーライターとして、およそ30年に渡り広告業界で活躍します。
「会社員時代は長年、マスメディアを中心とした広告業に従事していました。マーケティングやセールスライティングの力で、地域企業さんの広告・広報をサポートしていましたが、社内で新規事業の創出を担うことになりまして。さまざまな事業を検討していく中で“ソーシャルビジネス”に可能性を感じるようになりました」
ソーシャルビジネスとは、社会問題の解決を目指して事業を展開し、社会貢献を目指す取り組みのこと。地域の課題や社会問題を『ボランティア』ではなく、『ビジネス』の形で解決していくものです。
「地域にはさまざまな課題がありますが、突き詰めて考えると、すべて行き着く先には“人”がいます。人口減少・人口流出・過疎化・高齢化…。人が少なくなったから経済が落ち込むというのはよくあることです。例えば長野県の人口は、1年間に約1万人減少していますが、その人たち全員が、毎日のランチに500円を使っていたらどうでしょう?年間で18億円の市場が消えているということになるんです。
さらに、若者がUターンを考えるとき、一番不安に思うのが『自分が働ける場所はあるのか』という点です。地域の企業を減らす、業種を減らす、働いている人を減らす、ということは、地域にとっての大きなマイナス要素ですから、この現状をどうにか立て直さないと、と考えたのです」
▲長野県内の高等学校112校に配布されている『長野県高校生のためのハローキャリア・ガイド』。地元企業の紹介のほか、主な職業の紹介(職業分類)など今後のキャリアを考えるうえで大切な情報も掲載されている
いつか訪れる就職・Uターンのために 高校生と地域企業との接点をつくる
広告制作プロダクションを退職後、個人事業「クリエイディブ ラボ チーム・未来のMikata」を設立した岡田さんは、この課題を解決するための事業を立ち上げます。
「本業はマーケティングですから、地域の企業さんを元気にすることがひとつのミッションです。採用に苦労されている中小企業の声を耳にする中で、高校生のうちから地元の企業を知ることの重要性を感じるようになりました。高校生も、高校の先生も、地元企業のことをあまり知らないんですよね。三者をつなぐ出会いの場として、ハローキャリア・ガイドの制作やイベントを行うことに決めました」
「長野県高校生のためのハローキャリア・ガイド」が誕生したのは5年前。『産・官・学、そして地域のオール信州は、君たちを見守っているよ。いつでも帰っておいで!』というあたたかなメッセージとともに、地域企業を身近に感じてもらい、いずれ訪れる就職・Uターンの機会に役立ててほしいという願いを込めて制作されています。
さらに、高校生が地域企業の“生の声”に触れられる「高校生と企業とのコミュニケーション展」や高校生が地域企業の経営者にインタビューをする「長野県産業のMIRAI」など多くの機会も提供しています。
「首都圏の大学生に『卒業したら故郷に戻りますか?』と聞いたアンケートがありました。長野県出身の大学生が『戻りたい』と答えた割合は、なんと70%。全国1位でした。
もちろん長野県にはない職種や職業もありますから、自分のキャリアを一番に考えた選択をしてほしいのですが、進学や就職で都市部に行ったとしても、いずれは戻ってきてほしいと願っています。将来の『長野県に戻ってきたい』というタイミングで『長野県にも同じような職種の仕事があったな』『この経験はあの企業で活かせそうだ』と思い出してもらうためには、高校生のうちから地域企業との接点を持ってもらう必要があるだろうと思います」
▲高校生と企業とのコミュニケーション展の様子。ブースを訪れた生徒がメモを取りながら真剣に話を聞く様子が印象的。高校生と地元企業との出会いが育まれている
SDGsという世界共通の課題を軸に、若者・企業・NPOがお互いのことを知る
最新号である「ハローキャリア・ガイド2020」では、『もうひとつの働き方』として、NPOをはじめとした非営利団体への就職に関する特集記事も作成しました。
「『就職』と聞くと、営利企業で働くことをイメージする高校生が多いと思います。でも実は、地域課題の解決のために『NPOに就職する』というのも、選択肢のひとつです。よりよい地域社会を作るために必要な“もうひとつの働き方” ということで今回の特集を組みました」
この特集に登場するのが、NPOと地域・行政をつなぐ中間支援を行っている「特定非営利活動法人 長野県NPOセンター」です。
「長野県NPOセンターは、NPO法人のコンサルタント事業のほか、行政や企業、公益的な団体と地域をつなぐ活動をしています。また、国連によって採択されたSDGsに賛同し、長野県内で『持続可能な世界・社会』を実現させるための周知・浸透を目指した普及促進事業にも取り組んでいます。
NPOセンターが主催するSDGsのセミナーや出前講座では、私も講師としてお話させていただいているんです」
▲本業のマーケティングで培った経験・知識を活かし、SDGsをはじめとしたセミナーに登壇することも。SDGsを県内に浸透させる取り組みにも力を入れいている
中学校や高校で開催されるNAGANO SDGs PROJECTの出前講座に参加したり、「企業×SDGs」をテーマにしたセミナーに登壇したりと、若者や企業がSDGsについて学ぶ機会にも携わっている岡田さん。SDGsを達成するためには、地域で活動しているNPOを知ることも大切だと言います。
「NPOは、地域にも、そこに暮らす人にも意義のある活動をしています。携わっている方の熱い想いを出発点に、持続可能な地域に向けた大切な取り組みをしているのですが、その一方で、助成金によって活動が成り立っている団体も多くあります。地域にとって必要な活動なのに、助成金がなくなってしまったら?若い人の入職が望めなかったら?NPOとしての存続が危うくなってしまうかもしれません。
SDGsという世界共通の課題を軸に、若者・NPO・企業がお互いのことを知り、共通の課題に向かっていけたら、未来は変わっていくのではないかと思います」
“オール信州”で持続可能な長野県を目指す
身近なところに“課題”があったとしても、課題として認知していなければ、“解決しよう”と考える人は現れません。各地で行うSDGsに関する活動には、どのような効果があるのでしょうか。
「2019年9月以降は、長野県内の高校3校、中学2校、1つの企業と、7つの地域でSDGsの出前授業を行いました。カードを使ってSDGsを体感するシミュレーション型の講座です。
驚いたのは、幼い頃から地域に根ざした教育を受けてきた、ある地域の子どもたちが、そのゲームでかなりの高得点を獲得していたことです。地域に愛着を持つような経験・学習・大人との関わりの中で『持続可能な地域』への素地が出来上がったのではないでしょうか」
▲SDGsについて学ぶ出前授業や、高校生を対象としたキャリアセミナーなどを開催。さまざまな角度から、若者が“未来”について考える機会を提供している
幼い頃から地域を知ることも、高校生のうちに地元企業との接点を持つことも、ともに『持続可能な地域』への第一歩なのかもしれません。若者に選ばれる地域・企業になるために必要なこととして、岡田さんは“知ってもらうこと”そして“ファンになってもらうこと”を挙げてくれました。
「若者を長野県のファンにする、というのは私の目標のひとつです。
長野県は本当に魅力的な場所ですよね。四季がはっきりしている気候や豊かな自然、庭先で収穫の喜びを感じられる環境、元気に活動している高齢者が多い長寿の県など、枚挙にいとまがないほど。
さらに地域に素晴らしい企業、頑張っているNPOが多いことも魅力ですが、それらを広報・宣伝しなければ、周りの人は誰も知らない、ということになりかねませんし、ファンは増えません。マーケティングの視点から、そのサポートをしていくのが私の役割だと思っています」
高校生と企業・NPOの出会いの創出や、SDGsの普及活動、マーケティングなど…さまざまな視点から活動を続けている岡田さんですが、どのような“理想の未来”を描いているのでしょうか。
「私の原点は『長野が好き』ということ。地域がさらに良くなれば、『ここに住みたい』と移住者が増え、若者の流出も止まりますよね。
例えばSDGsの普及活動を進めているのは、SDGsを理解する人が増え、SDGsに取り組む企業への評価が高まることを期待しているから。企業の価値が高まり、その製品が正しく評価され、たくさん購入されると経済が回っていきますよね。さらにその企業のファンが増え、就職する若者が増えていくかもしれない。企業が存続できることに加え、持続可能な企業・地域がどんどん増えていく……。そういう流れを生み出すことが理想です」
さらに、SDGsは企業や行政だけが取り組めば良いというものではないと言います。
「SDGsは、最終的には私たち県民が、自分ごととして行動していかなければいけない課題です。SDGsを理解し、行動に移す人が増えることで、私たちの声から『長野県産木材で建てられた庁舎』や『持続可能なエネルギーで暮らせる長野県』が誕生するかもしれません。そうするとさらに、この地域の魅力が増していきますね。長野県が持続可能な地域となることを願って、これからも活動を続けていきます」
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