No.454
村上
潤さん
「ONE NAGANO EATS」配送業務担当「村上商事」代表/「長野グランドシネマズ」副支配人
地域に根ざした飲食デリバリーサービスでまちに新たな文化とにぎわいを
文・写真 島田 浩美
仲間の雇用を守りつつ、地元飲食店の可能性を広げるデリバリー事業
新型コロナウイルスの影響により、テークアウトやデリバリーに乗り出す飲食店が相次いでいます。そうした店と消費者をつなぐべく、立ち上がったのが「ONE NAGANO EATS(ワンナガノイーツ)」。インターネット上で料理の注文ができるWebサイトです。
購入者はサイト上に登録された長野市内の飲食店の料理をオンラインで注文でき、注文時にデリバリーかテークアウトかを選べます。支払いはクレジットカードでの事前決済なので、現金のやりとりによる間違いもなくスムーズ。5月初旬からのトライアル運用を経て、このたび、6月10日に本格的にサービスを開始しました。
飲食店に代わって購入者に料理の配達代行サービスを行うのが、村上 潤さん。本業は、長野市のシネマコンプレックスである「長野グランドシネマズ」の副支配人です。その村上さんが「ONE NAGANO EATS」のメンバーに加わった背景にあるのは、新型コロナウイルスの影響により刻々と変化する職場環境への危機感と、ともに働く仲間の雇用を守りたいという使命感でした。
「映画館の来館者も少なくなり、学生や主婦のアルバイト雇用が難しくなってきたなかで、今まで会社のために頑張ってきてくれたスタッフをこのまま見送るのは不甲斐なく感じたのです。そこで、新たな事業を始めれば雇用も生み出せるのではないかと考え、思いついたのが、飲食デリバリーサービスでした」
▲長野市権堂町の大通りに位置する「長野グランドシネマズ」
社長からも副業としての起業の後押しを受けたことで、配送業務を行う個人事業主として「村上商事」を設立。事業者名に、村上さんのユーモアを感じます。
そして、まずはアプリやWebサイトを作るために相談したのが、以前からの知り合いであり、WiFiスポットのシステム開発やネットワーク構築を手がける「株式会社ライフシード」代表取締役の篠田光宏さんでした。
すると、篠田さんから、村上さんと同じように料理のデリバリーを考えている市内の飲食店オーナーたちを紹介され、何人かの仲間が集まって「ONE NAGANO EATS」が誕生しました。
▲「ONE NAGANO EATS」というプロジェクト名は、飲食店オーナーたちが2019年の台風19号の際、被災地で炊き出しやチャリティー活動をしていた「ALL NAGANOプロジェクト」が由来
4つの飲食店で開始したトライアル運用で、村上さんは配達業務担当として三輪スクーター2台と自転車を用意。「長野グランドシネマズ」のアルバイトスタッフだった学生を中心に、計4名でデリバリーを始めました。なんと、この三輪スクーターや配達用のデリバリーバッグなどの初期投資費用は、現時点では助成金などを受けておらず、すべて村上さんの自己負担なのだそう。起業への本気度が伝わります。
仲間同士でアイデアを出し合える環境が強み
「ONE NAGANO EATS」の利用でデリバリーを選択した場合、購入者は配達手数料として料理の代金とは別に300円(税別)を支払います。
「すでに大手の飲食配達代行サービスである『Uber Eats(ウーバーイーツ)』が長野市に参入することも話題になっていますが、まずはデリバリーという飲食店利用の方法を長野の人に馴染んでもらうために、使いやすくわかりやすい金額設定にしています」
▲「Uber Eats」の場合、配達手数料は注文した料理の金額の35%という設定ですが、「ONE NAGANO EATS」ではいくら頼んでも300円均一という明瞭さがポイント
6月10日からの本格的なサービス開始に伴い、店舗数もさらに3店が加わって7店舗になりました。加えて、現時点で十数件の飲食店から新規登録の応募があり、今後、随時増えていくのだそう。近いうちに20店舗ほどの登録数になる予定です。
「Webサイトの使い勝手などまだまだ改善すべきところもありますが、1回注文してもらえたら2回目以降はかなり注文しやすく迷うことはないと思うので、ぜひ一度利用してもらえたらうれしいですね」
また、「ONE NAGANO EATS」ならではの強みは、システムの基盤を提供するプラットフォーマーだけでなく、配送業者も飲食店も、それぞれが意見を出しながら使いやすいかたちへとシステムを構築していけること。
今後はアプリ化も見据え、Webサイト上には地元ライターによる利用の感想レポートを記載したり、配達代行サービスとしては、配達先での利用者の反応を飲食店側にフィードバックをしたりと、さらなる地元ならではの取り組みの強化をめざします。
「今回、新事業を始めたことで、一緒に働いてきた仲間への思いはより強くなりました。僕としては、映画館のアルバイトスタッフの雇用を作りたい、助けたいとの思いで始めましたが、逆に事業を始めると助けられていることのほうが多く、それが今の原動力になっています」
▲信州大学工学部在籍のアルバイトスタッフはプログラミングに強く、料理の注文メールが届くとGoogleスプレッドシートを経てGoogleマップに配達先を落とし込むシステムを構築してくれたのだとか
▲Webサイトもライフシードが無償で制作
さまざまな選択肢が広がることで、まちをもっと豊かに
ところで、飲食デリバリー業者としては駆け出しながら、本業の映画館スタッフは、この道20年というベテランの村上さん。全国最古級の映画館としても知られる「長野相生座ロキシー」支配人で前職の先輩でもある田上真里さんと、かつて自主上映団体「シネマライン」を立ち上げ、市内ではなかなか上映されないミニシアター系の作品の上映会を開催していたこともあります。
そして2006年、「長野グランドシネマズ」の開館を機に、同社に入社しました。
「もともと僕自身はミニシアター系の映画が好きですが、現在は我々『長野グランドシネマズ』で商業的な大手映画会社の作品を上映し、そこで拾いきれないミニシアター系の作品を『長野ロキシー』で上映してもらうことで、まちにとっては選択肢が増えていいなと思っています」
▲音楽好きとしても知られ、映画業界に入る前はCD店でも働いていた村上さん。15年ほど前からはDJとしても活動し、音楽イベントなども企画(写真提供:村上さん)
そんな村上さんは「長野グランドシネマズ」でも新型コロナ対策としてさまざまな取り組みを展開中。そのひとつが、ホテル「犀北館」の協力による企画「弁当と名作」です。密集を避けるために設けた客席の空席に広いテーブルを設置し、観客は「犀北館」の弁当をゆっくりと食べながら名画鑑賞が楽しめます。
「感染予防対策による外出自粛期間中は『Netflix』や『Amazonプライムビデオ』といった動画配信サービスで映画を観ていた人も多く、その利便性や価格に映画館は太刀打ちできません。そのなかでどう差別化し、生き残っていくか。そこで、空いた座席空間を広く使ってもらうことにしました」
▲往年の名画を鑑賞しながらホテルの豪華な弁当が楽しめるぜいたくな企画
このテーブルを活用することで、今後は映画鑑賞中の観客に「ONE NAGANO EATS」で料理を配達するなど、本業と副業をつなげる取り組みもできそうだと話します。
「当初、映画とは関係のない飲食配達業務で起業しましたが、意外と両者がつながりそうな気配を感じています。実際、欧米の映画館ではラジュグアリーな雰囲気のソファでくつろぎながら映画鑑賞を楽しみつつ、ウェイターが料理やドリンクを運んでくれるサービスもあります。長野市でも実現するかはわかりませんが、それが理想の未来になるのかな」
そのためにも、都市部のように飲食デリバリーが気軽に利用されるようになることは、村上さんのひとつの目標です。
「少しずつ変わる時代に応じて、仕事の仕方も商売も変えていかないといけません。コロナ禍でそのスピードが加速していますが、これからも頑張って時代に合わせて動いていきたいですね」
▲現在の「村上商事」の拠点は、新型コロナウイルスの影響で休業をしている長野中央通り沿いのゲストハウス&バー「pise(ピセ)」。同店が営業再開した場合はコラボ企画なども考えているそう
「今後もいろいろな取り組みを多くの人と話しながら考えて挑戦していきたい」と話す村上さんに、映画館での仕事や「ONE NAGANO EATS」でのやりがいを聞いてみました。すると、しばらく考えた後、返ってきた答えは「まぁ、好きなんでしょうね」。
たしかに「好きこそものの上手なれ」という言葉が示すように「好き」という思いはなによりの力になります。村上さんの仕事愛と、仲間や地元への強い思いを感じました。
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会える場所 | ONE NAGANO EATS 電話 ホームページ http://www.onenagano.org/ |
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