No.308
和田
幸夫さん
SUNDAY LIFE COFFE
そのスタイルはあくまで自然体。
「なんだか居心地がいい」カフェの魅力
文・写真 島田浩美
気さくな笑顔がつくりだす穏やかな空間
長野市立図書館前にある建物の一角、手作りの看板が掲げられた「FLAT BAR」。以前に「ナガラボ」でも紹介した額縁屋「FLAT FILE」のモリヤコウジさんが友人と手がけるカウンター席だけの小さなバーです。
この空間で、土・日・月曜日の朝を中心に「SUNDAY LIFE COFFEE」という屋号でカフェ営業をしているのが和田幸夫さん。2014年4月に営業をスタートさせました。
個人的に小ぢんまりとしたカフェは、店主の人柄に惹かれて人々が集まってくる”人柄系”と、徹底的にドリンクやフードメニューにこだわった”こだわり系”に二分されるのではないかと考えているのですが(いや、もちろん両方に重きを置いている店が大半だと思うのですけれど)、そういう意味で言うならば、この「SUNDAY LIFE COFFEE」は確実に前者に当たります。
ある日のこと。私が入店すると店内はすでに常連客でいっぱいでしたが、皆が自然とひと席ずつずれて座りやすい場所を空けてくれました。またある時は、楽しそうに会話を弾ませるふたりの若者が「ここで知り合って友人になった」と話していて驚いたこともあります。こんなふうに、ここには人と人がゆるやかにつながることができる穏やかな空気が流れていて、妙に居心地がいいのです。
長野市立図書館前にある「FLAT BAR」。冬場は防寒対策でドアを閉め切っているが、夏場は開放しているので店内が見渡せて入りやすい雰囲気
「お客さんは、以前から気になっていて入ってきてくれる人もいれば、通りすがりに興味本位で訪れる人もいますし、ゲストハウスに泊まっていてモーニングを食べに来る県外の旅行者も多いんです。そんなふうにいろいろな人に会えるのはとても楽しいですし、全然知らない人同士が話せるのは、この狭い空間ならではなのかな」
こう話す和田さんですが、この和やかな空間づくりに和田さんの柔らかいキャラクターは欠かせません。誰にでも分け隔てない笑顔は、隣の人との距離がギュッと詰まっていても入りづらさがない敷居の低さと懐の深さのようなものを感じます。そして、来客に気さくに声をかけ、次々とオーダーをこなす姿もまた心地がいいのです。
「この店ではほかのお客さんと仲良くなれるし、隣の人の会話を聞くだけでもおもしろくて新鮮」と常連客のおひとり。客層は同世代の男性客が多く、自前のタンブラーを持参してテイクアウトする人も
きっかけはスタイリッシュなハンドドリップの姿への憧れ
長野市育ちの和田さんは大学も県内に進学。卒業後も地元で働いていました。しかし「一度は都会に出てみたい」という憧れから、10数年前に上京。
食器の卸業に就き、週末はさまざまな街の路地から路地を歩き回って東京暮らしを満喫しました。ところが「いつまでもこのままフラフラしているわけにもいかない」との思いから、2年間の東京生活にピリオドを打ちます。
「東京は長野市からも遊びに行ける距離だから、別に住んでいなくてもいいかなと思ったんですよね。今でも月に1回は東京に行っていますが、今はその感覚で満たされています」
現在、提供しているコーヒーは「国立コーヒーロースター」のものだけだが、今後は東京の3カ所くらいのショップのコーヒーを飲めるようにしたいそう
帰郷後は、飲食業や義兄の会社で「足場鳶」の仕事などに従事しながら、次第に善光寺門前エリアの雰囲気に魅了され、「FLAT FILE」や「ひふみよBOOKS & CAFE」に通い、「ナノグラフィカ」が発行する『街並み』を愛読するようになりました。そして「いつかこの地で働きたい」と漠然と思い描くようになったある時、本で見た”ペーパードリップでコーヒーを淹れている人”のスタイリッシュな姿に魅せられて、カフェを開こうと思い立ちます。
「そこで『FLAT FILE』のモリヤさんが始めたバーが夜だけの営業だったので『昼間にコーヒー屋として店を使わせてくれないか』と相談したんです。すると、すでに別の方への貸し出しが決まっていたので諦めたのですが、1カ月ほど経ったある日、モリヤさんから『先約がなくなったから使ってもいい』と言われて、一気にオープンまで突き進みましたね」
和田さんは日中、別の場所での仕事もしており、『FLAT BAR』との兼ね合いもあって朝営業が中心のため、メニューはドリンクとトーストが中心。現在の営業時間は土・日・月曜の8時30分~17時(月曜のみ~14時)と第2・4土曜の19~22時
コーヒー豆は”東京の風を長野に運びたい”という思いと”今は地産地消が当たり前だから”という気持ちで、あえて東京のものをセレクト。いくつか店舗を回ったなかでも、もともと紅茶派だった和田さんが初めてブラックコーヒーをおいしいと感じた「国立コーヒーロースター」の豆を卸すことに決めました。
「『国立コーヒーロースター』は、直火式の手回しロースターを使って自家焙煎をしているので、豆が少しスモーキーなところと、お客さんの目の前で焙煎しているのが魅力でした。そこで2~3カ月かけて『国立コーヒーロースター』に通って、店主に『自分の店で豆を使いたい』と相談したら、大量生産ではないので国立市内のカフェ以外は卸していないのに快諾してくれたんです」
ハンドドリップのやり方は店主から直接教わり、今はそのやり方を基本に、思考錯誤した自分なりの調整を加えているという和田さん。これまた純粋に「おいしい」と感じた松川村の水を使ってていねいに抽出したコーヒーは、すっきりしていて雑味がなく、軽やかだけど力がある味わいです。飲み終わってすぐにお代わりがほしいと思えるおいしさを感じます。
湯温を確かめながら1杯ずつていねいにハンドドリップ。嫌な苦味や酸味がなくすっきりとした味わいのコーヒーが抽出される
さらなる夢に向かって一歩ずつ確かな店づくりを
そんな「SUNDAY LIFE COFFEE」、今までは土~月曜の8時30分~14時の営業でしたが、今月からは土・日を17時までの営業としました。さらに第2・4土曜は19~22時の「夜カフェ」営業もスタートさせましたが、和田さん曰く「この場所はあくまで自分の店を構えるまでの過程」だそうで、ずっとここで営業していくことは考えていないそうです。
「将来はコーヒーだけでなく、もともと集めていたアンティーク道具なども販売する『SUNDAY LIFE STORE』を開き、その一角でコーヒーを提供したいと思っています。今はその夢に向かって、月に1回、長野市東和田にある『Alter Chili’s(オルタチリズ)』というアンティークショップで出張コーヒードリップを行いながら、少しずつアンティーク関係の取り扱いも覚えています」
本は和田さんのカフェ営業スタートに大きな影響を与えた。右の銅板は善光寺で行われる「びんずる市」で知り合った山ノ内町の職人に作ってもらったもの
こうして一歩ずつ着実に夢に向かって進む和田さんですが、そもそも憧れから始まったカフェ営業。不安はなかったのでしょうか。
「どこかでコーヒーの修業などは積んで来なかったのに、やりたい気持ちが先攻していたし、昔から『なんとかなる』というスタンスでやってきたので不安はなかったですね(笑)。気持ちが前に前にと向いていました。だから、もし今、何かを始めたいという人がいたら『とりあえずやってみればいい』と伝えたいです。自分は紆余曲折して今の道にたどり着いたけど、思い立ったら若いうちに始めた方がいいですよ」
そう話す和田さんを見ていると、居心地のいい店は年月をかけてつくりあげていくものなのだと感じられます。そして、楽しそうに話す常連客からは「行きつけのカフェ」の存在がいかに人生を豊かにしてくれるかを思わせてくれました。
店内の壁面にはアーティストや常連客が書いた落書きが並んでいて、眺めているだけでもおもしろい
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会える場所 | SUNDAY LIFE COFFEE 長野市南県町477 電話 090-7170-2735 ホームページ http://ameblo.jp/19741120coffee/ |
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