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No.249

岩井

将人さん

拉麺 阿吽(あうん)オーナー

貪欲にラーメンの道を追求し
一杯の細部まで突き詰める

文・写真 安斎高志

「深く深く」掘り下げる姿勢で

鶏出汁にアサリの塩だれを加えた、あっさりしているのにコクがある塩拉麺。
脂の乗った秋刀魚節を豚骨スープで炊いた、まろやかで濃厚な秋刀魚拉麺。

つけ麺を除くと7種類の阿吽のラーメンですが、それぞれに強い個性を放っていて、多くのラーメンファンの支持を集めています。

筆者が最初に食べて感動を覚えた塩拉麺の出汁には、鶏皮のひき肉を使っているそう。他にも技術やアイディア、素材の組み合わせなど、試行錯誤の末にたどり着いた結果が一杯に詰め込まれています。

オーナーの岩井将人さんは、独立して7年。人気店として知られるようになった現在も貪欲にラーメンの道を追究しています。しかし、店を始めたころとは心持ちが変わってきたそうです。

「昔は材料とか、技法とか、そういう表面的なことにこだわっていました。自分が自分が、って感じでしたね。でも最近は、だれにどう感じてほしいのかとか、このラーメンを食べてどう思ってほしいのかとか、そういうことを第一に考えるようになりました。そうすると、そのために必要な技術や知識が見えてくるんです」

麺への探求心が膨らむ余り、小麦を育て始めたり、醤油を自分で豆から仕込んでみたり。かつては「上へ上へ」という上昇志向が強かったという岩井さんですが、今は「深く深く」掘り下げていく姿勢で仕事に向き合っています。

麺は自家製麺。太麺、細麺、中太麺の3種類。もちもちした食感がたまらない

ひたすら謙虚に、お客様に感謝して

岩井さんがラーメンの道を志したのは東京理科大の建築学科4年生のとき。しかし、そのきっかけについては「恥ずかしい話」だと苦笑いします。

「学校の勉強に付いていけなくて、4年生のときに留年が決まって。大学時代、ずっとラーメン屋でアルバイトしていたんで、ラーメン屋になろうと言い出したんですけど、現実から逃げたいという気持ちの方が強かったですね。でも今となっては、東京の大学で4年間過ごしたというのは自分にとってすごくプラスになっています。ちょうど、『青葉』とか『斑鳩』とかが出てきたころで、東京のラーメンはすごいと思いながら、よく食べましたね」

長野市に帰郷後、地元の人気店で4年ほど修業し、独立。しかし、わずか3か月で自らシャッターを閉めます。

「ラーメンのことをより深く深く知りたいという欲が出てきた。それがお客様に還元されると信じています」

「ラーメンに対する知識も技術も浅くて、やっていて恥ずかしくなっちゃったんです。商売は長くやるということを決めていたので、1ヶ月、2ヶ月閉めたところでいいだろうと。独立するとき、(修業した店の)社長から反対されたんですけど、今はその気持ちがわかりますね」

試作を重ね、メニューを突き詰めて、店を再オープンさせたときには気持ちも一新されていたといいます。

「そのときに、ただひたすら謙虚に、お客様に感謝してという今の姿勢のベースが出来ました。『自分、自分』から、お客様のために何ができるのかというふうに変わりました」

店名の「阿吽」は、お客さんを迎えるところから見送るところまで、「あ」から「ん」まで心を込めてという思いでつけた

なりたい自分に近づいてきた

独立して3年が経ち、店も軌道に乗ったころ、岩井さんに試練が襲います。火事で店が全焼したのです。

「これまでやってきて、辞めなきゃいけないかなと思ったのはそのときだけですね。でも、友達とか仲間がすぐ駆け付けて、お店の解体とかやってくれたり、『もう一回やっていいんだよ』って声を掛けてくれた。この人たちを裏切ったらいけない、この人たちが応援してくれているんだと思えたから、乗り切れましたね。頭が上がらない人が多すぎます」

現在地に移転し、店名も「将人」から現在の「阿吽」に変えました。奥さんと2人で再スタートするにあたり、阿吽の呼吸でやっていこうという気持ちと、五十音の始まりの「あ」から最後の「ん」までにかけ、お客さんが来店してから店を出るまで、心を込めて接客するという気持ちが込められています。

7月4日には、2号店「空(くう)」をオープンさせます。現在の阿吽と比べてメニュー数を絞り、小麦やしょうゆなどの材料も変え、コンセプトもひと味違ったものにします。

おすすめのひとつ、秋刀魚拉麺。どのメニューも麺、出汁、たれ、具材のバランスを大事にしている

「一杯のラーメンの細部まで突き詰めます。次の店は、餃子もないし、スープの種類も阿吽みたいには用意しませんが、乗せる野菜の温度までこだわります。出汁は、鮮魚をオーブンに入れて、そのあと6時間くらい炊きだして取ります。ひたすら出汁がうまい店です」

独立したばかりで大きく反省してから研鑽を続け、なりたい自分に近づいてきていると話す岩井さん。2号店は、阿吽より自分のやりたいことを前面に出すとのこと。これまでも十分に完成度が高かった岩井さんのラーメン。さらに突き詰めるという次のステージではどんな味で満足させてくれるのか、楽しみでなりません。

写真の小上がりのほか、テーブル、カウンターがある。学生からサラリーマン、お年寄りまで、幅広い客層から人気を集めている

(2015/06/24掲載)

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会える場所 拉麺 阿吽
長野市若里4-15-18
電話 026-225-7781

7月4日オープン 拉麺 空 長野市早苗町41-4 世紀ビル1階

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