No.421
小林
尊徳さん・由紀子さん
ピッツェリア トラットリア ラ コッタ
本場が絶賛する、日本一おいしい「真のナポリピッツァ」
文・写真 石井 妙子
長野南バイパスからほど近く。煙突と薪棚が目印の「ピッツェリア トラットリア ラ コッタ」は、長野市出身の小林さん夫妻が切り盛りするピッツァとイタリアンのお店です。中でも本場ナポリの味に惚れ込み独学で体得したピッツァは、大げさではなく一度食べたら忘れられない味わい。県内外から多くのお客様が訪れる名店を訪ねました。
旅先のナポリで出会った味に惚れ込んで
薪が燃える石窯から手早く取り出されたのは、人気のピッツァ「マルゲリータ」。表面はサクッと、中はもちもちの生地にジューシーなトマトソース、風味豊かなモッツァレラチーズがどっさり乗って、ボリューム満点ながらあっという間に食べ終えてしまいます。小林尊徳さんがオーナーシェフを務める「ラ コッタ」は、2015年、本場ナポリの機関「真のナポリピッツァ協会」の認定を県内で初めて取得しました。
▲人気の「マルゲリータ」(1200円〜)。水牛と乳牛の乳を使ったモッツァレラチーズはナポリから空輸しています
▲「真のナポリ協会」認定証。来日した現地審査員のサイン入り
「僕のピッツァを食べたイタリア人の審査員が『日本一おいしい。君はどこで修業したんだ?』と尋ねたんです。『修業はしていません、独学です』と返したら驚かれて。すごく嬉しかったし、努力してきてよかったと思いました」
東京のリストランテで4年ほど修業した尊徳さんが故郷の長野市に戻り、妻の由紀子さんと現在の場所にカフェスタイルの店をオープンしたのは2006年のこと。のちにトラットリア(食堂)へと業態を変えましたが、意外にも当時は「ピッツァに興味はなかった」そう。
転機は2012年。新婚旅行で訪れたナポリで「ピッツァのおいしさに圧倒された」と振り返ります。
「本当にジューシーで、食べるというより“飲む”ような感覚。今まで食べてきたピッツァはなんだったんだ!と衝撃を受けました。感動して、その店で『作り方を教えてほしい』と直談判したんです。そうしたら『お前日本人だろう?どうせ作れないだろうから教えてやる』と(笑)、材料と作り方を教えてくれました」
なんとも驚きの行動力!レクチャーはわずか数時間でしたが、思いを固めた尊徳さんは帰りの飛行機内で石窯の入手方法を調べ、帰国後すぐにピッツェリアへの改装準備をスタート。そこからは全国で評判のピッツァを食べ歩いたり本を読み漁ったり、「寝ても覚めてもピッツァのことを考える」独学の日々が始まりました。
▲ナポリ流の生地で使うのは小麦粉と水とイースト、塩のみとシンプル
本物の味に近づけるため、現地のピッツェリアの9割以上で使われている小麦粉を温度管理して取り寄せ、モッツァレラチーズも週3回空輸で調達。水は「地元の人が慣れ親しんだものを」と信州の水を使用しています。生地の出来上がりを決める石窯は、1カ月半かけてナポリから船便で取り寄せました。
3年の独学の末、「真のナポリピッツァ協会」が認める味に到達!
道具も材料も作り方も本場ナポリとほぼ同じ。けれどそれらを踏襲するだけでは、求める味にはたどり着けません。重要なのが、日本の気候に合わせた生地作りです。
「生地をしっかり発酵させることで、繊細な食感と香りが生まれます。その日の温度と湿度、さらに何日前に雨が降ったかで水道水の成分も微妙に変わるので、同じ条件は整わない。それらを見極めて、冬場は朝5時に厨房に入って室温を上げて粉の状態を整えたり、夏は氷を使ったりと、生地の機嫌を伺いながら毎日練り方を変えています。ミキサーで材料を混ぜる時間も10秒単位で調整しますね。毎朝、その日使う生地を一度に練りますが、ランチでもディナーでも同じ状態で提供できるように注意を払っています」
▲最高800℃に達し、さらに400℃まで下げられるナポリ式石窯。「これだけの温度差ができるから、短時間で柔らかくおいしいピッツァが焼けるんです」と尊徳さん
石窯の温度も色々な数値を試して検証し、最適な温度を導き出しました。そうして焼き上げたピッツァはお客様の人気を呼び、前述の通り本場ナポリの機関に認められるまでに。認定後、県外から訪れるお客様も増えています。けれど尊徳さん自身が「完璧な出来だ」と納得できたのは、これまでに1回あるかないかなのだそう。
「イタリアでは、ピッツァは料理人の域ではなく職人仕事。突き詰めて考えることが必要だと思います。どこかで修業するのも良い経験ですが、独学だからこそ今の生地にたどり着くことができました。でもまだ完成形ではありません。僕の原体験はナポリで食べたピッツァですが、今目指しているのはそのコピーではなく、別の理想が頭の中にある。そこを目指して、7年目の今も試行錯誤しています。妻には『いつも首を傾げながら作ってるね』と笑われます(笑)」
▲鮮やかなオレンジが気分を盛り上げてくれる店内。壁にはイタリアの写真がずらり。
「当たり前のこと」を大切に、お客様と対等に接したい
ピッツァ生地はその日に使う分だけを毎朝仕込み、作り置きはしません。他の食材も同じこと。売り切れたら販売終了です。人気店なのだから多めに作っては?とも思いますが、「当たり前のことを当たり前にしたいだけなんです」と夫妻は話します。
「たくさん作ってたくさん売る、という考え方もあると思いますが、無添加の原材料を新鮮なまま料理して提供し、食材を廃棄しない。そういう当たり前のことを大切にしたいと考えています。売り切れがあるからお客様の数は限られてしまうけれど、だからこそ深いお付き合いができると思う。理想は、美容院のような関係性をお客様と築くことです。どのぐらいお腹が空いていますか?ワインも合わせますか?とお聞きして、人と人の関係性を作りながらもてなすことを大切にしたくて」(尊徳さん)
「お客様と接する時に心がけているのは、どうやったらおいしく、楽しく食べていただけるか。何人でシェアするのか、年配の方やお子様はいらっしゃるかなど、厨房から見えないことを伝えるようにしています」(由紀子さん)
▲「個人的に夫の料理のファンなんです」と笑う由紀子さん。同じ料理も、一人で食べるか数人で分けるかで味付けを微妙に変えて味の輪郭を出すのだそう
さらに「働く人が無理しすぎないこと」も当たり前に考えていることの一つ。以前より営業時間を短くし、スタッフがプライベートを充実させたり料理の勉強ができたりするようにしています。
「イタリアを旅した時、地元の人が地元の店に当たり前に通う様子がすごくいいなと思ったんです。彼らはないものねだりではなく、今あるものから幸せを見つけるのがすごくうまい。大好きなイタリア料理を通して当たり前のことを当たり前にやって、関わってくれる街のみなさんやスタッフに還元していけたら嬉しいですね」
▲幹線道路に近い住宅街の中の場所を選んだのは、「特別な場所にはしたくない」という思いから
「ラ コッタ」は2019年5月下旬に現在の店舗を一旦閉め、6月頃から長野駅前に移転オープンすることが決まっています。新店では席数を絞ってよりお客様との関係を深め、駅前の立地だからこそお酒と料理を含めた提案も広げていきたいそう。新生「ラ コッタ」も楽しみです!
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会える場所 | ピッツェリア トラットリア ラ コッタ 〒381-2217 長野市稲里町中央4-10-11 電話 026-285-7677 ホームページ https://www.facebook.com/Pizzeria-trattoria-la-cottaピッツェリア-トラットリア-ラ-コッタ-465357010219963/ 営業時間 ※6月に長野駅前に移転オープン予定。詳細はFacebookで告知。 |
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