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No.329

金子

さん

長野県庁 県立大学設立準備課 企画幹

これまでの大学像と一線を画す
地域のリーダーを育てる大学を

文・写真 安斎高志

何度でも起き上がれるタフな学生を育てたい

平成30年4月開学予定の長野県立大学(仮称)。1年時は全寮制、2年時には海外プログラム全員参加となっているなど、カリキュラムに特色があり、グローバルな視野を持ったリーダーの育成を目指しています。

企画幹の金子功さんは学生支援の責任者として、寮生活やボランティア活動、そして就職活動などの課外生活全般をサポートする役割を担います。金子さんは期待を込めて、こう話します。

「授業ももちろん大事ですが、私が担当する課外生活の時間も学生の成長に大きく関わります。何度でも起き上がれるタフな学生、そして主体性を持って動ける人財を育てていきたいですね。そして、一生涯の仲間づくりもしてもらいたいという思いも強いです」

寮生活は、全室2人部屋。コミュニケーション能力が培われることをねらいに、制度設計されました。

「快適なところにずっといるだけでは、共感性や寛容性が育ちません。いろいろな考え方の人と“うまくやれる”力は、社会に出たときに必要な力だと思いますし、寮生活ではそれが養われるよう、さまざまな仕掛けも必要になってきます。IQや知識を高めることより、それらの知識を生かせる力、すなわち「人間力」を育てるのが、私の担う部分になります」

2度の転職を経て、現職へ。偶然に見えることも「準備をした者にだけ偶然は舞い降りる」のだと学生に説くという

学生寮(象山寮)は後町キャンパス内に設ける。自主性を重んじ、先輩が後輩の世話をするという教育自治寮に近づけたいという

工学部から百貨店、そして大学へ

金子さんが今の部署に赴任したのは今年4月。工学部卒で、百貨店の接客担当を経て、信州大学職員から現職へという、他にあまり聞かない経歴の持ち主です。

中野市出身の金子さんは関東の大学の工学部へ進学、4年時には東京のメーカーへの就職も決まっていました。しかし、父親の体調不良にともない帰郷を決めます。縁あって入社したのは、百貨店でした。

「理系でしたから、小売だとかサービスは、まったく考えていなかったんです。しかし、本当に勉強になりました。応対力、コミュニケーション力、洞察力。あの経験がなければ今の私はありません」

現場から人事セクションへ異動し、社員教育や顧客満足度向上に取り組み、マナーや接遇の研修講師なども務めるなど、ビジネスマンとして脂が乗った45歳のある日、金子さんは偶然、魅力的な人材募集を知ります。それは信州大学の学生支援を担う管理職の全国公募でした。

「これまでの仕事が、違う世界でどう生かせるのか試してみたいという思いがありました。妻子を養う働き盛りとしては度胸が要りましたけどね(笑)」

金子さんはそう笑って振り返ります。ちなみに応募件数は100人近かったとのことですが、採用されたのは金子さんひとりでした。

信州大学で学生生活の支援に取り組み9年。職場に不満はありませんでしたが、金子さんはまた新たな挑戦に踏み出しました。それが、新設される長野県立大学(仮称)設立準備への転職でした。

三輪キャンパス外観。長野電鉄「本郷」駅からは徒歩10分

ラーニングホール。キャンパス全体を見渡す吹抜けや、教室内が見通せるガラススクリーンにより、大学の多様な活動を「見える化」することで、学生・教職員の意識を高める

小さな大学だからできることがある

「開学から携われるというのは抗いがたい魅力でした。一生のうちにそんな機会に恵まれる人の方がめずらしい。信州大学でも職員には『自分の子どもならこうしてほしいと思える企画を出してほしい』と言い続けてきました。まっさらな状態から、そこを考えられるわけですから、現状に不満はなくともチャレンジしたくなりました」

ともすると先生の方を向いてしまいがちな大学職員もいるなか、金子さんは「大学職員の一番のステークホルダーは学生だ」と言葉に力を込めます。

「学生は3年経つと、考え方が変わってきます。先輩の4年生が3歳下の1年生のことを理解できないことがあるくらいですから、大学職員は“今の学生”が何を望んでいるのか、ニーズに耳を傾けなければいけません」

理事長には、ソニー株式会社の元社長でソニー生命保険株式会社名誉会長の安藤国威さん、学長には慶應義塾大学名誉教授のロシア文学者、金田一真澄さんが就任予定です。このふたりだけでなく、金子さんのようなビジネス界出身者と学術界経由のスタッフがバランスよく混じり合い、開学の準備は着々と進んでいます。

県立大学の設立趣旨には「これまでの日本の大学とは一線を画す大学を」と記されています。そして金子さんも「1学年の定員240人という小さな大学だからこそできることがある」と前を見据えます。その表情を見ていると、長野に自慢できるものがまたひとつ増えそうな気がして、大学を卒業して20年が経ち立派な中年となった筆者も、わくわくせずにはいられないのでした。

教室だけでなく、キャンパス全体を学びの空間とする。講義室や演習室などを結ぶ共用空間【キャンパスコモン】で講義やプレゼンテーション、討議などを行い、多様な交流を生み出す

(2016/06/29掲載)

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