No.449
黒田
亮介さん
黒田ギター教室 主宰
長野と川崎を行き来しながら伝える、音楽の楽しさ
文・写真 石井 妙子
長野と川崎、2拠点でギター教室を主宰
静かな石畳の城下町にこぼれる軽やかなウクレレの音色。長野市松代の古民家を活用したギャラリーではこの日、「黒田ギター教室」のレッスンが行われていました。時おり笑い声が聞こえる和やかな雰囲気のなか、さまざまな年代の生徒さんがのびのびと演奏を楽しんでいます。
教えているのは、プロのクラシックギター演奏者である黒田亮介さん。近年は映画『マチネの終わりに』のレコーディングに参加するなど、演奏者として第一線で活躍しています。並行して、2012年からクラシックギターやウクレレ、アコースティックギターの教室を主宰しています。
▲この日は松代の登録有形文化財「ギャラリー松真館」でウクレレ教室を開催。誕生日を迎えた生徒さんのために「ハッピーバースデートゥーユー」を全員で演奏するひとときも
黒田さんが普段拠点にしているのは、神奈川県川崎市。川崎の教室でも多くの生徒を教えつつ、週末を中心に月5日ほど長野市に滞在して教室を開講する2拠点生活を送っています。
「平日の夜まで川崎の教室で教えて、最終便で長野に移動することが多いです。忙しい日々ですが、長野と川崎では教室の雰囲気が全然違っていて。まるで別の仕事をしているような感覚で、おもしろいんです。川崎は個人レッスンが中心で生徒さんとじっくり向き合うことが多いですが、長野の教室はグループレッスンが多く、和気あいあいとした雰囲気。教室で過ごすこと自体を楽しんでいる生徒さんが多いですね」
「城下町を学びの場に」松代の取り組みに共感
東京生まれ・神奈川在住の黒田さんと松代の縁を引き寄せたのは、松代出身で一緒に教室を主宰するパートナーの小林竜子(りょうこ)さん。数年前に一緒に松代を旅した時、二人は「エコール・ド・松代」という活動を知り、興味を持ちます。これは松代に残る貴重な文化財の建物で趣味や生涯学習の教室を開き、「城下町丸ごとカルチャースクールにしよう」というユニークな取り組み。佐久間象山や松井須磨子など、多くの文化人を輩出した松代ならではの試みです。
「街がそうした活動をしているなら、僕たちも松代でイベント的に教室を始めてみようと思いました。長野市は首都圏からアクセスしやすいので、距離はあまり気になりませんでしたね」
「幅広い人に気軽に音楽に親しんでほしい」と考えた黒田さんが長野で最初に始めたのは、ギターではなくウクレレ教室。子どもからお年寄りまで気軽に始められて、初心者でも比較的早く好きな曲を弾けるようになること、自分の指先でニュアンスを表現できる楽しさなど、音楽の入り口にぴったりなのだそう。
2017年に不定期イベントとしてウクレレ教室を始めたところ、これが予想を超える大人気。「もっと続けてほしい」との声を受けて、ギターやオーボエなども学べる教室を松代で本格始動しました。さらに「別のエリアでもやってほしい」とのリクエストから、長野市若里でも教室をスタート。こうして、長野と川崎を行き来する生活が始まりました。
ギターやウクレレを気軽に始められる教室がそれまで長野市に少なかったこともありますが、黒田さんの丁寧で明るい指導が何よりの人気の理由。生徒は下は4歳、上は86歳と年齢も幅広く、長野だけで現在30名にものぼります。中には小布施町や高山村など遠方から通う人も。さらに高齢者施設のウクレレサークルでも講師を務めています。
「みなさん最初は手探り状態で始めるんですが、楽しくなって何年も続ける方が多いんです。『自分でもこんなに続くと思わなかった』と話す方も多いですね」
文化財で楽器を奏でる楽しさ
黒田さんにとって松代で教室を開講する楽しさの一つが、歴史ある空間でのびのびと音を出せること。川崎の教室では音漏れに配慮して防音設備が整ったスタジオでのレッスンが中心ですが、松代では「エコール・ド・松代」の取り組みや地域の人の協力もあり、文化財の贅沢な環境で音を出すことができるのです。
これまでに演奏場所としてきたのは、有形文化財の「寺町商家」や「ギャラリー松真館」。そして2020年春からは、松代の名所・象山神社の社務所に場所を移すことが決まっています。
「『歴史ある神社で楽器を弾いていいんですか!?』とびっくりしたんですが、宮司さんがとてもおおらかな方で『うるさくしてもいいよ』と(笑)。ありがたいですよね」
▲幕末の先覚者・佐久間象山を祀った象山神社。境内にある社務所でギター教室がスタート予定
長野なら、きっと理想の教室を実現できる
黒田さんが「ギターで食べていこう」と決めたのは高校時代。所属していたアマチュア合奏団でさまざまな年代、肩書きの人と一緒に演奏する楽しさを知ったことが原点にあります。
「学生や社会人、それにかなり歳を重ねた方まで、音楽というものを通じて一つになれる。その体験はとても大きなものでした。いつしか『自分も、音楽を通じてたくさんの人が一つになれる空間を作りたい』と思うようになったんです。
長野教室は今、その理想にすごく近づいている気がします。それは僕たちが先導したわけではなく、集まった生徒さんや地域の方が叶えてくれたこと。練習後は誰が言い出したわけでもなくみんなでお茶を飲みながらおしゃべりしたり、そうした独特の緩やかな雰囲気があって。今では長野での活動も生活も、僕の大切な一部です」
生徒同士のつながりを作るため、教室でも年2回の発表会や川崎教室との合同合宿、バーベキュー大会などイベントを主催。音楽を通じて、独自のコミュニティが生まれています。
▲竹風堂の「大門ホール」で毎年12月に行っている発表会。幅広い年代の生徒たちが一堂に集まります
理想の音楽のあり方へと近づくことができた長野の地。こちらに拠点を移すことも考えたそうですが、「今はこの2拠点生活を大切にしたい」と黒田さんは考えています。
「演奏活動の最先端はやはり首都圏にあるし、向こうにはこれまで自分で築いてきた活動もあります。今考えているのは、長野と東京の橋渡しのような役割をできないかということ。東京の生きた音楽を長野に持ってくる、そんなことができたらいいですね」
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