No.430
西野周子さん・土谷瞳さん・田村奈々江
さん
喫茶・セレクトショップ〈KOTASORAWORKS〉
暮らしに寄り添うやさしいごはんとあたたかな居場所を
文・写真 小林 隆史
『自分の居場所があるお店』を長野で
「結婚や子育てを経験していくと、日々のことを愉しむ時間がもてなくなってしまうこともあると思うんです。買い物や家のこと、子どもの学校のことなどを続けていくうちに、毎日が同じことの繰り返しのように思えたり。だから、装いを少しだけ変えてみたり、おいしい料理にひと手間をかけてみたりと、ほんの小さな愉しみでいいから、ここでお伝えできたらいいなと思って、気づけば6年が経ちました。今では、お客さんに元気をもらうことの方が多いですね」
凛とした佇まいながら優しい口調で話すのは、喫茶・セレクトショップ〈KOTASORAWORKS〉の料理を手がける田村奈々江さんです(1枚目の写真右)。
続けて、田村さんの妹で、このお店のオーナー兼バイヤーの土谷瞳さん(1枚目の写真中央)も、オープンに至るまでのことを振り返ります。
「東京でアパレルの企画製造や販売を経て、結婚を機に長野に暮らすようになった私は、出産と育児を経験していく中で、『自分の居場所があるお店』をつくりたいと思うようになりました。そんな中で、姉がマクロビやオーガニックを適度に取り入れた料理や健康づくりを勉強してきたということもあって、二人にできる喫茶とアパレルをひとつにしたお店を始めることにしたんです」
喫茶・セレクトショップ〈KOTASORAWORKS〉は2013年に、長野駅東口から徒歩5分ほどのところにある住宅街の一角にオープンしました。ぽてりとした白い外観に、ユーカリの木と空色のエントランスが爽やかにお客さんを迎えるこのお店は、土谷さんのセレクトしたファッションから日用品をはじめ、田村さんが手がける食事やドリンクにひと息ついてくつろげる空間です。仕事の帰りや家事の合間をぬって訪れる方も多く、日毎に変わるセレクトや食事のおいしさを愉しみに訪れたお客さんからは、「いつもありがとう、またね」と言葉が添えられ、毎日の呼吸を整えるサロンのような心地よさが広がっています。そんな魅力に惹かれて、料理講師として活動を続けながら、この場所にパティシエとして参加するようになったのは、〈Geluk Kichen(フルックキッチン)〉の西野周子さん(1枚目の写真左)です。
「ソーシャルワーカーを経て、〈パティスリー・ジラフ〉さんや〈パティスリー・ヴァンセット〉さんで修業させていただいてきたことで、いつか自分のお店をもちたいと考えていました。そんな時に、この場所でパティシエとして関わらせてもらうきっかけをもらい、土谷さんや田村さんの力を借りながら、食の幸せを届けていくお店づくりの勉強をしていくことにしました」
こうして出会った3人をはじめ、今では漢方の講師や作家、テーブルコーディネーターなどとの交流も深め、〈KOTASORAWORKS〉を拠点に表現を培っていく人が多く集まっています。
▲田村さんがつくる、車麩の照り焼きとキッシュや旬の野菜のランチプレート。体に無理のない食材を選んだメニュー
▲西野さんがつくる、広島レモンのタルト。身体にやさしい食材を選び、菜種油やココナッツ、豆乳で仕上げている
暮らしのよそおいと食を通して、毎日の愉しみを届ける
仕事も子育ても頑張る女性に向けて、アクセサリーやイラストなどの作家の感性を伝える編集チーム〈手紙社〉の企画展をはじめ、全国の展示会に足を運ぶオーナーの土谷さんが大切にしているのは、作品を届けるというやりとりだけではありません。
「お店では、自分たちが使ってみて本当にいいと思うものをお届けすることはもちろんですが、作家さんと接客業の方や異業種の方たちが交流し、ホスピタリティを学ぶ機会を設けさせていただいたり、作家さんからものづくりを学ぶワークショップを企画したりもしています。作家さん同士が新たな感性を知ったり、情報交換の機会をつくることで、作品性を磨いていくきっかけを残せたらいいなあと思っているからです。そうすることで、作品をつくるモチベーションや新たな作風を生み出すインスピレーションを広げられたらうれしいですね」
そんな土谷さんの発想を企画にするために、骨子を固める役割が、姉の田村さん。二人でバイイングに行くことも多く、土谷さんの感覚を理解する一番のサポーターです。
「妹は発想が豊かなタイプで、私はそれをそばで支えることが愉しいです。2013年のお店オープンから、ヘアドネーションを呼びかける活動や子ども病院への寄付なども、お客さんにお伝えしてきましたが、こうした企画も妹の発想で。いつも“一歩を踏み出して、知ってみようとするきっかけづくり”を大切にしてきたのは、食においても言えることかもしれません」
そう話す田村さんは、食生活の改善から体調が良好になった自身の経験を通して、マクロビやオーガニックの食事を適度に取り入れるようになったと言います。しかし、“適度に”マクロビやオーガニックの食に気配りをすることを大切にしてきました。
「あまりにマクロビやオーガニックという考え方を押し出すよりは、身近な人や、あまり詳しくない人にも、単純においしいと感じてもらうことが大切です。お茶をして休める時間をもてたら、それが何よりですからね。その上で、食べてみておいしくて、食材のことに興味を抱かれたら、『実は身体に無理のないものなんです』とお伝えするくらいが、ちょうどいいのかなと思っています」
そんな想いを抱く〈KOTASORAWORKS〉の幹は、ひとつでも多くの人生の愉しみにふれるきっかけを、お客さんと共有すること。今では、野外マルシェの企画を依頼されることもあり、そんな機会には、お客さんや作家さんを招待し、一緒に企画を築いていくこともあるよう。今はないきっかけをかたちにしたり、作品をつくったり、作家の感性にふれたり、体にやさしい食事を味わったりと、新たな発見が生まれていくこの場所で交わされてきた言葉は、これからも〈KOTASORAWORKS〉に訪れた人たちの毎日をやさしく包み続けていくのでしょう。
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会える場所 | KOTASORAWORKS 電話 026-262-1649 毎週火曜・日曜定休 |
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