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No.062

秋元

紗智子さん

シンガーソングライター

シンガーとして、お寺のお嫁さんとして
音楽を通して開かれたお寺へ

文・写真 Takashi Anzai

ピアノボーカル、ベース、クラリネット、ドラムの4ピースバンド「ボスダブ」。透き通っていながら凛としたボーカルが心に沁みわたります。15年以上、長野市を中心にマイペースな活動を続けているボスダブですが、根強いファンは多く、長野の音楽シーンでも独特の存在感を放っています。

ピアノボーカルの秋元紗智子さんは “お寺のお嫁さん”。ご主人は江戸時代から9代続く栽松院の副住職です。

2011年から秋元さんは栽松院でコンサートを開いています。これまで閉ざされていたお寺の戸は開け放たれ、法要以外は静かだったお寺には多くの人が詰めかけました。コンサートは今年で4年目を迎えました。

「ちょっとした禅の話とか、私がお寺をお掃除していて見つけた本の一行でも伝えられたらいいなって思うんです。だから最近はライブというよりトークライブみたいになってきて、半分くらいトークになっているんですけど、来た人はそれを聞きたかったり、共感したかったりするんですよね。さらにそういう言葉がメロディーに乗って歌として流れてきたら心に入るし、自分に出来ることはそういうことかなぁって今は何となく思います」

今でこそ、多くの人が楽しみにしているコンサートですが、始めるまでには多くの葛藤を抱えていた秋元さん。控えめでいるよう自分に言い聞かせていた”お寺の嫁”としては、相当な覚悟と勇気をもって始めたことだといいます。

「何かしらしたいとは、ずっと思っていたんです。お寺に来たころから人が来ないなと思っていたんですよ。お盆とか法事とか寺参りとか、何かあれば来るんですけど、何にもない日はシーンとしているんです。戸も閉まっていて、真っ暗なんですよ。寂しいなと思って」

「お寺のお掃除とかしていると仏教の本とかいっぱいいい本が出てきて、読んでみると目から鱗のことが書いてあったりして、こういうのもったいないなと思ったんですよね、暗い中に転がっていて。戸を開けたら人が来るかなとも考えていたんですけど、実際に何をしたらいいかは分からなかったんです」

「しまんりょ 初夏のお寺コンサート」。本堂にて歌う秋元さん。もっと若い世代にも語りかける活動を模索している

扉を開くきっかけとなったのは、ご主人の修行時代の仲間で歌をやっているお坊さんを招いて開いたオペラのコンサートでした。そこで秋元さんはピアノの伴奏を務めます。

「そしたら地域の人たちや檀家さんがすごく喜んでくれたんです。それまでは自分の中でお寺のことはお寺、音楽は音楽って活動を分けていたんですけど、『あの嫁さん、ピアノ弾けるんじゃねーか』ってバレて(笑)、じゃあ次の年は自分の歌をやってみようかなと。そんな嫁どこにもいないんで、すごい勇気が要ったんですけど、でも、お義父さんもお義母さんも『やってみろ』って言ってくれて。すごい懐の深い両親なんです。やってみたらみんなが喜んでくれて、じゃあ毎年恒例にして、初夏から夏にかけての時期にやろうかと夫と力を合わせて年に一回やりだしたんですね」

嫁いでから、お寺でのコンサートが始まるまでの数年、秋元さんは「こっそりと」ライブハウスで音楽活動を続けていました。しかし、その数年は、振り返ると不本意な演奏しかできていなかったといいます。

「やっぱりこっそりやっていると後ろめたい気持ちになるんですよ。そうするといいライブもできないし、自分の生活を切ってやっているから、実体のない音楽になっちゃうっていうか、やっていてつまんないような気がしたし、苦しくなるんですよね」

音楽活動のスランプだけではなく、お寺のお嫁さんとしてあるべき姿を追い求めすぎた結果、秋元さんは体調を崩してしまいます。

「お寺の嫁はこうあらねばならない、という思い込みですかね。あいさつができて、おもてなしができて。でも、等身大でおもてなしができなかったんですよね。自分の中にもっと”しっかりしたお寺のお嫁さん像”があって、そこに自分をはめようはめようとしていたんですけど、全然うまくできなかったんです」

「体を治すために、食事から睡眠からすべて変えてみたんですけど治らなくて。最後にストレスかな、と思って。じゃあ、やりたいことは思い切ってやってみようと思いました」

アンティークなものが好きだというご主人の発案で、秋には蚤の市を開いている。そこでは写経やお守りづくりのワークショップも実施

栽松院は静かに、控えめに保たれてきたお寺で、目立ったことや変わったことはできるだけ控えるようにと教えられていた秋元さん。
しかし、自分のあるべき姿を教えてくれたのはやはり音楽でした。最初のコンサートで感じた気持ちをこう話します。

「お寺の扉が開かれて、参道が目の前に伸びていて、中央通りが見える景色に向かって自分の声が響いて行くのを感じて、『ああ、やっちゃダメなんて誰も言ってなかったんだな』って、自分だけがやっちゃいけないって思っていただけで。やってみたらみんなが喜んでくれて、次はいつやるの?とか、よかったよって言ってくれて」

今では他のお寺などからも招かれて、昨年は4つのお寺でコンサートを開きました。最近は”歌うお寺のお嫁さん”という肩書きが出来上がってきたと笑います。そして、歌や曲にも変化が表れてきました。

「今まで同年代の皆の前でライブハウスとかで歌ってきたのが、今度は人生の先輩、高齢者の方々の前で歌うわけですから、年齢関係なく、人間として共通するものをテーマにしたものを歌いたいなと思ったんです。そうすると子どもにも伝わるし、おじいちゃんおばあちゃんにも伝わるもの。世代も違うし、価値観も違うし、職業も性別も生きてきた時代も全部違うような人に触れて、違ければ違うほど、共通したものを探そうとするじゃないですか。そうすると結局、仏教で言っていることになってきちゃうんですよね」

「それと、ただのコンサートだと、お寺の意味がなくなっちゃうから、来てもらったら演奏前に3分でも5分でも、静かに座る坐禅に似た時間を設けて、禅の空気にちょっと触れてもらいたいなと」

秋元さんは栃木県出身。進学で長野市へ。「お寺のことはよく知らないで嫁いできたので抵抗はありませんでした(笑)」

一方で、”お寺のお嫁さん像”に振り回された頃のように、先回りして期待に応えすぎる自分にもブレーキをかけていると笑いながら話します。

「仏教の歌ばかりを求められても困るんですけど、何となくそういう歌をつくらねばとプレッシャーに思っている自分もいたりして、また型にはめる自分が出てきたと思って(笑)。考えることをやめて、歌うときは歌う、お茶をいれるときはお茶をいれる、掃除するときは掃除する、その時その時、『今、ここ。』に集中するようにしています」

元々、秋元さんの歌声には穏やかな時間を過ごさせてくれる清々しさがありました。さまざまな葛藤を超えた今、よりいっそう澄みわたった歌声が、心地よく胸に響きます。

音楽とともに、生活の一部となっている写真と詩。娘さんがお嫁に行くときに渡そうと綴っている写真集は9巻目を編集中

(2014/07/30掲載)

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会える場所 栽松院
長野市鶴賀問御所町1231
電話
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ボスダブ「風の道」(しあわせ信州「広まっています編」テーマ曲)

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