No.423
青木寛和・百瀬友奈・松前桃子
さん
県立大生の古着店プロジェクト〈TRIANGLE〉
「古着のドネーションで、あらゆる世代が集う場づくりに挑戦」
文・写真 小林 隆史
海外留学を全学共通の必修とするほか、起業家やビジネスリーダーを育成する学部を立ち上げるなど、グローバルな視野で教育をおこなう〈長野県立大学(長野市三輪)〉が、2018年に開校しました。阿部守一県知事が「これからの長野県を背負って立つリーダーを育成していく教育の場(*)」と明言してきたように、官民学を連携させた多種多様な講師とともに、長野県を代表する新たな大学づくりが進められています。そんな〈長野県立大学〉に在籍する3人の学生が、2019年の春に古着店開業に向けたプロジェクトをスタートさせました。その名も〈TRIANGLE(トライアングル)〉。資金0円でスタートさせるまでのプロセスには、「寄付で古着を募る仕組み」と「ウェブの編集部が営むお店との連携」があり、その取り組みのようすがテレビや新聞で取材されるなど注目を集めています。彼らの想いとプロジェクトスタートに至るまでの出会いを紹介します。
(*)長野県公式ホームページ 2017年知事会見録一覧>知事会見2017年8月31日より抜粋
▲(右から)松前桃子さん(長野県松川町出身)、青木寛和さん(栃木県小山市出身)、百瀬友奈さん(長野県松本市出身)。2018年に開校した〈長野県立大学〉の1期生で、2019年で20歳を迎える。拠点となる〈やってこ!シンカイ〉の前にて(写真:飯本貴子)
学校外の自主プロジェクトとして「資金0円」でスタート
〈長野県立大学〉に在籍し、2019年の春に古着店プロジェクト〈TRIANGLE〉をスタートさせたのは、松前桃子さん・青木寛和さん・百瀬友奈さんの3人。進学をきっかけに長野市に移住した3人に共通していたのは、「古着が好きという実直な想い」と「衣服産業への素朴な疑問」でした。
「『捨てられてしまう古着が世の中にたくさんある一方で、新品の衣服を消費してばかりで本当にいいのだろうか?』と疑問を抱いていたので、古着に新たな価値づけをして、世の中に循環させる仕組みづくりをしてみたいと思うようになりました。地域の人たちから古着を募るだけでなく、古着リメイクに携わってもらって、地域の産業を生み出したり、それをブランド化したり、さらには海外での衣服生産プロセスをドキュメンタリーとして取材して広めたり、古着の活動を通してあらゆる人の縁を結んでいきたいんです」
こうした松前さんの思いに、百瀬さんが続けます。
「高校生の頃から、おばあちゃんの服を着るくらい古着が好きだったので、松前さんから古着屋をやりたいという夢を聞いて、私もやりたい!とすぐに賛同したんです(笑)」
2018年に大学進学を機に出会った松前さんと百瀬さんは、長野市内にあるゲストハウス〈1166バックパッカーズ〉や古着屋〈COMMA〉に足を運ぶなどして、プロジェクト立案に向けた情報収集をスタート。古民家をリノベーションしたお店がたくさんある善光寺門前界隈を巡る中で青木さんとも出会い、長野市内を拠点に3人で古着店をスタートさせる企画を考案してきました。
しかし開業するためには、物件探しから商品仕入れの仕組みづくりや古物商許可の取得など、たくさんのハードルがあり、二の足を踏むことに。そんな時に彼らが出会ったのは、ウェブの編集部が運営するお店〈やってこ!シンカイ(長野市三輪)〉でした。
▲ウェブを中心に編集を手がける〈株式会社Huuuu〉代表の編集者・徳谷柿次郎が営む〈やってこ!シンカイ〉。全国のデザイナーやアーティストの作品をキュレーションするほか、地域活動にフォーカスしたワークショップやトークイベントも企画する。長野県内の20代を中心に、編集や店舗経営のノウハウなどを共有する「学びの場」として活用することに注力している
「〈長野県立大学〉の講座で〈やってこ!シンカイ〉を運営するメンバーの方と出会い、古着店開業の構想を話したら、事業を挑戦させてもらえることになりました。古物商許可の取得を担っていただいたり、什器や在庫保管スペースもシェアしてもらったりしながら、プロジェクトの準備を進めてきました」(松前さん)
こうして地域の場を活かしたことで、開業資金を捻出することなくプロジェクトを一歩前進させた彼らは、2019年の春から毎週日曜日限定で、試験的に古着の販売をスタートさせることになりました。
▲〈やってこ!シンカイ〉にて、初回オープンを果たした4月7日。ドネーションで集まった古着をディスプレイし、各古着にまつわる物語も紹介しながら販売に望んだ(写真提供:TRIANGLE)
古着を寄付してもらう『ドネーション古着』という画期的なアイデア
地域の場を活用したことに加えて、彼らの古着店構想の仕組みは、通例とは異なる画期的なアイデアが軸となっています。それは「古着をドネーション(寄付)してもらい、販売価格は顧客側が決める」という仕組みです。2018年の秋頃からドネーションを呼びかけると、新聞やテレビでも取り上げられ、100着以上の古着が集まりました。手探りでプロジェクトのスタートを走り出してみた結果、確かな手応えを得られたようです。松前さんは振り返ります。
「寄付を募ったら、地域の方たちが古着を持って集まってくれるようになりました。『新聞で読んだよ〜』と私たちの活動を応援してくれる方ばかりで、私たちを親戚の子どものようにかわいがってくださることもありました。古着を商品にすること以上に、集まった応援の想いに答えて、最終的に収益をどのように活かしていくかをみんなと考え直すようになりました」
続けて青木さんも語ります。
「ドネーションで集まった古着に価値をつけて提供する。その先で集まったお金を僕たちがどう活かすかが、このプロジェクトの軸であり、ドネーションしてくれた方と僕たちのよりよい関係づくりになると思います。たとえば、資金を活かしてドネーションしてくださった方たちが事業を起こせる機会をつくるとか、僕たちが洋服産業の実態をドキュメンタリーとして取材して紹介するなど。単純に古着の売買で完結させるのではなく、資金を活かして、新しい地域の場づくりをできたらいいのかなと思います」
百瀬さんも話します。
「大学の外に出て、こうしてプロジェクトをスタートさせてみたら、地域を中心に活動する色々な大人と出会うことができました。古着の売買の仕組みづくりに終始せずに、服に対する愛着や思い出も、物語として語り継いでいけたらうれしいです」
地域で活躍する人や学校内外の友人との出会いから、自分たちの夢をかたちにするきっかけをつかみ、若い感性で挑戦を始めた今。「学びの場」を学校と地域で拓いた彼らの未来に期待が高まります。毎週日曜日、ドネーションした古着とともにお店を開くことで、近所のお年寄りから子ども連れの家族や学生まで、あらゆる世代が交流する機会になれば、古着の売買に完結しない、新たな動きが生まれるかもしれません。
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会える場所 | ドネーション古着プロジェクト〈TRIANGLE〉 長野市三輪7丁目8−5〈やってこ! シンカイ〉内 電話 070-2679-5921 営業日:毎週日曜日12:00〜18:00 |
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