No.080
ハラ
ヒロシさん
Webディレクター/デザインスタジオ・エル常務取締役
世界を見据えてアンテナを張る
24時間Web漬けのディレクター
文・写真 Takashi Anzai
『公』で遊びを生み、『私』で仕事を生む
デザインスタジオ・エルのWebディレクター・ハラヒロシさんの存在が僕の記憶に強く焼きついたのは、とあるサイトにこんな自己紹介文が書かれていたからでした。
「仕事とプライベートの境目がなく、24時間Web漬けであることに幸せを感じている」。
ハラさんが手掛けたそのサイトも実にワクワク感に溢れていて、作った人にとても興味を持ったことを覚えています。
ハラさんはその”幸せ”についてこう語ります。
「ひとことで言うと『公私混同』です。『公』の部分で遊びを、『私』の部分で仕事を生み出すというのが、自分の生活スタイルですね」
Web事業部のサイト「ウルトラエル」の中で綴られているハラさんのブログは、なんと年360回も更新されています。ここ5年は月30回というペースを守っています。内容に公私の区別はありませんが、そこで取り上げたネタが元で仕事の問い合わせが入ることも少なくありません。ナショナルクライアントからの受注に繋がったケースもあります。
「その生活スタイルを、ほどよく自社サイトでさらけ出している感じですね。専門性を謳うものではなく、徒然でライトな内容のブログですが、顔の見える会社を目指しています。24時間と表現したのは、自分が遊んでいたり寝ている間でもサイトはいつでも見てもらえるからです」
また、ハラさんが描いて自社サイトに掲載したマンガもブログ同様、優れた”営業マン”となっています。(http://p.booklog.jp/book/21030から無料でダウンロードできます。)大手出版社で編集会議にかけられるなど、エッセイマンガとして出版の話もありました。
「自社サイトでの情報発信やプロモーションを大事にしています。Web制作を生業にする者として、自社サイトからしっかり仕事を取りたいと思っていました。最初は全然でしたけど、今では最初のきっかけがWebだったというお客様が圧倒的に多いです」
ハラさんの著書、共著。中国版や台湾版が出版されているものもある
導かれるように駆け抜けてきたWeb業界
高校時代までマンガ家を目指していたハラさん。大学はマスコミ系の学部に進み、そこではじめてグラフィックデザイナーという職業を知ります。学業と並行して東京のデザイン事務所に潜り込んで修業し、卒業後は長野市にあるデザインスタジオ・エルに入社しました。
その採用面接で、当時の社長から「これからはWebの時代だから」とHTMLの辞書を渡され、唐突にWebの世界の扉を開けることになります。決してポジティブな印象を受けなかったといいますが、今では「運がよかった」と振り返ります。
「当時、Webサイトをつくれる人は少なくて、マイナーな業界でしたけど、その中でも自分の作品を発表したり、実験的なことをやっている人が世界中にいて、それがすごく盛り上がっていたんです。僕もあっという間にその面白さに魅了されました。長野にいても世界と繋がることができるし、場所に制限されない仕事ができるはずだと思いました」
マンガ家志望だった高校時代を含め、小学校時代は自主的に学級新聞を発行し、中学校時代は新聞委員長として学校新聞を発行するなど、「自分のメディアを持ちたい」という願望が強かったというハラさん。入社当時はまだまだWeb制作の仕事は多くありませんでしたが、自身の個人サイトと自社サイトの充実を図っている間に、どんどんのめり込むようになります。
そして個人サイト「HARDROCK TAXI」が2000年にデザイン系の雑誌で4ページを割いて紹介され、それをきっかけにWeb専門誌での執筆依頼が来るようになりました。これまで100本以上を執筆し、連載も持ちました。デザイン系の著書・共著もこれまで5冊出版しています。
「文章を書いたり、作例を作ったりすることでとても成長させてもらいました。専門的なデザインの勉強をせずにコンプレックスを持って飛び込んできた僕が、デザインのセオリーを書くところまでやらせてもらうことができたのは、本当に幸せなことです」
共著の中には、中国語や台湾語での翻訳版も出版されているものもあります。
小学校時代の学級新聞から始まり、常に自分のメディアを持ちたかったという
長野から世界に向けてコツコツと
近年、ハラさんのもとに舞い込んでくる仕事は、インターネットサービス、生命保険、不動産、食品、航空、放送、リゾート、医療など大手企業のコーポレートサイトやプロモーションサイト、国民的アーティストやハリウッド映画の公式サイトなど多くの人が目にするものになってきました。しかし、ハラさんは大物を狙うよりもコツコツ積み重ねるタイプだと自己分析し、あくまでそのスタンスを貫きます。
ハラさんが長を務めるWeb事業部では、メンバー5人が毎日1つずつ技術的なことなど様々なネタを持ち寄り発表するという決まりをつくっています。1日5個のノウハウが蓄積され、これまで約8000件を超える知の集積となりました。
「僕はこれといって特殊な能力を持っていません。4番バッターみたいに大きな一発を打つ力もなければ、狙うつもりもないんですけど、小さなことを積み重ねていくことで得られる力は大きいと思っています。そのことは僕にとって自信になっています。また、チームとしても”コツコツと、真剣に、挑み続ける”をテーマに、一歩ずつ着実な成長を目指しています。」
これから先も間違いなくWeb業界は変わっていくと話し、その変化に対応することが大切だと考えているハラさん。東京を超えて世界までを見据え、アンテナを出来るだけ遠くに張っていたいという意識を強く持ち続けています。
「そのためには今やっているインプットとアウトプットの作業をひたすら続けていくしかないと思っています。それって子どものころからやっていることとあまり変わらないんです。だから、これからも続けていけると思っています」
デザインスタジオ・エルWeb事業部のWebサイト「ウルトラエル」
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