No.412
下田
達也さん
食事処 膳 –ZEN-
明日もまた来たくなる。旬の地元食材を使った、地域愛あふれるごはん屋さん
文・写真 島田 浩美
長野駅前のショッピングプラザ「again」の裏手に店を構えてちょうど2年になる食事処「膳(ZEN)」。何気ない外観ながら、いつもスーツ姿の会社員からおしゃれな雰囲気のショップ店員まで、さまざまな客層の老若男女が思い思いの食事をカウンターで楽しんでいます。店に立つ下田達也さんを訪ねました。
旬の食材と希望の料理を提供するスタイルで幅広い客層を虜に
おいしくて、安くて、サービスがいい。そのうえ新鮮な食材を使い、食べたいものをリクエストすれば希望に応じて作ってくれ、気兼ねなくオーダーできたら最高! 「膳」はそんな、ありそうでなかった、かゆいところに手が届くような要望を叶えてくれます。
「いろいろな世代のお客さんに喜んでいただける店づくりを考えて『お食事処』という今の形に至りました。毎日来るお客さんに食事を楽しんでもらいたい、出身地の北志賀高原や長野県の新鮮な旬の食材を使って喜んでもらいたいと思って、手頃な価格の御膳と日替わりメニューを中心にしつつ、お客さんの好みや希望にできる限り応じています。いろいろと要望を言ってもらえたら作る気合も出てうれしいですし、なんでもおいしく作ろうと全力で取り組んでいます」
こう話す下田さんの料理を楽しみに、店に集うのは実にさまざまな客層。若い女性一人客が少なくないのも意外ですが、特に宣伝などはしたことがなく、評判は口コミで広がっているのだそう。
「少しずつ街に定着してきている手応えを感じてうれしいですね。決して人通りが多い通りではないですが、平日と週末ではまた違う客層が見られたりと、このスタイルで幅広い方に喜んでいただけているのを実感しています」
▲「again」の駐車場の裏にある「膳(ZEN)」
▲定番メニューの生姜焼き御膳(800円)に人気の鶏の唐揚げ(250円)をトッピング
▲こちらは日替わりの焼魚御膳(950円)。この日の魚はサバ
おいしい地元食材を広く喜んでもらうために
山ノ内町の北志賀高原出身の下田さん。幼少期から親戚が営む民宿の手伝いをし、接客業や飲食業に興味を覚えました。大学進学で上京し、飲食店でのアルバイトを経て、都内の手作り和食居酒屋に就職。そこで本格的に料理を学んだと言います。
「出汁(だし)のひき方などをイチから教えてもらい、トータル10年ちょっとその会社で働きました。今のスキルの基本は、その場にある食材をどう調理するかという日々のまかない作り。この体格からわかるように食べることも好きなので、いろいろな店で食べた味を自分なりに探ったりもしました」
そして地元に戻り、親戚の民宿に入社。地域に根ざして働いていましたが、地元のおいしい食材をもっと多くの人に食べて喜んでもらいたいと社内で話し合い、長野駅前の現在の物件を見つけました。
「カウンターがあるオープンキッチンの店はお客さんと話しながら調理ができ、作業も見てもらえるライブ感が魅力だと思っていました。だから、この店舗が見つかった時はいいなと思いましたね。今はこの形で営業できているのがうれしいです」
提供している食材は、自家栽培のコシヒカリや採れたて野菜のほか、民宿のすぐ近くに養魚場がある信州サーモンや信州大王イワナ、北志賀高原で育った信州牛など。また、おいしい刺身も提供したいと、糸魚川港のこだわりの魚屋を開拓し、直接仕入れた鮮度のよいものを使っています。
「新鮮な食材はそれだけでおいしいので、塩や味噌などの簡単な調味料で食べてほしいくらいです。魚屋さんは上質なものが手に入った時だけ卸してくれるので毎日食べられるわけではないのですが、入荷した時はぜひ食べてもらいたいですね」
▲仕入れた魚は黒板メニューに並ぶ
また、これからの季節は大根などの自家製野菜が出てきたり、民宿の従業員で漬けた近所のおばあちゃん直伝の野沢菜漬けなども入ってくるそう。
「こういうおいしい食材を僕が調理をしているだけで、地元のみんなで店をつくっている感じがいいなと思っています。料理を作ることも好きだし、地元のいいものをお客さんに食べて喜んでもらえるのも好きだし、気のおけない従業員が毎日交代で手伝いにも来てくれる。こんな風に好きなことを追求できる仕事は面白いですね」
価格帯もリーズナブルなものを揃えつつ、日替わりで信州牛のすき焼きなど、ちょっと奮発して食べたい人のニーズも叶えています。
▲その日のおすすめは黒板メニューで提供
「よい食材もしっかりと説明して提供すれば、価格を幅広くしても食べていただける下地もできてきたと実感しています。メニューの選択肢も広く設けているので、選ぶ楽しさも感じてもらえるのではないでしょうか。なかにはカレーを食べながら刺身を合わせる人もいるので、好きなものを好きなように食べて楽しんでもらいたいですね」
▲夜は日本酒の品揃えも充実
食の仕事を通じて地域全体を盛り上げたい
「膳」がオープンしたことで、母体である民宿の営業との相乗効果も生まれていると話す下田さん。例えば「膳」で食事をしたお客さんが北志賀高原でのスキーや観光のついでに民宿に泊まったり、民宿ではインバウンドに力を入れて外国人対応もしているため、宿泊した外国人観光客が善光寺観光のついでに「膳」によっていくこともあるのだとか。そのため、英語メニューも用意しています。
「こうして、このスタイルを続けていくことで店も地元も盛り上げていけたらいいですね。過疎化が進んでいる地元で農業などいろいろな食材に関わってくれる若い人が増えたらうれしいし、こういう職業だからこそ、地元だけではなく長野のさまざまな地域の人とも関わり、食材の魅力を周りに広げることでみんなで地域を盛り上げていきたいです。『あの店に行けば地域のおいしいものが食べられる』というような、道の駅みたいな店にしていくことが目標です」
ところで、この店に初めてきた時から「これはいい!」と思っていたことがあります。それは、店に立つのが下田さん一人なのに、名札を付けていること。
「名札は東京で働いていた時の名残です。名前がないと誰が作っているのかわからないし、名前がわかると声もかけやすいと思って。でも僕の人柄のことは構わず、地元のおいしいものを提供している店だと紹介してもらえたらうれしいですね」
その下田さんの実直さもまたこの店の魅力のひとつ。だからこそ、多くの人にとって「明日も来たい」と思える店になっているのかもしれません。
▲2階の座敷席は団体利用も可。このほか、弁当や仕出しの注文にも応じている
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会える場所 | 膳 ZEN 長野市北石堂町1190 電話 026-217-8152 ホームページ http://www.maplehillsinn.com/zen.html |
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