No.405
安西
晋さん
小田切地区 地域おこし協力隊
小田切の里山に、木を植え花を咲かせる。
文・写真 小林 隆史
長野市中西部の山間にある小田切(おたぎり)地区。雄大な自然が残され、傾斜に沿った田畑が並ぶ美しいこの里山で、地域おこし協力隊員を務めている安西晋(あんざい・すすむ)さん。小田切地区の地域おこし協力隊として移住した経緯と、これまでの活動を紹介します。
地域の声に耳を傾け、地域に貢献する
1963年生まれの安西さんは、現在55歳。愛知県に生まれ、高校卒業後は島根県に進学。その後は、農林水産省に就職し、転勤で各地を巡りました。20年ほど前に転勤で長野に滞在していたことがあり、その頃からは、いつか長野に暮らしたいという夢を描くように。そんな安西さんは50歳の節目に、これまでの人生を振り返り、ある思いを抱くようになったそう。
「これまで私は、国の政策等に携わる仕事をしてきました。責任のある仕事にやりがいを感じていましたが、もっと直接的に、誰かに喜んでもらえるようなことができないだろうかと思うようになったんです。そんなときに、たまたま、東京の『銀座NAGANO』に足を運ぶ機会があり、地域おこし協力隊のことを知りました。地域に根ざして何かできるかもしれないという思いと、漠然と抱いていた長野暮らしへの夢に向けて、地域おこし協力隊に募集してみることにしたんです」
▲安西さん(右)と農地や田畑を貸してくれた地主の宮尾壽さん(左)。取材時に、日頃からお世話になっている方々を紹介してくださった安西さん。丁寧な地域との関係づくりを大切にしていることがうかがえる
長野市移住を決めた安西さんは、早期退職し、2016年の1月に長野市小田切に赴任しました。自治協議会の手伝いや地域行事に積極的に参加し、地域の方たちとの丁寧な関係づくりを大切にしてきました。そんな中で、「小田切で、なにかをつくってみよう」と考えていた安西さんは、かねてから注目していたある植物の植栽を小田切地区で始めます。
小田切の未来に残すエルダーフラワー
「小田切の未来に、美しい自然を残すことはできないだろうか」
そんな思いを抱いた安西さんは、涼しくて、湿気の少ない小田切地区の気候を考え、エルダーフラワーの植栽をはじめることにしました。
「エルダーフラワーは、古くはヨーロッパで民間薬として使われていたこともあり、風邪予防や美容効果が期待されている植物です。日本ではまだあまり普及していない植物ですが、ヨーロッパ最古のハーブと言われていて、成分を抽出したコーディアル(砂糖漬けのシロップ)は、ジュースやケーキにも使われています。欧州では街中や家屋の庭でよく見られ、白い花を咲かせるその風景は、とても美しいです」
安西さんは、2016年にエルダーフラワーの植栽を始め、今では120本ほどの木を育てています。白くて小さな花を咲かせるエルダーフラワーの美しさに、地元の方からは「うちの畑を使ってもいいよ」とサポートの声をかけられるようにもなったそう。現在は、長野県池田町のハーブセンターと連携して、商品開発も進めています。今後は、東京のハーブ専門店を中心に商品を出荷することを計画しています。また、若里にある『長野翔和学園』の協力も得て、若者といっしょにエルダーフラワーの事業を進めていくこととなりました。
エルダーフラワーが花開く小田切に
地域の魅力を読み、ときに地元の人たちの陰日向となって地域の活動をしながら、エルダーフラワーを育ててきた安西さん。そんな安西さんの様子に、小田切にある『長野市青少年錬成センター』の所長・福澤治夫さんは、こう話します。
「『長野市青少年錬成センター』には、合宿や高原学校などで、市内外の人が訪れています。そんな中で、安西さんの活動がきっかけで、子どもたちとエルダーフラワーの植え付けを行いました。小学校の校庭に植えたいという声をいただいたこともあり、これまでになかった人とのご縁が生まれていきましたね」
▲福澤さん(左)と安西さん。『長野市青少年錬成センター』に植えたエルダーフラワーの前で、植栽をした頃の話をする二人
そんな福澤さんの言葉に、安西さんはこう語りました。
「エルダーフラワーの植栽がきっかけで、子どもたちはこの地区のことを記憶してくれるかもしれませんね。彼らが植えてくれたエルダーフラワーが、白い花をいっぱいに咲かせて、美しい里山の風景を残せたら嬉しいです」
安西さんは任期を終えても、エルダーフラワーの植栽を中心に、リンゴンベリーなどさまざまな品種の植物を広げていくそう。安西さんの活動には「美しい里山にも、人の手がかかっている」ということをあらためて考えさせられます。これまでの活動は、『長野市地域おこし協力隊ブログ』でも見ることができるので、ぜひ読んでみてください。
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