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ナガラボはながのシティプロモーションの一環です

No.371

小口

貴子さん

女子スケルトン強化選手

女子スケルトンで
平昌オリンピックをめざす

文・写真 宮島悦雄

平昌(ピョンチャン)オリンピックまであと1年。1998NAGANOから20年を経てアジアに帰ってくる冬のオリンピックです。メダルの期待がかかる競技への注目度はヒートアップしていますが、長野からスケルトンで平昌出場を目指す小口(旧姓・大向)貴子選手にも注目!世界選手権、ワールドカップ(WC)を経て決まる日本代表の座獲得に向けて、長野からの応援を背に奮戦を続けています。

時速120㎞の恐怖!を克服

「怖かった!選手になんてならなければよかった!」

はじめて小口選手がスケルトンでスパイラル(長野市ボブスレー・リュージュパーク)を滑ったときの感想です。大学2年の冬でした。

スケルトンは頭を前にして腹這いで滑るそり競技。長野五輪では実施されず、2002ソルトレークシティから正式種目として復活しました。長野県からは越和宏選手や中山英子選手を輩出し、ボブスレー、リュージュ以上に知られるようになりました。

しかし、小口さんは石川県輪島市出身。子どものころは素潜りでタコをとっていたそうですから、ウインタースポーツに縁はありません。仙台大学に入学し、誘われてボブスレー・リュージュ・スケルトン部のマネージャーになって何の知識もなかったスケルトンに出合いました。

「夏の間トレーニングしていた選手が、冬になってはじめてスパイラルを滑り降りる姿を見たとき、自分も滑りたい、私にもできると思っちゃったんです。そのスピード感!本当に速くてカッコよかった!」

さっそく選手転向を申し出て、大学2年からトレーニング開始。そしてその冬の最初のスパイラル滑走で、あまりの恐怖感に選手になったことを後悔したといいます。時速は100㎞を超え、顔の位置は氷からわずか30cm程度。最初は何もできず、ただそりに身を任せているだけです。

しかしスピードに慣れてくると恐怖感は薄れ、コントロールする楽しみが増えてきます。こうしよう、ああしようと思ったことができて、結果がついてれば、もっと速く、とのめりこんでいくのがアスリート魂。小口さんは高校まで陸上の選手でしたから、そのアスリート魂に火が点いてしまったのでしょう。

「陸上部では最初は100m。でもスタートが苦手で200m、400m…と種目が変わりました。スケルトンはそりがスタートラインを切った瞬間から計測するので、私向きです(笑)」

スタート前にすべての力を抜いてリラックス。スタートハウスに立ったら、両ももを叩いてスイッチオン。スタートは極限の興奮状態で力を爆発させ、猛ダッシュして飛び乗る!(写真:林正信さん撮影)

一度は断念した選手生活、長野市職員仲間の支援で復活

2005年、はじめて国際大会のアメリカズカップに出場するも予選落ち。

「体重が軽く、スタート時に押して走るスピードも、滑走技術も、英語力も足りない。海外の選手を見て何もかも足りないと実感させられた大会でした」

大学時代はこの不足を補うために練習し、ジュニアの強化指定選手にまでなりましたが、大学4年のとき父が病気で倒れ、最後と思って臨んだ全日本選手権はけがのため納得のいく滑走ができず、どうしても選手生活にピリオドが打てません。せめてもう1年と、研究生として大学に残って競技を続けたものの、半ば強引に自分の気持ちに区切りをつけました。

そんな気持ちで就活を始めたころ、スパイラルがそり競技のナショナルトレーニングセンターに指定され、マネジメントスタッフとして働かないか、という誘いがありました。身分は長野市の嘱託職員。「スタッフとして競技を支えよう」という気持ちで引き受けました。2009年のことです。

こうしてスパイラルで働きはじめた小口さんに、スパイラルの職員仲間は「せっかくここにいるんだから、滑ってみれば。また選手として大会に出ればいい」。その言葉に背中を押されて再び競技生活へ。競技を続けるには最高の環境です。しかし、嘱託ですから経済的には苦しい選択。そこへ日本連盟から国際大会に出場するかと問い合わせが―。

かかる費用を考えれば出場という選択肢はあり得ません。諦めかけたとき、またしても背中を押してくれたのは長野市の職員仲間でした。「俺たちでなんとかしよう。みんなで募金をすれば何とかなる」と、資金集めをかって出てくれたのです。1口1000円。3口3000円以上で小口さんの故郷輪島塗の箸をつけるという、今でいえばクラウド・ファンディングのようなシステムで支援してくれました。

滑走スピードは時速120㎞超。瞬時に判断できる冷静さは必須(写真:小口さん提供)

「恩返しは平昌で―」

こうして3年間国際大会に出場し、2012年にはその実績から支援してくれるスポンサー企業が現れ、ようやく競技生活に専念できる環境が整いました。13年からWC参戦。15年には、リュージュでオリンピックに3大会出場した小口貴久さんと結婚。ご主人も全面的にバックアップしてくれます。

冬はスパイラルで練習しながら国際大会に出場し、夏は長野・東京で走り込みや体幹トレーニングという生活。今の課題は―?

「体重を増やすこと、増えてもしっかり走れる体をつくること。メンタルでは瞬時に判断する力や何事にも動じない心。スケルトンでは小さなミスが致命的になります。うまい選手はミスしてもすぐに修正できる。やることはいっぱいありますが、なんとか平昌までに間に合わせたい」

小口さんからは1年後の平昌五輪を見据えた力強い言葉が返ってきます。

「私の強みは、歩みはのろいけれど、着実に一段ずつ上ってきたこと。速くなったという手応えを励みに、また一段上る。そうやってようやく勝てるラインが見えるところまで到達しました。もう一段上れれば…」

今季は2月ドイツで開催される世界選手権、平昌での国際トレーニングが控えています。オフシーズンを挟んで11月から始まる2017-2018シーズン国際大会、12月全日本選手権―そこで日本の出場枠、代表選手が決まります。

「いまこうして選手を続けていられるのは、長野市の皆さんに助けてもらったから。皆さんの温かさに心から感謝しています。平昌五輪に出場し、いい結果を残して恩返しをしたい」

これからの大会には全部勝つつもりで臨むという小口さん。長野五輪が残したレジェンドの申し子としても五輪出場を果たしてほしいと願わずにはいられません。

13番が小口さんのそり。スケルトンのそりは約30㎏と重く重心が低いため安定感があり、転倒は少ない。(写真:小口さん提供)

(2017/02/15掲載)

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会える場所 長野市ボブスレー・リュージュパーク(スパイラル)
長野市中曽根3700
電話 026-239-3077
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