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No.321

宮沢裕一さん

宮沢みえさん

宮沢農園 9代目農園主

野菜や花を育てる楽しみや喜びを
より広く、多くの方へ届けるために

文・写真 合津幸

「農業って面白そう、農家ってステキ」。そんな風に思わせてくれる農園主夫妻がいます。野菜苗・花苗・シクラメンの生産販売を手掛ける、長野市若穂の宮沢農園9代目園主・宮沢裕一さんとみえさんです。イキイキと農業に従事する2人の、農園や農業に対する想いに触れたくて、苗の直売を間近に控えたハウスを訪ねました。

結婚4年目で9代目を継承

裕一さん・みえさん夫妻が、裕一さんのご両親から経営権を移譲されたのが結婚4年目のこと。今から約7年前の出来事です。農家に生まれ育ち、農業大学校で学んだうえ、東御市のシクラメン農家で修業を積むなど、農園を継ぐ覚悟を決めていた裕一さん。それでもお父様の突然の決断には驚いたそうです。

「当時はしばらくは両親の元で勉強させてもらおうと思っていたのですが、父が早い段階で私たちに任せようと思ってくれたみたいで…。その後も両親は支えてくれましたから過度な不安はありませんでしたが、妻は突然経理関係のことを任されて大変だったと思います」(裕一さん)

ところで、そんな大きな決断をもビシッと下す8代目農園主のお父様は、なかなかに破天荒で革新的な考えの持ち主だったようです。

規模拡大や市場出荷などを検討した時期も。「悩んだ末、さらに直売に力を注ぎ、オンリーワンたる魅力増を目指そうと決めました」

「ビニールハウスでの生産に力を入れ始めたのが約40年前、父の代からです。父は高校生の頃から、当時なじみのなかったハウス栽培に着目し自ら挑戦したそうです。『今日収穫だから学校休みます! 』と、堂々と先生に言ったらしいですからね(笑)。新しいことにも臆せず、しなやかかつ貪欲に道を切り拓いて来た人です」

その精神は経験を重ねても変わることはありませんでした。たとえば、自分より明らかに経験の浅い裕一さんやみえさんのアイデアや意見にも耳を傾け、異なる考えも柔軟に受け入れてくれました。

また、8代目を退いた後も共にハウスで働きながら2人を支え続けています。野菜と花苗の生産販売と同じくらいにシクラメンの生産販売を拡充させようと奮闘する裕一さんとみえさんを、同じように温かく見守ってくれました。だからこそ夫妻も、何事にも強い気持ちでチャレンジできるのでしょう。

「農家が手掛けるからこその付加価値を提供したいんです。珍しい品種を取り入れたり、生産者と消費者双方の視点から魅力ある売り場づくりを実現したりと、私たち夫婦らしいスタイルを追究し、確立させたいと思っています」

年末のシクラメン直売の様子。品種の特徴や育て方のコツを記したポップを作成するなど、気持ちの良い売り場づくりを心掛ける(画像提供:宮沢農園)

家族と共にある農業と子育て

理解ある両親の支えを得ながら、夫婦が力を合わせて歩む農家としての道。2人の穏やかな笑顔から、自ずと充実ぶりが伝わって来ます。

とは言え、公務員の家庭で育ち、一般企業で働いていたみえさんにとっては、予想外の苦労もあったに違いありません。

「さすがに経営を任された当初は、経理業務など慣れない仕事に苦労しました。でも、それらの時期を含め、結婚してからのこの10年は本当にあっという間でした。農業も子育てもすべてが初めての経験でしたが、私なりに楽しみながら向き合って来られた気がします」

なぜなら、先の裕一さんの言葉通り、農家としても人生の先輩としても経験も実績も豊かなご両親という頼もしい後ろ盾があったから。そして、どんな時も必ず家事を半分担ってくれる裕一さんというパートナーがいてくれたからでした。

第5子となるお腹の赤ちゃんと共に農作業に励むみえさん。子育てと農業と...裕一さんのサポートがあるとは言え、尊敬します!

「私が農作業をしている間にお義母さんが子どもを寝かしつけてくれるなど、いつも家族に助けられています。私たちには『誰がこれをしなければならない』という決まりはなくて、その時にできる人がやれることをやる、という考え方なんです。ですから、心身ともに無理なく、こうして笑顔でいられるのかもしれません」

また、初めは農業の知識も技術もゼロからのスタートだったみえさんですが、彼女だけが持つ強みもありました。それは、お客様が何を求め何に感動し喜ぶのかという、消費者の立場での意見やアイデアを述べられるということでした。

その強みにいち早く気付いたのはやはり、みえさんの一番近くにいた裕一さんだったようです。

「私はどうしても生産者の考えに偏ってしまうんですが、妻は違います。純粋にお客様の満足に結びつく心配りやこれまでにない仕掛けを考えることができるんです。”農家の生産販売”と掲げる限り、商品の質はもちろんサービスの面でも『さすが専門家だ』と言われるレベルでなければなりませんから、夫婦それぞれの強みを生かしてさらに上を目指したいです」

ハウスではお客様との出会いを待つ花々がズラリと並ぶ。「野菜や花を育てる楽しみをより多くの方に味わってほしいです」

オンリーワンの魅力ある農家に

生産販売の最大の魅力は「お客様と直接触れ合えること」と、裕一さんとみえさんは口を揃えます。どんな野菜や花を育てたいのか、どのような育て方や管理方法を実践しているのか等の情報を得ると同時に、お客様に的確なアドバイスを与えることができるからです。

また、育てる楽しみや成長を見届ける喜びなど、苗の販売がお客様の暮らしや人生に潤いや生きがいをもたらすという意義も感じているそうです。

「農家がいい物を作るのは当たり前。最も大切なのはニーズとズレのないものを提供することです。お客様の信頼や期待を裏切らぬよう、いただいた情報を生かして種を厳選し、育て方にも工夫を凝らし、できる限り良い状態で手に取っていただけるよう努めています」

ところで、宮沢さんたちのように個々の感性や発想力を生かして農業を楽しむには、どうすれば良いのでしょうか?

「農業は儲からないとか、休みがないとか、マイナスイメージがあるかもしれません。確かに、お客様の立場に立たず、自己満足だけで突っ走る生産者は稼げなくなるでしょう。要はやり方次第です。私たちの場合はオンリーワンになるために知恵を絞り実践することを重視しています」

夫妻が特に自信を持ってオススメするナスの苗木。病気に強くて頑丈な元木に、実の味が良く育てやすい品種を接ぎ木している

現在、そうした考えのもと農業を営み、家族が暮らせるだけの収入が確保できているため、金銭面では多くを望んではいないそうです。農繁期は集中して働き、遊べる時は全力で遊ぶ。そうやって夫妻は、農業も家族も大切に育んで来ました。

「新しい農家の形や農業のスタイルを探究する若い世代がもっと増えたら嬉しいですね。ただ現実問題として、土地利用の法律とか許可・申請の壁とかいくつもの高いハードルがあるんです。もう少し農業の可能性を広げられるような法律に変われば、長野市内にも他にはない魅力を持った農家が増えて、農業の面白さが多くの人に伝わると思います! 」

そう話してくれた2人の清々しい笑顔や迷いのない語り口が、すでに、農業に携わることの素晴らしさを伝えているかのようでした。

ナスの苗の手入れをする2人。「農園のことを話しながら作業をすることが多いですね。アレどうしようとか、こんなことをやりたいだとか」

(2016/04/21掲載)

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会える場所 宮沢農園
長野市若穂川田2290
電話 026-282-2303
ホームページ http://m-nouen.dee.cc/

★ 2016年の野菜苗・花苗の販売は5月3日(火・祝)〜22日(日) 9:00〜18:00。会場は上記住所とは別のハウスで行われます。詳細はホームページにてご確認ください

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