No.301
降幡
浩樹さん
真田宝物館 学芸員
先人たちが残してきた物を
次代につなぐ
文・写真 安斎高志
偶然に残る文化財はない
1月からNHK大河ドラマ「真田丸」がスタートし、真田十万石のお膝元である長野市松代も盛り上がりを見せています。1月17日からは真田宝物館で「信州松代 真田大博覧会」と特別企画展「戦国の絆」がスタートします。
足かけ15年にわたり同館で学芸員を務めてきた降幡浩樹さんは、松代の価値を見直してもらうチャンスだと言葉に力を込めます。
「古い資料が『偶然に』残るなんてことはめったにないんです。何十年も何百年も、人の意思が繋ぐんです。松代には多くの文化財がありますが、古いものに価値を見いだしてくれている人の心が繋がって、それが途絶えなかった。ひとりじゃなくて、多くの先人たちが繋いできたわけです。そうして継承された文化が地方の色になる。大河ドラマはそのことに目を向けてもらうきっかけになりますよね」
今回の特別展は、12月まで続く異例の長期企画。真田家が江戸以前まで治めていて、ドラマの主な舞台となっている上田市と差別化し、松代ならではの強みを十分に出した展覧会となっています。
「死んで家名を残した弟・幸村に対して、兄・信之は生き残って家名を残しました。だから信之が藩祖となった松代には『実物』がたくさん残っているんです。教科書をつくる基になったような資料がたくさんあって、それをひとつずつ見ていただくのは本当におもしろいと思います」
「昇梯子の具足」(真田宝物館所蔵)。信之の父・昌幸が着用していた
学校が苦手な人ほど来てほしい
降幡さんが歴史に興味を持ったのは小学生のころ。机に向かうより、遺跡の見学や発掘調査に連れて行ってもらえることが楽しかったと振り返ります。大学は日本文化学科に進み、近世の歴史を専攻。卒論のテーマは地元である岡谷の女工さんたちの教育についてでした。
昔から学校が苦手だったという降幡さん。教師以外で歴史に関われる仕事を探していて気付いたことがありました。
「図書館、公民館、博物館など、学校以外に勉強できる施設はいっぱいあって、勉強したいことがあれば、そこですればいいんだということがわかったんです。そういう環境が整っているというのが日本のいいところ。だから、学芸員になった今は、僕のように学校嫌いな人こそ博物館をおおいに利用してもらえばいいんじゃないかと思っています」
長野市に入職してすぐ真田宝物館に配属されて9年勤務し、いったん長野市博物館に異動となりますが、再び宝物館に戻り6年が経ちました。当初は気付かなかった松代の魅力に、時を経るにつれて気付いていき、現在は研究したいテーマが山のようにあると笑顔を見せます。
「真田信之肖像画」(真田宝物館所蔵)。生きて家名を残した兄・信之のおかげで幸村にまつわる文化財が松代に残った
歴史を大事にする人が多い町
長野市の5分の1の文化財が集中する松代地区。真田宝物館以外にも多くの真田に関する文化財があります。真田邸以外にも、矢沢家表門、小山田家、旧前島家住宅など、真田家の親族や重臣などの屋敷も多く残っています。
「松代は自分の家の歴史を大事にする人が多いですね。だから文化財がなくなっていく速度が他の地域より遅いんです」
真田宝物館の文化財は、真田家から寄贈されたものが多くを占めていますが、そこにも歴史をつなぎたいという強い思いがあったといいます。
「歴史と文化を未来に継承してほしいというのが、寄贈してくださった真田家12代、幸治さんの意思でした。それを今も守っています。大名道具の展示に特化している館は全国でもそれほどない。それが長野市にあるということはとても貴重なことですね」
先人たちが強い意志を持って残してきた物を、次代につなげていくことが学芸員の使命だと話す降幡さん。真田宝物館に限らず、町の人たちが大事にしてきた歴史を感じに、松代を訪れてみてはいかがでしょうか。
旧・前島家住宅は、昌幸と幸村を支え大阪についていった前島氏の末裔が守り続けた
人気投稿
- 高野洋一さん うどん たかの店主...
- 玉井里香さん インスタグラマー、SNS運用コンサルティング「タビビヨリ...
- 三井昭さん・好子さん 三井昭商店...
- 星 博仁さん・琴美さん 「中華蕎麦 ほし乃」「麺道 麒麟児」...
- 高橋まゆみさん 人形作家...
会える場所 | 真田宝物館 長野市松代町松代4-1 電話 026-278-2801 ホームページ http://www.sanadahoumotsukan.com/ |
---|