無垢材の風合いを大事にした、シンプルなデザインの家具を作る工房「Block Atelier furniture」（ブロック・アトリエ・ファニチャー）は、長野市信州新町の小高い丘の上にあります。

製作しているのは、ダイニングセットからチェスト、ソファなど幅広く、オリジナル商品のほかオーダーメイドにも対応しています。いずれも質感がよく、飽きの来ないデザインです。

工房を営む家具職人、前澤雅洋さんは、旭川での修業を経て独立して5年目を迎えます。

「椅子やベッドなど、自分が作ったもので休んでもらえるというのは、すごくうれしいことです。毎日のことですしね。それを作る仕事ってすごいなと思うんです。それは、自分で工房を始めてから、すごく感じるようになりましたね。この気持ちは、大事にしなければいけないと思っています」

事務仕事のほか、一部製作も手伝う妻の美紀さんは「手前味噌ですが」と笑いながらも、「見れば触りたくなるし、触ればわかるんですけど、うちは仕上げが全然違います」と胸を張ります。

前澤さんは松本市出身。高校卒業後、デザインの専門学校に入学します。

「元々はデザインをやりたいと思っていたんですけど、課題で出された模型を作るのが好きで、そのうち作る方に興味が行きました。家具職人の道を選んだのは、デザインを見るのが好きだったのと、周りで他にだれもやっていなかったから（笑）」

卒業後は松本市の会社で店舗什器を製作する仕事に就きます。その当時、「安く、速く、たくさん」作ることを求められることに抵抗感を覚えていた前澤さん。

「今でこそ、大事な要素だとわかるんですが、当時は若かったんです。『手作業なんて時間がかかるからやるな』と言われていたし、カンナの刃を研いだこともなかくて、そんなの家具職人じゃないと思ったんですね（笑）」

3年間、勤めた後、前澤さんは車一台に最低限の荷物を積み込み、家具の五大産地といわれる旭川へ飛びます。

そこで目ぼしいメーカーや工房を回って自分を売り込んだところ、拾ってくれたのがインテリア北匠工房の吉村純一社長でした。

「正社員10人くらいのメーカーだったんですけど、家具作りの1から10までやらせてもらえました。休みの日は工房を開放してくれて、好きなものを作らせてくれた。作ることが好きな人間にとって、それは何よりの喜びでした」

6年の修業を経て、一級家具技能士の資格と職業訓練指導員の免許を取得したことをきっかけに松本市に戻り、信州新町にある父の生家に工房を構えました。

工房名は、コンクリートブロックでできた納屋を改装したことから名づけました。

恩師の吉村社長は小うるさいことを言わなかったそうですが、ひとつだけ徹底していてたたき込まれたことがあります。

「細かいことは言わないけれど、掃除しないとすごく怒る。出来上がりの製品はきれいなものを目指しているのに、工場が汚いなんてありえないと。製作している場所がきれいじゃないと、きれいなものは絶対つくれないと繰り返し言われました」

なるほど、工場内は古い納屋を改修したとは思えないような清々しい印象で、道具類も整然と並んでいました。

現在は松本市に居を構えていますが、来年には信州新町に生活の拠点も移す予定です。

「製作するにはすごく静かでいいところなんです。夫婦二人で移住して、ここを拠点にできればいいなと思っています。それと、個展を長野市でやってみて、人や雰囲気がすごくよかったんです。このブランドをやっていくには長野市がいいと思いました」

商品を自由に見てもらえるように、今秋には倉庫をきれいに改修しようと考えています。「試行錯誤が続きますよ」と笑う前澤さんですが、美紀さんいわく「職人然としていたのが、しゃべり方もやわらかくなってきた」とのこと。

目指すのは、作りたいものを作る作家ではなく、お客さんを第一に思う家具メーカーです。