No.226
mako
さん
スケッチ・ジャーナリスト
日常の中にひそむ
きれいなものや、あたたかいものを
文・写真 安斎高志
リアルの世界とちゃんと繋がっているもの
ゴールデンウィークに合わせて、善光寺表参道を花で彩る「善光寺花回廊」が今年も開かれます。
今回の開催を告げるポスターには、街の人たちの様子がごく自然に描かれています。見慣れたはずの光景なのですが、その人たちの表情は豊かで、なぜかわくわくさせられる、そんなとても素敵なデザインです。
手掛けたのは、スケッチ・ジャーナリストのmakoさん。街と人とのつながりを表現したかったと話します。
makoさんはイラストだけでなく、ライブペインティングや壁画制作でも注目を集めていますが、「アーティスト」と呼ばれることに違和感を覚えることもあるそうです。自己の内なるものの表現としてではなく、毎日欠かさないというスケッチと言葉を通して、メッセージを伝えられる人でいたいと考えています。
「スケッチは、自分の周りで起こっていることと、考えたこと感じたことを伝えていくための方法の1つ。私自身を見てほしいというものでもないし、空想の世界とかでもなくて、リアルの世界とちゃんと繋がっているもの。日常の中にひそむ、きれいなものとか、あたたかいものを写し取るんです」
アトリエに積み重なったスケッチブックを見ていると、視点を変えれば日常の光景はこうも表情に富んで見えるものかと、はっとさせられます。
「善光寺花回廊2015」のポスター。表情豊かな人たちが描きこまれ、見ていると幸せな気持ちにさせられる
仕組みがうまく回るかたちが好き
絵画が好きな母の影響で、幼いころから毎日、絵を描くことが当たり前だったというmakoさん。ものづくりで社会とつながりたかったという理由から、大学は芸術工学部を選びます。そこでは、建築を専攻したものの、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、空間デザインも横断的に学びました。そして、大学で出会った人たちの存在と、学んだことがmakoさんの軸を形成していきます。
「大学には素敵な先生がたくさんいました。川崎和男先生という方は、命を救うための形ということをテーマにしていて、人工心臓や車いすなどをデザインしていました。見た目がきれいなだけでなくて、仕組みがうまく回るかたちをすごくきれいだと思うようになりました」
卒業後は、オーストラリア・タスマニアの大学院を選びます。
「自然が大好きだったので、世界で一番空気がきれいな場所を選んだということもありますが、森がたくさんあるから、森の中の建物はどうあるべきだろう、環境に負荷をかけない建物とはどういうものだろう、というテーマに強い結びつきがある土地なんです」
卒業制作では、医療機関における癒しの空間をデザインし、オーストラリア建築士会タスマニア支部の賞も受けました。
そして、大学院で学んだことに加えて影響を受けたのが、現地で学ぶ友人たち。大自然の中で暮らし、森を2時間歩いて街へ出たり、週の半分は川で泳いだり、シェアハウスには初対面の人が日常的に出入りしていたりと、自由で開放的な生活を送っていたそうです。
実は、このタスマニアで暮らした約4年が、長野に移り住む伏線でもあります。
透明水彩絵の具の色の重なり方や混ざり方が好きだと話す
幸せな瞬間を描きとめる
帰国後、地元の愛知県で働いていたmakoさんは、日本人特有の生真面目さと窮屈な生活に息苦しさを感じていました。タスマニアでの生活とのギャップが大きかったせいです。
我慢の限界に来た頃、友人の紹介で、当時、長野市にあったアジアン・ナイト・マーケットの辻和之さん(ナガラボ№052)のもとを訪れます。辻さんの強烈に自由な生き方が、きっとmakoさんによい影響を与えるだろうという、友人の気遣いでした。ところが、折悪く辻さんは写真の仕事で出張に出るところ。落胆するmakoさんに、辻さんはあっさりと部屋の鍵を渡し、出かけて行きました。
「日本にもこういう人がいるんだなと、本当にうれしかった。タスマニアでの自由な日々を思い出しました。そして、街なかからすぐのところに、山があるというのもうれしかったですね」
そして、長野滞在2日目にはCAMP不動産プロジェクトという建築関連の仕事に伝手ができ、とんとん拍子に長野移住が決まります。
「子どものころの絵日記の延長」というスケッチブックは、もう何冊目か数えきれない
この1年、壁画やイラストなどの仕事が増えてきているmakoさん。加えて、雑誌の執筆や翻訳の仕事もこなします。しかし、さらに新たな社会とのつながり方も模索しています。
「頼まれるままに絵を描いていたら、どんどん絵描きみたいになっていったんです(笑)。それは一つの軸としてやらせていただきつつ、今後は大学院で学んできた、癒しのための空間をつくるということも一つの軸にしたいです」
絵の方も新たな挑戦が始まっています。花回廊期間中には、透明な屏風の片面にmakoさんが線を描き、反対側からは観客が自由に色をつけられるという、初めてのスタイルでライブペインティングを行います。
その場にいる人と話しながら、その人たちを絵に描きこんでいくのが好きだというmakoさん。観客が色をつけている姿が、またその絵に描きこまれていくという、楽しげな光景が想像できます。
「絵や色は、人の気持ちを元気にする空間をつくります。幸せな瞬間をどんどん描きとめていきたいですね」
取材中の筆者も描いてもらった。「その場で単純に喜んでもらえることを大事にしている」
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会える場所 | 善光寺花回廊 電話 2015年 5月3日 11時~15時 中央通特設会場 |
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