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No.139

井出

ひろかさん

長野県赤十字血液センター長野献血ルーム看護師

リラックスを促し、ぬくもりのリレーを手伝う

文・写真 Rumiko Miyairi

人を救う仕事に復帰する

「採血を行うときは毎回緊張します。健康な方から血液を頂くわけですから」

とひたむきな表情で話す看護師の井出ひろかさん。現在、長野県赤十字血液センター長野献血ルームの看護師として採血業務に携わっています。

看護学校を卒業して、はじめに就職したのは長野市内の総合病院でした。診療科がいくつもある現場で大勢の患者さんを相手に、第一線の看護師として日夜問わず業務をこなしていました。その後、出産を機に職場をあとにしますが、子どもが就園するころになると以前の仕事仲間から復帰しないかと声が掛かります。

「ちょうどそのころ、声を掛けてもらえたのもあったので復帰を考えました。でも正直、子どもが4歳になったばかりでしたので、まだまだ手がかかる時期でしょう。そう思うと、子育てをしながら看護師として働けるか、自信が持てず悩みました」

やりがいがある仕事をもう一度やりたい、でも母になった自分は守るものがほかにもある。子育てをしながら働くお母さんの中には、どちらにも優先順位を付けがたいと葛藤したことがあるかと思います。私も過去に復帰した当初は同じで、井出さんには共感するばかりでした。

「失敗が許されない現場だという当たり前のこと。その当たり前のことを毎日こなすためには、いつも緊張していないといけませんからね。でも、迷っているならやってみようと思いました」

仕事と子育てのどちらもこなしたいと思った井出さんは「とにかくやってみる」という前向きな姿勢で、平成12年10月から長野県赤十字血液センターで働き始めます。

「採血は緊張する方もいますから」と和やかに優しく話しかけながら業務をする井出さん

家族の協力でとれたワークライフバランス

血液センターの業務は、日中だけというメリットがあり家事や育児のバランスもとれました。働きはじめたころは、特に家族の協力があって両立できたといいますが、今でも忘れない珍事件があったと、笑みを浮かべながら話します。

「はじめに担当したのが献血バスでした。バスの出発前には積荷作業などがあるので、自宅を6時には出なければならなくてね。それに合わせて家族も起きて朝食をとってもらっていました。ある日、いつものように忙しく朝の準備を済まさせた娘に、あと靴を履けば登校できる状態までにして出勤したんですが、しばらくして他のお母さんから『登校班の集合時間になっても娘が来ない』と連絡をもらったんです。どうしたのか心配して、自宅に戻ってみると、娘は玄関先でランドセルを背負ったまま寝てしまっていたんです(笑)」

一見ヒヤヒヤするエピソードでしたが、そのときは旦那さんも2度寝してしまっていた、というオチもついて一家の和やか雰囲気と協力的な家族の姿がみられました。

「家族の協力と頑張りがあってこそ看護師をやってこれたと思っています。特に、娘はがんばってくれましたね。たまには学校に行きたくないことも友達関係で悩むこともあったかもしれない。そんなときしっかりと聞いてあげられなかったこともあったんでね」

そんな井出さんの娘さんも現在高校生。母親の背中を見て育った娘さんは「頑張って働いて」と、励ましてくれるようになったそうです。

リラックスして献血できる新しい空間

「とにかく一度来てください。リラックスできますよ」

長野献血ルームは、平成25年3月、旧長野県赤十字血液センターのビルから移転し、中央通り沿いにあるトイーゴウエストの2階にオープンしました。

この取材で初めて行ってみましたが、まるでリラクゼーション施設に来たような優雅な空間で驚きました。長野献血ルームのスタッフは10人。そのなかで看護師は平日6人体制(週末は7人体制)で採血業務をこなしています。

「ルームのお休みは、大みそかか、元旦のどちらか一日だけで、スタッフはチームを組んで交代制でやっています。ですからほぼ毎日やっているので、定期的に来てくれる献血者さんとは顔見知りになるほど仲良くなれるんですよ」

長野献血ルームの待合には陶芸品や絵画などのギャラリーも設置。ドリンクもフリーで待っている時間も寛げる

長野献血ルームの献血者の目標は一日50人。

献血者は、受付を済ませて医師の問診、血液検査をするための採血、次に血液濃度などの判定結果を経てようやく献血になります。

「安全に献血をするためには手順を守ることが基本です。そして大切な血液を人から頂くので、献血者さんには充分リラックスしてもらいたいと思っています。そのためにも日頃から、心地いい空間になるように工夫していますよ。ルーム内も、ちょっとした本のコーナーやフリードリンクもあるので、好きなだけ寛いでもらってかまいません。最近は、ゆっくり勉強していく学生や、読書する人もよく見掛けるようになりました」

待合コーナーには自由に読むことができる書棚も。マンガから小説までそろっている

人のぬくもりを感じる仕事

取材したその日も、テスト期間中で帰りが早いという高校生が、和気あいあいとした雰囲気の中、順番で献血している姿がみられました。新しいルームになって、そういった学生や若い女性の献血者も増えたといいます。

「成分献血は18歳からできるんですよ。初めての方は緊張しているのが伝わってくるので、こちらでも話しながらやるんです。最近は、娘と同じ歳ぐらいの献血者さんもいるので、母親世代の私ですが、友達みたいに話が盛り上がるんで、楽しいですよ」

ゆったりとした献血空間になって、献血者の年齢層も広がった長野献血ルーム。井出さんは志を高く持った献血者と出会います。

「先日、100回を超えて成分献血などをしてくださった献血者さんと話す機会があったんです。すごく真面目な人で1回目の献血から、結果や要した時間などをデータに残して、血液の成分の勉強もして、これで人が助かる!って、思いながら毎回献血していたと言っていました。そして、少し元気を失くして、70歳になるので献血ができなくなると明かしてきました。いままでそんな強い思いを持ちながら、献血をしてくれていたことを初めて知ったんです」

人を救いたい、という献血者の熱い思いに触れた井出さん。

あらためて仕事へのやりがいを感じ、看護師として襟を正します。

「血液を扱う仕事って、人のぬくもりを感じられる素晴らしい仕事です」

そのぬくもりのリレーを手伝い献血者の気持ちに温かく寄り添えるのは、厳しいプロ意識を持ち、支え合う人の優しさを知っている井出さんだからできるのでしょう。

それぞれの椅子にテレビが備えられているのでリラックスした雰囲気の中で献血ができる

(2014/11/20掲載)

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会える場所 長野県赤十字血液センター長野献血ルーム
長野市問御所町1271-3
電話 026-219-2480
ホームページ http://www.nagano.bc.jrc.or.jp/

FAX 026-238-2480
フェイスブック https://www.facebook.com/nagano.bc.jrc

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