No.125
北村
たづるさん
ままおーぶん
「自分の子どもに食べさせたい」
ママの思いから作られたお菓子
文・写真 Chieko Iwashima
愛情から生まれたレシピ
「妊娠すると女性って食べ物への意識が変わる方が多いんですよ。私もその一人。赤ちゃんがお腹に入ってから、商品表示のラベルを見たりするようになったんです。自分だけだったときは気にしていなかったのに(笑)。無添加で身体にやさしいおやつを探している人がこんなにいるんだ!って、この仕事を始めて改めて感じています」
そう話してくれたのは、長野市川中島町にあるお菓子の工房「ままおーぶん」のオーナー・北村たづるさん。保存料や香料などを使わず、自然な味を大切にしたお菓子を心を込めて手作りしています。食物アレルギーがある人向けの、卵や乳製品を使わないお菓子もおいしいと評判です。
ままおーぶんを開いたきっかけは、スタッフでパティシエのちえさんが食物アレルギーを持つ自分の子どものために作っていたお菓子でした。
「ここをオープンする前に、ちえさんはいつも子どものためにお菓子をおうちで手作りしていたんです」
ちえさんは、食物アレルギーを持つ子どもでも食べられる商品をいろいろ探したものの、どれもパサパサとしていて味気ないものだったといいます。なんとかしてわが子においしいものをと試行錯誤を繰り返して生まれたオリジナルレシピ。今はさらに洗練させたレシピでままおーぶんが引き継いでいます。
無垢な雰囲気を漂わせているのに、いくつでも食べたくなるような魅惑のお菓子(写真提供:ままおーぶん)
「あるとき、ちえさんの作ったお菓子を私が幼稚園のお母さんたちに出したらとても好評で。このお菓子を買いたいという声が出てきて、それなら作って売れる場所を作ろうと話が進んでいったんです」
2010年12月のオープン以降、子どもの食物アレルギーに悩んでいるお母さんや、市販のお菓子に不安を感じている人を筆頭に評判が広まり、当初はたづるさんとちえさんだけだったスタッフも今では7名に増えました。昔ながらの育て方で元気に駆け回っている鶏の卵や長野県産の地粉など、出所がわかって安心できる素材を使っていることも、多くの人の心をとらえています。
工房の直売所で購入できるほか、ネットショップ販売も展開(写真提供:ままおーぶん)
一度食べたら忘れられない味。リピーターが続々と
一番人気はシフォンケーキ。一口ほおばれば、シュワッと心を弾ませる音が聞こえ、軽い食感でありながら素材の旨味が凝縮した味で食べ応えがあります。そして、子ども向きの味かと思いきや、ブルーベリー味にはシナモンが利いていたり、抹茶味はしっかり濃かったりと、大人っぽくておしゃれな味わいです。
「うちのシフォンケーキは果物や野菜をたくさん入れているので、水分量も多く素材の味もぎゅーっと出ていると思います。生クリームなしで素材の味を楽しんでいただけたらと思います」
誕生日用にデコレーションケーキの注文も多く、食物アレルギーにもできるだけ要望に沿えるように努めています。小麦粉、そば粉、卵やバターなどの乳製品も同じ厨房内で使っているので、ごく微量でもアレルギー反応が出てしまう人には難しいですが、牛乳の代わりに豆乳を使ったり、豆腐でクリームを作ったりなどは可能。子どものために購入するリピーターが多いそうです。
「市販のものを食べられない子にとっては、お店で買ったケーキは憧れですよね。そして、家族みんなで同じものを分けて食べられる幸せは、子どもはもちろん、お母さんや家族の幸せにつながる。そんなお手伝いができればままおーぶんも幸せです」
工房の直売以外に、代理販売店も数店舗ありますが、珍しいのはコンビニです。全部手作りで生産量にも限りがあるままおーぶんのお菓子と、大量生産で全国どこでも同じものが食べられるコンビニは、ある意味、真逆の場所ですが、3年前からのお付き合いだそうです。
「知人のコンビニに置いてみないかと声をかけていただいて。こんなに売れるスイーツ見たことないって言われたのがうれしかったですね。現在は5店舗のコンビニに置かせていただいています」
今年の夏から、軽井沢プリンスショッピングプラザ内の自然食レストラン「晴れた日のテラス」のビュッフェメニューやカフェメニューにままおーぶんのシフォンケーキやかぼちゃのケーキが並び、物販コーナーではクッキーも販売されています。また、篠ノ井のAコープファーマーズ南長野店でもシフォンケーキ、クッキー、ベーグル、マフィンが購入できます。
アレルギー対応のクッキーも販売
お菓子に気づかせてもらったこと
「いろいろなところから声をかけていただいて本当にありがたいです。ご縁があるとつながるから、そのチャンスを大切にしたい。それには、広い視野で物事を見ること、自分の軸を持つこと、仲間とともに歩むことが大事かなって。気づかせていただいたことに感謝し、毎日そのことを意識して暮らすように心がけています」
たづるさんは、大学卒業後は建築関係の会社で事務の仕事をしていました。その後、ニューヨークに渡ってコンピューターとフラワーデザイナー資格を取り、そのままニューヨークの花屋で働いていた経験もあります。帰国後、結婚し出産した後も、小学校の英語通訳の補助に入ったり、もんぜんぷら座で外国人向けの日本語講座の先生をやったりと、お菓子作りとは無縁のところにいました。
「ニューヨーク!?って驚かれることもあるんですが、たいしたことないです。それがどこであろうと自分の暮らしをしっかりしていくことが大事だと思います。確かに日本ではできなかった経験をさせていただいたおかげで図太くもなりましたが(笑)。出てみて日本人の素晴らしさが改めてわかったり、平和に暮らしていける現状に感謝する気持ちを抱いたりしました。この経験をこれからの人生に生かしたいと思っています」
一見シフォンケーキのようなふわふわとやさしい雰囲気のたづるさんからは想像できなかったたくましい発言に、ちょっと意外な感じがしましたが、そんな強さもまた、ままおーぶんの味を守るために欠かせない部分なんだと思いました。
「今もお菓子のおかげでいろいろ気づかせてもらっています。お菓子でつながったご縁に感謝して、これからはモノとヒト、ヒトとヒトをつないでいくようなお手伝いができたらうれしいです。今後の夢は、素敵なスタッフが増え、ひだまりのような空間のカフェが作れるといいなと思っています。カフェでやりたいことがいっぱいあるんです。これからままおーぶんがどうなっていくのか考えるとワクワクします(笑)」
各地で開催されるイベントにも年に10カ所ほど出店。「イベントはお客さんの声が生で聞けるので楽しいです」と北村さん(写真提供:ままおーぶん)
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