No.467
小倉
翔太さん
ODDO coffee 店主
スペシャルティコーヒーの魅力を伝える大学生運営のコーヒースタンド
文・写真 波多腰 遥
長野駅前の末広町交差点を善光寺方面へと進むと、左手に見えてくるのがコーヒースタンド『ODDO coffee(オッドコーヒー)』。2021年2月末にオープンしたこのお店を運営しているのは、長野県立大学に通う現役の学生たちです。建物の一角に設けられた小さな店内を覗くと、一杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れる若々しい青年の姿が伺えます。開店から数ヶ月、店主を務める小倉翔太さんに現在の心境を伺いました。
味わい豊かなスペシャルティコーヒーを五感で体験
自家焙煎のコーヒー豆の販売やハンドドリップコーヒーの提供をしているODDO coffeeが扱うのは、日本でも近年注目を集めているスペシャルティコーヒー。生産から流通、販売に至るまで適切な品質管理がなされ、消費者が確かに美味しいと評価するコーヒーのことを指しますが、その最大の特徴は口に広がる風味です。コーヒー=苦い飲み物という固定観念を打ち壊すように、フルーティーな酸味や甘味が口の中に広がります。
「スペシャルティコーヒーは、生産地の気候や標高、生豆の精製処理方法など、生産される環境の要素一つひとつの違いで、最終的な味に個性が生まれやすいんです。生産地と処理方法の組み合わせが変わったときに生まれる味の違いを見つけたり、いろいろなコーヒーの味を知っていくのが楽しいんですよね。そのせいか、自分が面白いと感じた豆を仕入れがちです」
そう話す小倉さんがセレクトしたコーヒー豆には、生産環境に加えて酸味・甘味・苦味・香り・コクのバランスを示したレーダーチャートが記載されたカードが添えられています。コーヒー選びが楽しくなるような仕掛けが施されていますが、なによりもまず目に入ってくるのは、水彩で描かれたような色鮮やかなデザインです。
▲店頭には常時5種類程度のコーヒー豆が並んでおり、お好みの一杯を選んでイートインスペースやテイクアウトで飲むことができる。もちろん豆の状態での購入も可能
「食べ物の見た目は口に含んだときに感じる味にも影響を及ぼしますが、スペシャルティコーヒーの見た目は一般的なコーヒーと変わりません。特徴的な味わいをより強く感じてもらうためにも、コーヒーごとの風味から連想される色や文字情報と一緒に楽しんでもらっています。例えば、飲んだときに頭に浮かぶ果物がレモンであったら、黄色を基調としたデザインにしたり。味の違いを明確に楽しんでもらうための工夫に気を遣っています」
▲エチオピア南西部・ゲイシャビレッジ農園の「ゲイシャビレッジ チャカ」。香り高く、ストロベリーのような味わいが特徴。コーヒーとのペアリングとしてデザートの提供も
ハンドドリップ姿に憧れた少年が、お店を持つまでの3年間
静岡県出身の小倉さんは、2018年に開学した長野県立大学の1期生として長野へ転居。在籍するグローバルマネジメント学部では起業家育成に力を注いでいますが、入学以前は現在の状況を想像していなかったそうです。
「コーヒーを淹れている立ち姿がかっこいいなあと思って、自分もやってみたくなったんです。高校3年生のときにコーヒー器具を買って、コーヒー豆を買える場所が身近にないか探してみたら、意外と近くに豆だけを売っている焙煎所があって。それから定期的に足を運ぶようになったんですけど、そこで働いている人たちの雰囲気というか、自然体な空気感に惹かれていったのが、今にもつながっているような気がします。ただ、その当時は自分でお店を持つなんて考えていませんでした」
大学に進学すると、学校で経営学や経済学を学びながら、コーヒーの知識をより深めていくために長野駅前のコーヒー店でアルバイトする日々を送ります。
「幅広いスペシャルティコーヒーを扱うお店だったので、色々なコーヒーの味を知ることができました。ただ、学生をしながらだとアルバイトに入れる頻度も少なくて、そこで働きはじめた理由のひとつだったエスプレッソマシンに触れることが、学生のうちには叶いそうもなかったんです」
当時から焙煎技術にも興味があった小倉さんは、独学で知識を身につけていくことを決めます。海外の焙煎士が執筆した英語の書籍やSNSを読みながら、試行錯誤を重ねて習得していったそうです。
そして、ODDO coffee立ち上げのきっかけは2020年の春。2年次に行った海外研修先の大学構内にカフェやバーを見かけたことをヒントに、自分たちの大学にもカフェを作りたいと思い立ち、現メンバーの一人とともにコーヒーサークル『ODDO』を立ち上げます。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大とともに活動の自粛が余儀なくされました。
コロナ禍でもなにか活動できないか考えた結果、自分で焙煎したコーヒーをインターネット販売することに。2020年6月のオンラインショップ開設を皮切りに、ODDO coffeeの活動は加速していきます。8月からは長野市内を中心とした野外イベントに出店するようになり、10月からは善光寺表参道にある飲食店の空き時間にコーヒーの販売を開始。そして現在の店舗オープンに至ります。
「夏頃に今後の活動についてCSI*に相談に行ったとき、僕たちのお店が入っているこの建物の改修について聞きました。改修自体の構想にカフェの機能が含まれていて、そこから話が進んで、1〜2ヶ月間のチャレンジショップとしてお店を開くことになりました。現在は常設店として運営しています」
*CSI=ソーシャルイノベーション創出センター。社会課題解決に取り組む事業者支援や産学官連携を行う、長野県立大学の地域連携拠点
長く楽しく続けていくために
サークルの立ち上げからおよそ1年で実店舗を持つにまで至った小倉さん。コロナ禍の先が見えない状況のなか、学業と両立しながらこれだけもスピード感を持って展開を続けていくなかで、迷いはなかったのでしょうか。
「オンラインショップや露店営業など、段階的に活動を広げていくなかで機材などは揃っていたし、僕以外にも3人のメンバーがいたので、お店を持つことに迷いはそれほどありませんでした。開業のリスクってハードへの投資が大きいと思いますが、僕たちは建物自体の改修と同時に入ったこともあって、店舗改装などの初期費用がそれほどかかりませんでした」
▲ODDO coffeeを運営するメンバー。4人とも長野県立大学に通う学生で、講義などそれぞれの予定に合わせてシフトを組み、12時から18時の営業を続けている(月・木曜定休)(提供:ODDO coffee)
小倉さんはこの4月から1年間の休学期間を設けて、店舗の運営に取り組んでいます。今後の進路について伺うと、店舗開業に至った背景として将来に対する悩みが見えてきました。
「自分がやっていることを大人に話すと『若いうちしか挑戦できないから』と言って後押ししてくれるんです。確かに、自分が30歳、40歳になったときに突然会社を辞めてコーヒー屋さんをはじめようと思っても、稼げるかもわからないし、結婚とかもできなくなるかもなあ…と。就職活動している同級生のスーツ姿を見ると不安に駆られることもあるんですけど、むしろ学生のうちだから、挑戦しておきたいと思ったんです」
「いまのところは収益的にも満足できているんですけど、これがもし社会人だったとしたら…と想像すると、同じようには思えていないかもしれないですね。コーヒーに関わることが楽しいので長く続けていきたいですが、楽しいと思いながら続けていけるのか、例えば他の仕事もしながら続けていくのか、卒業までの残り1年半でよく考えていきたいです」
お店のオープンからおよそ4ヶ月。コーヒーに詳しい方がわざわざ調べて来てくれたり、近所に暮らすご高齢の方が定期的に足を運んでくれたりと、常設店となったことで幅広い層の方々への認知の広がりを実感する小倉さん。街のコーヒー屋さんのひとつとして地域に浸透してきたODDO coffeeですが、いま取り組んでいきたいことを最後に伺いました。
「提供するコーヒーのクオリティを上げていくのはもちろんですが、お店で接客やコーヒーの販売だけをしていても、考え方が凝り固まって楽しいと感じられなくなるような気がしていて。プラスアルファで学生や地域、全く別の分野との関わりを持っていきたいですね。地域貢献をしたいというよりも、自分が楽しくお店を続けていくために、お店以外の場所で社会的な活動を持っていきたいです」
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会える場所 | ODDO coffee 電話 |
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