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ナガラボはながのシティプロモーションの一環です

No.457

和田

侑・美名子さん

lnswirl

駆除された野生動物の皮を「革」へ。持続可能で心地よいライフスタイルを提案

文・写真 島田 浩美

近年、取り扱う飲食店が増え、メディアでも注目を集めるジビエ(野生鳥獣肉)。最近は山や田畑を荒らす害獣駆除が進み、長野県内でも野生獣肉加工施設処理が整っています。でも、肉を削いだ鹿の皮はどうなるの? そんな思いから立ち上がったブランドが「lnswirl(インスワール)」です。
 

人にも環境にもやさしい、天然素材生まれの上質なレザー&アパレル商品

2020年3月、善光寺門前にオープンした「lnswirl」。天然素材にこだわり、人と地球環境に配慮したレザーアイテムとアパレル商品を提案するライフスタイルブランドです。
営むのは、和田 侑さん・美名子さん夫妻。侑さんがアパレル商品の素材調達や、縫製・加工を行う外注工場とのやりとり、店舗での接客、「lnswirl」の商品を取り扱う全国6店舗のディーラー(販売店)との取引、新規取り扱い店舗の開拓などの生産管理と営業業務を担い、美名子さんが全ての商品のデザインと製作を手がけています。
 
レザーアイテムは自社で企画・製造。洋服などのアパレル商品はデザインを企画し、縫製・加工は熟練した職人が働く日本国内の提携工場で行っている
▲レザーアイテムは自社で企画・製造。洋服などのアパレル商品はデザインを企画し、縫製・加工は熟練した職人が働く日本国内の提携工場で行っている
 
「商品づくりで重きを置いているのが、ユニセックスで男女ともに持っていても違和感がないデザインやサイズにすること。極力シンプルなデザインで長く使っていただけるように意識しています」(侑さん)
 
洋服の生地は天然繊維にこだわり、裏地や紐にもポリエステルやアクリルといった化学繊維は不使用。レザーアイテムは年間60万頭以上が害獣として駆除されている野生鹿の革を使っています。「鞣し(なめし)」という皮の汚れを落として柔らかくする作業も、一般的な重金属や化学薬品を使う方法ではなく、自然素材のみを使った天然なめし加工の革を使用。乳児や敏感肌の人も安心して使える革で、たとえ燃えても有害ガスが発生しません。
 
「サスティナブル(持続可能性)やエシカル(自然環境や社会、地域に配慮した考え方や行動)というワードは、いまや避けては通れません。私たちもその考えや行動に賛同しているため、可能な限り化学的なものは使わないようにしています」(侑さん)
 
「Inswirl」とは、前置詞in(中)とswirl(渦)を組み合わせた造語。自分たちの理念やクリエーションの渦の中に多くの人を巻き込みたいという意味が込められている
▲「Inswirl」とは、前置詞in(中)とswirl(渦)を組み合わせた造語。自分たちの理念やクリエーションの渦の中に多くの人を巻き込みたいという意味が込められている
 

積み重ねた経験を生かし、試行錯誤の末に誕生した新事業

長野市出身の侑さんは高校卒業後、都内のアパレル系専門学校に進学。卒業後はアパレル業界のOEM・ODM商社に就職し、同期入社の美名子さんと出会いました。
同社で侑さんは取引先のアパレルブランドのOEM営業や生産管理を担当し、美名子さんは企画やデザインを提案するODMのデザイナーとして活躍。結婚後、美名子さんはデザイナーとしてアパレルメーカーへの転職も果たしました。
 
一方で侑さんは「いつか長野に戻ろう」と思っていたなか、縁があって声をかけられた長野県内のアパレルメーカーにUターン転職。続いて美名子さんも長野に移住し、同社へと転職します。洋服と革製品を扱うメーカーで、美名子さんは革小物を作る部署に配属となりました。
 
「それまで革製品を作った経験はなかったのですが、ものづくりは好きなので楽しかったですし、まさか長野でもアパレル業界に携われると思っていなかったのでよかったですね」(美名子さん)
 
美名子さん
 
そして3年ほど経ったころ、侑さんは仕事の傍ら「Inswirl」の立ち上げにつながる活動を始めます。きっかけになったのが、昔から「いつか長野市内に自分の店を開こう」と夢を語り合っていた幼馴染の長崎 晃さんの存在です。
 
ひと足先に夢を実現し、長野駅近くにイタリアンレストラン「bar e torattoria Piu’ Lungo(バール ェ トラットリア ピュ ルンゴ)」をオープンさせた長崎さんは、冬に提供しているジビエ料理の野生鳥獣の皮の行方が気になっていました。そして調べたところ、産業廃棄物として捨てられていることがわかったのです。その相談を受けた侑さんは、長崎さんと鹿皮の活用について考えるようになりました。
 
まずは猟師から野生鹿の皮を買い取って革への加工に挑戦。しかし手間と時間がかかるうえ、失敗の連続でした。
 
まずは猟師から野生鹿の皮を買い取って革への加工に挑戦。しかし手間と時間がかかるうえ、失敗の連続でした。そんな折、日本有数の革の産地、兵庫県にある野生獣専門のタンナー(鞣し革業者)と知り合った侑さんは、実際に工場へと足を運び、仕上がりの美しさに驚いたといいます。
 
「野生鹿なのでシミや傷、色ムラなどはありましたが、こんなに上質な革ならお客様に喜んでもらえるに違いない。革の加工はプロに任せ、自分たちは企画に専念しようとの考えにシフトしました」(侑さん)
 
かつて自分たちで処理した皮。原因不明のひび割れや穴の発生に苦労していた
▲かつて自分たちで処理した皮。原因不明のひび割れや穴の発生に苦労していた
 
そこで、美名子さんが、タンナーが鞣した革を使って試作品を製作。職場では硬い牛革を手縫いしていたのに対し、柔らかい鹿革は漉き方も縫い方もデザインの仕様も異なり、革用ミシンで縫う必要もありましたが、やり方を模索して技術を高めていきました。
 
そして、事業化に向けて2019年7月にクラウドファンディングを開始。すると、目標金額に対し、約200%の達成率を記録したのです。
 
「やはり多くの人が僕たちの思いに共感してくれるんだ、この方向性は間違っていないと自信をもちました」(侑さん)
 

機能性とデザイン性、そしてストーリー性のあるライフスタイルブランドへ

こうして6年間勤めたアパレルメーカーを退職し、門前の古民家をリノベーションして「lnswirl」をオープン。1階が店舗と侑さんの事務所で、2階が美名子さんの工房になっています。
 
かつては縫製工場や建具工務店、コインランドリーだった「lnswirl」の建物。約70年前に曳家(ひきや)でふたつの建物を組み合わせたユニークな形
▲かつては縫製工場や建具工務店、コインランドリーだった「lnswirl」の建物。約70年前に曳家(ひきや)でふたつの建物を組み合わせたユニークな形
 
「もともとふたりで店をやろうと決めていたわけではなかったので、まさかの展開でしたが、学生時代からアパレルひと筋。長野にきてからは革製品も作ることになり、『lnswirl』を立ち上げるためにここまで導かれてきたんだなと。運命的な巡り合わせを感じます」(美名子さん)
 
3月末というコロナ禍でのオープンとはなりましたが、現在は30代後半から40代前半の年齢層を中心に、10代から80代まで幅広い客層が口コミやSNSなどをきっかけに訪れるといいます。
 
「2階の工房で作業をしていると階下の声が聞こえてくるのですが、野生鹿が駆除されている現実を知らないお客様が多く、ここがきっかけで徐々に知ってもらえている手応えを感じますね」(美名子さん)
 
また、訪れる人のなかには「革のカシミヤ」とよばれるほど柔らかくきめ細かい鹿革の肌触りに驚く人も少なくないそう。ちなみに鹿革は繊維が緻密なので裂け強度が革のなかでもっとも強く、油分が抜けにくいという特徴もあり、東大寺正倉院には1000年以上経った今でも鹿革製のものが祀られているという歴史もあります。
 
巾着など袋物の柔らかいフォルムが出せるのも鹿革ならでは
▲巾着など袋物の柔らかいフォルムが出せるのも鹿革ならでは
 
「日本最古の革アイテムは鹿革の足袋といわれるほど、鹿革は古来、日本人になじみがあり、吸湿性があるので日本の気候にも適しています。いいこと尽くめの革なので、バッグやウォレット、小物など、手に取っていただきやすい価格設定で広めていきたいですね」(侑さん)
 
そのため、「lnswirl」では1枚の革から製品のパーツを細かく取り、無駄なく革を使うことで全体のコストをおさえています。
また「趣味としてのクラフトではないので、野生鹿の革を売りにするのではなく、あくまでデザイン性など商品自体に魅力を感じて購入してもらいたい」と侑さん。
 
「購入後に『実は野生の鹿革なんですよ』と伝えるくらいのデザイン性と価格にしないと継続は難しいと思っています」(侑さん)
 
そのため、「lnswirl」では1枚の革から製品のパーツを細かく取り、無駄なく革を使うことで全体のコストをおさえています。
 
そうしたなかで感じるふたりのやりがいは、「自分たちの世界観を表現したブランドを展開できていること」だそう。
 
「お客様を第一に考えたうえで、自分たちでスピーディに商品を作ることができますし、海外工場での生産が難しくなったコロナ禍で改めて日本のものづくりが見直されるなかで、国内の縫製工場や生地問屋としっかりとつながり、自分たちの思いが形にできる環境で働けていることもやりがいです。日本でのものづくりが楽しいですね」(侑さん)
 
くわえて、縫製工場の職人のリアルな声を顧客に伝えることで、商品の付加価値の向上も実感しているといいます。
 
そうしたなかで感じるふたりのやりがいは、「自分たちの世界観を表現したブランドを展開できていること」だそう。
 
さらに、現在は全てのディーラーから追加オーダーが入っている状態。ディーラーからの「野生鹿の革を使った長野のブランドだと説明するとお客様に興味をもってもらえ、自社の商品の話も展開しやすい」との言葉も励みになっているそうで、今後は行政とも連携し、長野県産の鹿革の利用も進めたいと話します。
 
和田 侑さん・美名子さん
 
モノが溢れ、製品の差別化がしづらい現代。アパレル業界では”コロナ破綻”するブランドも相次いでいます。そうしたなか、ロングセラー商品や長く続くブランドには人を惹きつけるストーリーがあります。ビジョンが明確な「lnswirl」の商品は、心地よさやサスティナブルな未来への貢献といった心の充実感に加え、使い込むほどに体になじむ洋服や、増していく鹿革のツヤ、柔らかさ、深くなる色あいなど、経年変化も楽しめます。「lnswirl」というストーリーそのものを身にまとうことができるのです。
 

(2020/08/26掲載)

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会える場所 lnswirl(インスワール)
長野市鶴賀田町2403-1-2
電話 026-217-1356
ホームページ https://www.inswirl.com/
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