No.444
丸山
香里さん
長野市子どもにやさしいまちフォーラム 代表
わたしたちの長野市が、子どもにとってもおとなにとっても住みやすいまちになるように
文・写真 宮木 慧美
「子どもの権利条約」をご存知ですか?子ども(18歳未満)の基本的な権利について定めている国際条約で、1989年の国連総会で採択されました。長野市で、この「子どもの権利条約」に定められている権利が保障されるように活動しているのが「長野市子どもにやさしいまちフォーラム」のみなさんです。代表の丸山香里さんにお話を伺いました。
長野市を、すべての子どもにとって住みやすいまちに
長野市子どもにやさしいまちフォーラム(CFC)の設立は2017年9月。きっかけは、子どもの権利条約フォーラムが長野県で開催されたことでした。その関連イベントを長野市で開くために集った6人のメンバーが、CFCを立ち上げました。
「長野市で、子どもの権利を真ん中において、地域や行政が協働して子どもの育つ環境づくりをしていけたらいいなと思っていたときに、同じ想いを持つ仲間と出会えました。一度のイベントで終わらせずに、継続的に子どもの権利を考える団体を立ち上げたいね、ということでCFCを発足させました。長野県では2015年に“長野県の未来を担う子どもの支援に関する条例”が、松本市には2013年に“松本市子どもの権利に関する条例”がそれぞれ定められています。しかし、長野市には子どもの権利の視点に立った条例がまだありません。長野市がすべてのこどもたちにとって住みやすいまちになってほしいというのが、私たちの願いです」
▲子どもの権利条約には、子どもたちが安心・安全に生きていけるようにさまざまな権利が盛り込まれている
CFCの立ち上げ当時、メンバーはそれぞれが子どもに関わる活動をしていたといいます。丸山さんは障がいのあるお子さんが地域のお店や会社で職業体験を行う「ぷれジョブ」と、あらゆる暴力から子どもを守る「CAPプログラム」の活動を行なっていました。
「長女に障がいがあったのですが、障がいを持っている子って地域に居場所がないんですよね。学校も養護学校や特別支援学級なのでお友達もできないし、保護者も結構一人ぼっちだったりして…。それでもいずれは地域で、地域の方たちと一緒に生活をしていくことになりますから、そういう子どもたちの居場所があればと思って。『ぷれジョブ』の活動を、障がいを持つ子どもを育てるお母さんたちといっしょに始めました」
さらに、現在もその活動を続けているというのがアメリカ発祥の「CAP(Child Assault Prevention)プログラム」。家庭・学校・地域での子どもの安心・安全を守るための人権プログラムです。
「子どもが晒される暴力、例えばいじめや体罰・虐待・誘拐・性被害などに合いそうになったときに、“あなたには安心・安全・自由の権利がある。それを守るためにこんなこともできるよ”と伝えるのがCAPプログラムです。学校の授業に伺い、大切な自分を守るために何ができるのかを考える活動を行なっています」
自身の子育て経験から「子どもの権利」を真ん中においた活動を続けてきた丸山さん。CFCを立ち上げた他のメンバーもまた、「子どもへの想い」を中心に活動をしてきた仲間でした。同じ志を持つメンバーが出会うことで、CFCは誕生したのです。
子どもに関するさまざまなテーマを扱うフォーラムで、ネットワークを広げて
学校の問題やいじめ、貧困、居場所づくり、自己肯定感の低下など、子どもに関わる問題は多岐に渡っています。CFCでは、定期的にフォーラムを開催。大学教授や弁護士、児童相談センターの相談員などの講師を招き“子どもにやさしいまち”や“子どもの権利”について考える機会をつくっています。
「“勉強会”ではなく“フォーラム”としているのは、関心のある方に広く参加していただき、ネットワークを広げていきたいからです。私たちのフォーラムでは前半に講師の方からベースとなるお話を聞いて、後半は参加者みんなでワークショップをやるんです。子どもたちの権利の状況がどうなっているのかを知り、自分たちができる事は何かな?と考えあうことをひたすら続けていますね」
▲これまでのフォーラムで扱ったテーマは「『子どもにやさしいまち』ってどんなまち?」「子どもたちと学校」「子どもたちと貧困」など。参加者による積極的な意見交換も「長野市子どもにやさしいまちフォーラム」ならでは(写真提供:長野市子どもにやさしいまちフォーラム)
子どもに関するさまざまなテーマを取り扱ってきたフォーラムですが、毎回帰結するのが「子どもの居場所」の重要性だといいます。
「“居場所”というのは、ただそこにスペースがあれば良いというものではありません。そこに、その子が無理をしないで、ありのままの自分でいられる人間関係や、必要とされる役割がある状態が理想なのです。でもそういう居場所って、意外とないんですよね。フォーラムでは、どんなテーマの時でも、地域の中にそういう“居場所”をたくさんつくっていくことが必要、という話になりますね」
「それなら自分たちもやってみよう」ということで始まったのが、子どもたちの居場所“ほっこりるーむ”の活動です。
「2019年4月から、平日昼間の子どもたちの居場所「ほっこりるーむ」を始めました。「今日は学校に行きたくないな」というお子さんの居場所として、月に1回開いています。お子さんはお子さんで遊んで、親御さんは親御さんで話してもらって。お昼はホットプレートで焼きそばやたこ焼きを焼いて、みんなで食べるんです。不登校のお子さんって、エネルギーが溜まってきた時に出かけられる場所がほとんどないんですよね。家でも学校でもない居場所として、一人でも必要だと思ってくれる子がいるのなら、今後も継続して開いていきたいですね」
▲みんなで作って、いただく食事は格別。「ほっこりるーむ」では手芸のワークショップなども開催している(写真提供:長野市子どもにやさしいまちフォーラム)
これまでの活動がつないだ、令和元年台風第19号の子ども支援
CFCが行ってきた“フォーラム”“ほっこりるーむ”の活動は、令和元年台風第19号の子ども支援にもつながっていきました。
「今回の災害が起こった時に、私たちが一番最初に考えたのが「子どもたちはどうしているかな?」ということでした。ただでさえショックな災害が起こったのに、避難所では『静かにしていなければ』と周囲に気を遣い、思い切り遊ぶこともできないので、子どもたちにはかなりストレスが溜まっていました。すぐにでも子どもの居場所を、ということで国際NGOのプラン・インターナショナル・ジャパンさんと共同開催で、まずは須坂市の北部体育館に居場所を開設しました」
台風災害後、十分な準備や話し合いの間も無く決めた居場所の開設。当然、たくさんのボランティアさんの手が必要となりました。子どもたちが安心・安全にいられる場を提供できたのは、CFCがこれまで築いてきたネットワークがあったからでした。
「子どもの居場所には大人の見守りが必要になりますが、私たちは“ただ見ているだけ”ではなくて、“一人ひとりのケアをしっかりしたい”と思っていたんです。子どもをケアする時って、上手に遊んであげればいいというものではないんですよね。ある程度、子どもの心のケアについての知識や考え方がないと難しいなぁと思うんです。私たちはこれまでのフォーラムを通して、「どんな場面でも子どもにとっての最善を。そのために私たちはどうすればいいのか。」を、さまざまな立場で子どもに関わっている方々と一緒に学び合ってきました。だからこそ、これまでのネットワークを通して「ボランティアをお願いできますか?」と安心してお願いできましたし、たくさんの方にお声がけすることができました。最終的には「協力しますよ」と40名くらいの方が来てくださいました」
▲台風災害後に開いた、避難所での子どもの居場所の一場面。思い切り遊びまわれる“安全な場所”を多くのボランティアとともにつくりあげた(写真提供:長野市子どもにやさしいまちフォーラム)
CFCではその後も、認定NPO法人カタリバによる子どもたちの居場所「コラボ・スクールながの」の運営を引き継ぎ、被災地の子ども支援を継続的に行なっています。
「今回、災害があったときにすぐに居場所づくりができたのは、“フォーラム”や“ほっこりるーむ”の経験があったからだと実感しています。この活動をしていなければ、実現できなかった取り組みです。そして何より心強いと感じたのが、地域にこれだけの仲間が増えたということです。地道な活動ではありますが、そういう資源を地域につくれたことは、子どもの権利を守る上で意味のあることだと思います」
▲「コラボ・スクールながの」の運営を引き継ぐ形でスタートした「ほっこりひろば」の様子。地域のさまざまな人・団体と協働しながら子どもの居場所づくりを継続している(写真提供:長野市子どもにやさしいまちフォーラム)
子どもの幸せのために、いま、地域と市民ができることとは
丸山さんが目指している未来を伺うと「意識しているのは松本市!」とのこと。一体、どういうことなのでしょうか。
「全国的に見ても、松本市は子どもの権利に関してレベルが高いんです。2013年に“松本市子どもの権利に関する条例”が定められましたが、条例を作れている自治体は多くはありません。なぜなら反対する方が結構いらっしゃるから。「子どもに権利を与えるなんて何事か」という考えも根強く残っています。ハードルは高いですが、フォーラム等を継続して開催し、地域の意識を変えていかなければいけないと考えています」
将来的には、長野市にアクションプランを伴う子どもの権利条例をつくり、行政と市民が手を取り合って取り組みを進めていきたいといいます。自分たちの住んでいる地域を変えるためには、「子どもの権利」への意識を持った市民が増えることが重要です。
「社会が明るくないので、地域の中にも大変そうなご家庭がたくさんあります。経済的なこともあれば、ご病気や心の状態で、支援を必要としている方も少なくありません。おうちの方が少しでも安心して生活できれば、お子さんとの関係は安定していきます。“子どもの幸せは保護者の責任”という風潮がありますが、その“責任”を果たせるように支援していくのが地域の役割でもあるはずです。子どもの居場所だけでなく、「児童相談所に行くほどではないけれど…」「子育てが思うようにいかなくて…」という保護者のサポートも重要になってきます。すべての子どもが安心して、のびのびと過ごせるような長野市にしたいと思っているので、フォーラムなどで一緒に考え、活動してくれる方が1人でも増えてくれたら嬉しいです」
▲年齢・性別・職業も超えて、さまざまな立場の市民が参加するCFCの活動。ここからまた、新しいネットワークが広がっていく(写真提供:長野市子どもにやさしいまちフォーラム)
子どもにやさしいまちは、そこに暮らすすべての人にとっても、やさしいまちなのかもしれません。子どもを真ん中にした活動を続けてきた丸山さんと、CFCのみなさん。この活動がさらに広がれば、市民の力でまちを変えていけるかもしれないですね。
(フォーラムなどの情報は『長野市子どもにやさしいまちフォーラム』のfacebookページからご確認いただけます。)
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会える場所 | 「長野市子どもにやさしいまちフォーラム」 電話 090-9660-4871 |
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