No.293
営田
カツ子さん
柳原地区住民自治協議会 地域福祉ワーカー オレンジカフェどんぐり 設立・運営メンバー
住民の交流の場を創造し、
笑顔と支援の輪を広げよう
文・写真 合津幸
皆さんは「オレンジカフェ」をご存じですか? オレンジカフェとは、認知症の方やそのご家族、地域住民、介護や福祉の専門家などが自由に集う場「認知症カフェ」の愛称のようなものです。市内で複数運営されている内のひとつ「オレンジカフェ どんぐり」にお邪魔して、設立・運営メンバーの営田(つくた)カツ子さんに話を聞きました。
地域住民に交流の場を
今年1月末、厚生労働省が発表した「認知症施策総合戦略(新オレンジプラン)」。その核となっているのが、認知症の予防・診断・治療の体制整備と認知症の方とその家族が住み慣れた地で自分らしく暮らし続けられる社会の実現です。
市内でも、地域全体で認知症について考え、支援の輪を広げる動きが活発になりつつあります。すでに7つのオレンジカフェが設立され、今後も増えて行くことが予想されます。
今回お邪魔した「オレンジカフェどんぐり」はまさに、認知症に苦しむ方はもちろん介護をされているご家族や同じ地域で暮らす住民のための活動のひとつです。
そもそも、カフェの設立・運営メンバーの一人である営田さんは、住民同士が気軽に交流できる場がほしいと考えていました。
以前から、地域のさまざまな人が気軽に集まり、会話を楽しみつつ親交を深められる場の創出を考えていた営田さん
「個人的な願望だけではなく、数年前から、柳原地区にある福祉関係機関の担当者の方たちと『何か地域の方のためにできることはないか』と話していたんです」
と言うのも、営田さんたちはそれまでにも、介護や福祉の専門家にはじまり弁護士や医師にも協力を仰ぎながら「ふくし相談会ネットワーク」を構築し、ふくし相談会を実施していました。しかし、継続的な取り組みに成長させるという点では苦戦を強いられていました。
「初回はたくさんの参加者が集まるのに、回を重ねるごとに人数が減ってしまって…。ニーズはあるのに、地域に浸透・定着させる方法がわからなかったんです」
そんな時に耳にしたのが認知症カフェの存在と市からの補助金の話でした。営田さん自身が義母を5年間介護した経験があったこと、そして地域でも年に2度の認知症サポーター講座を実施していることから、すぐに仲間に声を掛けました。
そして、皆で共有してきた経験とそれらの経験に裏打ちされたカフェ設立への想いと趣旨が、補助金の交付目的や申請要件に合致。仲間の賛同と補助金を得て、今年3月に「オレンジカフェどんぐり」をスタートさせました。
現在も地域の老人ホームにある地域交流室にて、毎月第3木曜日の午前中にカフェを開催しています。
参加者が寄付してくれたお手製の人形たちが机の上でお出迎え。明るい雰囲気づくりに一役買ってくれている
自由にのびのびと楽しめる空間
「オレンジカフェどんぐり」には、どちらかが認知症を患っているというご夫婦が何組も揃って訪れたり、1人暮らしの高齢者が遊びに来たり、または交流室のある施設の入所者さんが顔を出したりと、本当にさまざまな方が集まります。毎回男性参加者が多いのは、男性スタッフや男性ボランティアさんの存在が大きいと感じているそうです。
カフェの運営を担っているのは、営田さんや会場施設の施設長、地域の他の介護施設で働くスタッフ(施設ごとの当番制)、地域包括支援センターの職員などです。そこに、地域のボランティア数名が加わり、常時7〜8名が会場準備から片付けまで行います。
「認知症と診断されると、日常生活のさまざまな場面に制約が生じます。これはできないに違いない、あれは危ないからダメなど、危険回避のためとはいえご本人もご家族も窮屈な思いを強いられがちです」
だからこそ自宅とは違う空間でのびのびと楽しめて、必要ならば愚痴をこぼしたり悩みを吐露する機会が必要になります。と言っても、認知症を話題にしなくてももちろんOKです。
オセロや将棋に興じたり、お茶やお菓子を味わいながら会話を弾ませたり。思い思いの過ごし方で楽しむ参加者の皆さん
「相談会ではないので、無理に悩みを聞き出すことはありません。私たちが望むのは、ここに集まる皆さんが有意義なひとときを過ごして笑顔になってくださることです」
そう語る営田さんもまた、月に一度のこのカフェをとても楽しみにしています。それは、ここが想いを共有するスタッフやボランティアさんと会える場であり、共に地域に暮らす方々と親交を深められる場でもあるからです。
何より、最近は活動自体に手応えを感じられるようになりました。
初めはジッと座っているだけだった認知症の方が回を重ねるごとにご自分のことを話してくれるようになり、以前はまったく笑顔が見られなかった方も「楽しかったよ、ありがとう! 」と元気に帰って行くようになるなど、変化が現れ始めています。
今では毎回参加してくれるおなじみさんが何人もいて、その方たちの元気な姿が見られるだけでもカフェ開催の意義を感じているそうです。
参加者からのリクエストで、スタッフとボランティアは呼びやすい愛称を記したネームカードを携帯するようになった
より意義のある活動へ
運営サイドとしては、「楽しければそれで良し」ではありません。カフェ終了後は参加者の内訳を確認し、各自どう過ごしていたか様子を報告し合います。もし問題があれば率直に指摘して改善策を考えます。
「仲間や地域の皆さんの力添えあってこその場です。毎月開催できること自体が有り難く、その喜びの分だけ責任も感じています。カフェを通じて見えてきた地域の現状を踏まえて、さらに皆さんの役に立てるような活動の内容と広がりを考えねばなりません」
現在営田さんたちが検討しているのは、カフェの開催回数を増やすことです。まずは月2回に増やせれば、より多くの方に参加してもらえる可能性があります。
「頻度を増やしたり地域内の他の場所での開催を実現させて参加者を増やせれば、カフェの認知度がアップします。そうすれば、認知症の人が他の人との出会いや会話により笑顔になれる場と介護をする人が悩みを吐き出してすっきりした気持ちになれる場が増え、しかも住民が認知症を知るきっかけも増えるでしょう。つまり、多くの人の笑顔があふれる場を実現させられます」
カフェ終了後のスタッフ反省会。どんな方が何名参加しどんな様子だったか、問題はなかったかなど、情報を共有する
また、今後は参加者に一部運営に携わってもらう工夫を凝らそうと考えています。たとえば、認知症の方もお茶の用意の手伝いなど無理のない範囲でその人に合った役割を担うことで、生きがいややりがいを感じてもらいたいという想いがあるのです。
さらに、より踏み込んだ形での取り組みにも力を注ぎつつあります。家族や自分がいつ当事者になっても対応できるよう、そして、いざという時に皆でサポートできるよう意識を高め、地域全体で知識と対応力を身に付けることを目指しています。
「認知症の方も独居の高齢者も、地域全体で支えるべき存在です。つまり、支える側の人材育成も必要ということです。講座などの学びの場と実践の場を結びつけたりして、この地域に合った体制を確立させたいです」
地域住民同士が支え合い、共に笑顔で明日を迎える。
そして未来に希望を抱くことができる。
そんな、住民の手による地域づくりが進められています。
この日の「オレンジカフェどんぐり」の運営を担ったスタッフの皆さんとボランティアさん
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会える場所 | 柳原地区住民自治協議会(柳原総合市民センター内) 長野市大字小島804-5 電話 026-217-2365 「オレンジカフェどんぐり」 |
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