No.278
千葉
理絵さん
こちら肉球クラブ代表
長野市の動物殺処分ゼロを目指し
猫の命をつなぐボランティア
文・写真 島田浩美
インターネットを活用した新形態の猫の里親探しボランティア
近年は空前の猫ブームなのだそう。ネット上には猫の可愛い動画があふれ、多くのカルチャー誌では特集が組まれて、猫を題材にしたスマホアプリが人気を集めています。それとともに、最近、犬や猫の殺処分0を目指す自治体の話題を聞くようになりました。
長野市保健所での取り組みも成果を挙げていて、平成24年度の殺処分率は、全国107の政令指定都市・中核市の中で最低となる9.25%。こうした努力の賜物の一翼を担っているのが、2007年から野良猫や迷い猫の里親募集を行っているボランティア団体「こちら肉球クラブ」です。現在は、真夏と真冬以外の2カ月に1回、長野市役所の横に建つ長野市ふれあい福祉センター(ボランティアセンター)内で猫の譲渡会を開催するほか、インターネットやSNS(Facebook、Twitter)を活用した猫の里親募集もしています。
「里親募集の手応えはいいですね。譲渡会の来場者も回を重ねるごとに増えていて、多い時は100人ほどが見えることもあります。猫の譲渡率もよく、毎回半分以上の猫が譲渡されていて、その後もお見合いやトライアル(お試し飼育)希望の連絡が来るので、病気やハンディがあったり、高齢である以外、残る猫はほとんどいません。子猫の譲渡率は100%です」
2015年9月13日に行われた第15回合同譲渡会の様子。ブルーシート上のみで実施し、キャリーバッグで猫を運んで部屋からは出さないという細かな条件のもとで行われている
こう話すのが、代表の千葉理絵さん。来年、還暦を迎えるとは思えないほど元気でアクティブなオーラを放つ女性です。
そもそも、千葉さんが猫の里親募集をしようと思ったきっかけは、ある日、飼い犬の散歩中に子猫を産んだ状態の母猫を発見し、近所に住む「捨て猫防止会」の代表から面倒を見てくれないかと頼まれたことでした。「捨て猫防止会」は動物に関する長野市最初のボランティア団体で、30年近く活動を続けていた今はなきグループです。しかし、犬を飼っていた千葉さんは自宅では預かることができなかったため、もともと出版社で働き文章作りなども得意だったことから、まずはブログを通じて里親募集を始めることにしました。
会場に連れて来られなかった猫はホワイトボードでの紹介も。病気猫もしっかりと治療してから譲渡をしている
「以前から動物の殺処分のことは気になっていたのですが、自分では行動に移せていない罪の意識がありました。それに、猫を保護して避妊や去勢の手術をし、地域でエサをやる”地域猫”として自然淘汰するまで面倒を見る活動をしていた『捨て猫防止会』や、猫を預かるボランティア団体はいろいろとありましたが、自分の場合はインターネットを利用した新しい形のボランティアができないかと思ったんです」
ボランティアを始めるなら、長野市のボランティアセンターに登録をしたほうが有利だと聞き、2007年12月にブログ活動を通じたボランティア団体として本格的に立ち上がりました。
保護猫のなかには、小さくてまだ性別がわからない猫も。ボランティアスタッフが性別をチェック
長野市初の猫の譲渡会を開催し、保健所への広がりも
当初は世界に向けて情報発信ができるインターネットの利点を活用し、動物愛護の話や全国規模の動物問題もブログに書き込んでいたという千葉さん。時には書くこともためらうような残酷な話もありましたが、「多くの人に知ってもらわないと」という使命感で続けるうちに、次第に記事を拾う範囲が広くなってきてしまいました。そこで「やはり自分の足元を見て活動をしたほうがよいのでは」と思ったときに、ふと、長野市内ではどこの団体もやっていない猫の譲渡会をやってみようかと思い立ったそうです。
「ボランティアセンターの職員に相談したところ、センター内に生体を入れたことはないので画期的だといわれて、すぐに会議にかけて検討をしてくれました。動物愛護団体などからのバックアップを受けることもできましたが、それはかえって逆効果ではないかとも考え、一個人の主婦によるボランティアであることを前面に出しました。結果的に会議でOKが出て、トントン拍子で譲渡会の開催が決まりました」
譲渡会の最中も忙しそうに動き回る千葉さん。初めて猫を飼う里親希望者にはしっかりと説明をし、あらかじめ、買う前に必要な道具を一式揃えてもらったことも
こうして、2012年11月に第1回譲渡会を開催。以降、評判が高まり、長野市保健所の職員が見学に来ると、その後、市保健所でも月に1回の譲渡会を開催するようになりました。さらに、それに続いて、現在は長野県保健所でも開催されるようになっています。
「別に上から目線というわけではないんですが、私が弾みを付けるきっかけは作ったかな、とは思いますね」
そううれしそうに話す千葉さん。少しずつ活動を手伝ってくれる会員も増え、いまは22人のメンバーが、譲渡会での運営スタッフのほか、里親が見つかるまでの一時預かりや、活動費捻出のための手作りのオリジナルグッズ販売などを行っています。保護猫のエサ代のほか、病気猫の通院費や避妊・去勢手術費も、全て自分たちの活動費や寄付金、企業からの動物基金などでまかなっています。
ボランティアスタッフはブログを見て応募してくる人が多いそう。なかには松本から譲渡会の手伝いに来ている人も
行政と市民と協力しながら、殺処分0を目指して
このように活動自体は順調に運んでいますが、一般市民から寄せられる「庭や天井裏で野良猫が出産した」「路上で猫を拾った」という情報が減ることはなく、「こちら肉球クラブ」はいま、一時預かりの手が足りないという問題を抱えています。
「一時預かりのメンバーは、全員が自宅で猫を飼いつつ空いている部屋で保護猫の面倒を見ていますが、最近は預かる猫が増えてきたため、譲渡会で知り合った一般市民にもお願いをして一時預かりに協力していただいています。こうした人手不足の問題はありますが、行政と市民と私たちボランティア団体、三者が協力して長野市の殺処分ゼロを目指していく形がだんだん整ってきているのも感じています。譲渡会も、ほかに2つのボランティア団体と協力して『合同譲渡会』という形で開催していて、メンバーもお互いに兼任しながらの協力体制ができていますね」
兄弟で拾われて、2匹一緒に里親募集が行われるケースも。譲渡後は、基本的に里親から猫の様子を報告してもらい、ブログで「うちの子自慢コーナー」としての紹介も
こんな千葉さんのところには、多頭飼いによる飼育崩壊の相談が来ることもあるそうです。その場合は、飼い主からなぜ多頭飼いになったかという原因を電話で聞き出すのですが、近所付き合いの問題など人生相談になることも少なくないそう。1回の電話も30〜40分かけて何回も話し合うほか、一般市民からの電話やメールでの相談も多く寄せられます。
「活動を始めてから、相談メールの数は1万3000通を超えました。1日につき50〜60通のやりとりが必要なので、朝4時起きで対応しています。病気や生まれたばかりの猫は、病院に行くか一時預かりに行くかすぐに判断をして手配しなければいけないので、いつも時間に追われていますね」
こう話すパワフルな千葉さんの活力源を伺うと、こんな答えが返ってきました。
子猫の譲渡率は100%。里親は県外の人も少なくないが、譲渡会ですぐに譲渡せず、必ず「こちら肉球クラブ」のメンバーが里親の自宅まで届け、飼育の様子も確認している
「放っておけば死んでしまうようなガリガリに痩せた子猫たちに里親が見つかって、天国のような暮らしをしている写真を里親さんから送ってもらうと、この活動をやってよかったなと思うんです」
実は千葉さん、これまでは犬を飼っていた関係から猫を飼った経験はなかったそうですが、昨年、愛犬が他界したことで、今年1月に須坂で保護した猫を初めて飼いはじめ、猫の魅力の虜になっているそうです。
「猫は犬とは違う独特の仕草をするので、こんなにおもしろいんだ、かわいいもんだね、と毎日、娘と喜んでいるんですよ」
今後の目標を尋ねると「できれば一時預かりさんをもっと増やし、市民の皆さんと協力しながら保護猫を増やして譲渡会に出していけたらいいですね」と話す千葉さん。理想は、猫の里親を探しながら猫カフェを運営している松本市の『ねこカフェもふもふ』で、夢もアイデアもいろいろありますが、実現には難しさも伴うため、まずは現状を維持しつつ里親募集を続けていくことを念頭に置いています。
ボランティアによる手作りのグッズ販売の売上は保護猫のエサ代や通院費などの活動費に充てられる
「東京や神奈川のボランティア団体は情報もあってマニュアルもできているし、メンバーも多数いますが、長野はやっと追いついてきた感じです。ただ、長野市には『捨て猫防止会』や『ながの動物福祉協会』が長年頑張ってきた基盤があるせいか、市民の協力には大きな力を感じています。私も、2007年までは『野良猫や保健所の猫がかわいそう』と思っているだけでしたが、今は自分の残りの人生をかけてできる限りのことをやりたい気持ちですね」
こうした流れのなかで、長野市保健所は、以前は動物を引き取ってから1週間程度で殺処分をしていましたが、1つでも多くの命を救うために2009年に保護期限を撤廃しています。このような取り組みを後押しするためには、市民やボランティアの協力は欠かせません。
「こちら肉球クラブ」主催の次回の合同譲渡会は、11月8日(日)。今年は最後の開催になります。猫を飼ってみたい方もボランティア活動に興味がある方も、気軽に足を運べる雰囲気なのでぜひ出かけてみてはいかがでしょう。初めて猫を飼う人に対してもベテランメンバーがしっかりとフォローをして、動物病院の紹介も行っています。こうした活動を通じて、いま改めて見えてくる”命のつながり”を考えてみませんか。
子猫だけでなく、親猫や大きな猫も譲渡対象に。基本的に譲渡会に参加する猫はすでにボランティアの手で人慣れしているので、リラックスしている猫が多い
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会える場所 | こちら肉球クラブ 電話 ホームページ http://dogcatpad.web.fc2.com/index.html ブログ http://life-is-animal.blog.so-net.ne.jp/ 第16回こちら肉球クラブ主催合同譲渡会 |
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