No.099
高橋
まゆみさん
人形作家
信州の温かい風景とやさしい時間をつくる
文・写真 Rumiko Miyairi
お年寄りの姿とファンタスティックな人形作り
肌着に地下足袋を履いた爺ちゃん、モンペ姿に割烹着の婆ちゃん…。
長野市出身の人形作家高橋まゆみさんが作る人形は、田舎で暮らすお年寄りがテーマ。
昔の匂いがする懐かしい姿に、ほころんだ顔はしわしわで、いつもみんなを見守っている優しい表情をしています。
「人形の恰好をみて『いつの時代?』って聞かれるんです。そんなときは、『近くの畑に行ってみてください。信州には、まだまだいますよ』ってお答えするんです。都会に暮らす人や田舎を知らない子どもたちには珍しく見えるみたいですよ。確かに、私もこのさき残して行きたいと思う貴重な原風景が有りますね」
自作の人形を展示する「高橋まゆみ人形館」に来てくれた人とのエピソードをにこやかに話しました。
高橋さんは現在、人形館もある長野県飯山市で暮らしています。
人形作りと出会い、作り始めたのは高橋さんが初めての出産で臨月を迎えた頃。日々の生活を充実させたい、何かやりたいという気持ちのエネルギーと葛藤していたといいます。
高橋さんが作った婆ちゃんの人形「収穫」 [写真・高橋まゆみ人形館]
「人形作りを始めたら夢中でしたね。だから出産してからも作る時間を稼ぎたくて、子どもに早く寝てほしい、という一心で寝かしつけていました。それが伝わったのか…割とよく寝てくれたので助かりましたけど(笑)」
母親になった高橋さんは、子育てをこなしながら人形作りをライフワークにしていきます。それまで、人形作りについて専門的な技術など無かったことから、創作の基本を学ぼうと通信教育を受け始めます。
「初めはビンに粘土で形を作りレースが施されているフランス人形のような、可愛いだけの人形を作ったんですが、そのうち物足りなくなってきて。人形作りは自由に発想できるジャンルですから、基本的なやり方を学んだら『自分の好きなものを作りたい!』ってますます思うようになったんです」
「好きなものは、絵本から出てくるような架空のもの。だから妖精や小人、魔女や道化師などをよく作りました。ときにはカマキリやテントウムシに手を付けて擬人化させたりもしましたよ(笑)」
空想を楽しみながら創作活動に夢中になっていた当時を、目を輝かせて話す高橋さん。
現在の「お年寄り」をモデルにする人形作りも、まるで昔話の絵本を開いたような、高橋さん独自のエキスが取り入れられ、どこか見た人をファンタジーの世界に誘ってくれます。そしてその世界は子どもたちに夢を膨らませてくれます。一方では、高橋さんの作品にアイデアをくれる子も出てきました。
「『屋根に上がって雪下ろしをする爺ちゃん』とか『カマクラを置いたら雰囲気いいじゃん』とかね。子どもたちが、お年寄りと風景をイメージしてくれて私にアドバイスしてくれるんですよ。発想に感心させられていますね。嬉しいですよ」
高橋さんが、自らの半生と人形作りとの出会いや想いを書いたエッセー集「人形出会い旅~まなざしの向こうに」
身近にいてほしい、ホッとできる伴侶のような存在
「作っていくうちに人に見せることが楽しくなってグループ展や個展をやりました。そのうち東京でも挑戦したいという気持ちもでてきて…それで東京のギャラリーで開いたのですが、地元のお客さんが足を運んでくれたりして(笑)そのとき60体くらい売れました。自分が作ったものが売れるってことも、すごく嬉しかったですね」
やがて、高橋さんが作る人形は、イベントなどを手掛けるプロデューサーの目にも留まり、巡回展「故郷からのおくりもの」と題して全国95か所をまわり始めます。まるでコンサートツアーかのように7年間で総勢約180万人の人を魅了しました。
「全国の人に見てもらえると思ったら『人に魅せられるものを作らなきゃ』って、がむしゃらに作りましたね。」
2010年、春。
人形たちは、高橋さんの住む飯山市が、交流の場としてつくった人形館に帰ってきます。
これで、まさに故郷で帰りを待つ爺ちゃん婆ちゃんの姿となった人形たち。
ちょうどそのころ「人形たちは自分のそばにいてほしい」と願うようになった高橋さんは、お客さんを迎える立場となっても「きっと見に来てくれる」という思いで、行脚した人形たちを信じたといいます。
そして、その思いは間もなく全国各地に届きお客さんが訪れだします。人形館見学がコースに組み込まれた企画では、団体のお客さんが大型バスで信州の風景を楽しみながら来館するケースもみられました。
人形館ができてからも高橋さんの魅せる人形作りに対する意欲は高まっていきます。ときには「真田十勇士」や「西遊記」のような時代をさかのぼり、ときには3月のひな祭りに合わせてその年の干支をアレンジした人形などバラエティに富んだ人形も作りました。
私が人形館に行ったときは、県外から山村体験で来た小学生で館内は賑やかでした。
その小学生に高橋さん自ら、人形の姿や作った背景、セットの風景などを説明する場面がありました。話が一段落するころ小学生から「高橋先生一ついいですか、先生にとって人形ってどんな存在?」と大人顔負けの質問が出されます。
「存在?そうですね、まず創作するってことは自分の想いが形になること。これって、すごいことなんですよ。だから人形と一生付き合っていたい…そんなすごい存在に出会ってしまった感じですね。いってみれば一生の伴侶。連れ添っていきたい存在といえますね」
そんなふうに思えるようになったのは、「そばにいてホッとできるものを作りたい」と思うひたむきな創作姿勢と、高橋さんの日常に流れる優しい時間と原風景が互いに作用したからだろうと思いました。
人形館に来てくれたお客さんに、作った人形について説明をする高橋さん[写真・高橋まゆみ人形館]
縁をほのぼのと結ぶ人形
「これからは、自分自身でこれぞ本物!と思える息が永いものを作りたいですね」
「だからお客さんが人形館に足を運んでくれる意味をもう一度考えたいです。そのためにも日頃『いいな』と感じた言葉やシーンは忘れないように書きとめて作るときのヒントにしているんです」
「私にできることは、ただの人形じゃなく人の心を引き出して穏やかにしてくれる、そんなほのぼのとしたものを作ることだと思いますから」
こんな高橋さんの優しい気持ちが込められた人形は、人それぞれが求める安心感のような安らぎを、惹きだしてくれて、いつの間にか親しみたいと思えるような存在になっているのかもしれません。
人形を見た人からこんな言葉が聞けたそうです。
「この人形はみんなのお父さんお母さんだなぁ」
人形は見た人へ、いつもそばにいるかのような気持ちを届け、ほのぼのと縁を結んでくれる素晴らしい力があると改めて実感したそうです。
「人形に出会い作ってきたことは、私にとって人の縁もつないでくれる素晴らしい出会いでした。人形たちは人には見えない力でみんなの縁を結んでくれています」
日頃から、感じる言葉を大事にする高橋さんの人形は、大勢の人を優しい気持ちにさせてくれます[写真・高橋まゆみ人形館]
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会える場所 | 高橋まゆみ人形館 飯山市飯山2941-1 電話 0269-67-0139 ホームページ http://www.ningyoukan.net/ FAX 0269-67-0141 イベントのお知らせ |
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