No.422
西村
岳生さん
一般社団法人Traum Akademie代表理事
夢と笑顔を大切に。ドイツでの経験を通じて子どもたちの可能性を広げたい
文・写真 島田 浩美
長野市に、プロサッカー界で活躍する教え子を多く輩出しているコーチがいます。一般社団法人Traum Akademie(トゥラウムアカデミー)が運営する「ドイツサッカースクール」の“ニシコーチ”こと西村岳生さんです。中京大学体育学部を卒業後、サッカーの本場ドイツに留学し、10年間、現地で知識と経験を培った西村さん。ドイツで学んだことや日々のサッカーの指導、子どもたちへの思いと今後の夢を聞きました。
幅広い知識と経験をもった指導者をめざして単身ドイツへ
「僕らは子どもたちが楽しむことを一番大切にしています。それに、サッカースクールなので、プロになりたい、日本代表になりたいという夢をもった子どもたちのサポートも大事な要素です」
こう話す西村さんは松本市出身。小学生の頃からサッカーを始め、高校はサッカーの強豪校・松商学園に進学して全国大会出場も果たしました。中京大学体育学部でスポーツを学んだ後、企業への就職も決まっていましたが、サッカー指導者になりたいとの思いで内定を辞退。1995年にドイツへ渡り、語学を学んだ後、ケルンスポーツ大学に進学しました。
「中京大学では体育の教員になることを考えて勉強しましたが、サッカー指導者になるためには、より幅広い知識や経験が必要だと思いました。ケルンスポーツ大学には指導者養成コースもあったので、若いうちにサッカーの本場ドイツで人に何かを伝えたり指導をするための知識や能力を学び、経験したいとの思いで留学を決めました」
渡独初年度で徹底してドイツ語を習得し、ケルンスポーツ大学で2年学んだ後は、ドイツのプロサッカーリーグ(ブンデスリーガ)の各クラブに「コーチになりたい」と積極的に打診。その結果、当時ブンデスリーガ1部の上位にいたサッカークラブ(1860ミュンヘン)のコーチに就任しました。小学生から始まり、中学生年代、最終的には高校生年代の子どもたちがプロになるための指導に携わりました。
教え子からは、後に4人がドイツ代表に選出。そのほか、オーストリア代表やUSA代表、南アフリカ代表などの教え子もいます。
「プロになるためには、もちろん、技術的、戦術的な指導に取り組みますが、大事なのは『人間性』です。それは、ドイツでも日本でも変わりません。僕は『お金を払って観戦にきてくれたお客さんには、プレーヤーとして感動を提供しなければいけない。その感動は技術だけでは与えられない』と言い続けました。今も変わらず子どもたちに伝えています」
ドイツ代表になった一人の子どもは、高校生時代、ずば抜けた才能があるタイプではなかったのだそう。ただ、練習や試合に取り組む姿勢が素晴らしく、いつもグラウンドで走り続け、必死にプレーし、常に自分の100パーセントの力を出す選手だったそうです。
「厳しい課題も前向きに受け止めて前進しようとする彼のキャラクターのおかげで、彼はドイツ代表にまで成長しました。そんな彼を尊敬していますし、努力することで変わることがある、トップレベルにまで達する成長もあるのだと実感しましたね」
子どもたちの夢と成長をサポートしながら、お互いに夢を広げていける仕事
ドイツブンデスリーガのクラブで7シーズン働いた後、J1リーグのクラブ「湘南ベルマーレ」からコーチとして誘われて2005年に帰国。日本の子どもたちの指導に携わり始めました。当時、指導した教え子の一人が、現在日本代表として活躍する遠藤航選手です。
その後、AC長野パルセイロに誘われてジュニアユース(中学生年代)を3年間指導し、長野市の住みやすさが気に入って「いずれは地元の長野県でサッカークラブをやりたい」との昔からの夢を叶えるべく、自らの理念と哲学のもと、サッカースクールを起業。西村さんが常に「夢をもつこと」を大切にしていることから、ドイツ語で「夢」を意味する「Traum(トゥラウム)」を冠したサッカークラブを立ち上げました。
「純粋に夢をもって、その夢を追いかけている子どもたちをサポートできるのがこの仕事の魅力ですね。そのためにも、子どもたちが笑顔でいることはいつも意識しています。練習中にあまり楽しそうではなかったらスパッとやめ、違うアプローチから子どもたちが楽しく技術を学べる方法を探っていく時もあります。指導者やコーチの自己満足ではなく、“子どもたちにとって良い”指導が、私の一番のテーマですね」
また、人間性を育むための指導にも力を入れています。
「もちろん、多くの子どもはプロになりたくてもなれません。そうした子どもたちが社会に出て活躍するために必要なことは、プロ選手と同じです。挨拶ができること、感謝や思いやりの気持ちをもてること、コミュニケーションをきちんと取れること。そのために、例えばうちのスクールでは年上の子が年下の子の面倒を見ることで、助け合いの精神を育んでいます。こうして当スクールに通う子どもが社会に出て活躍できるようにサポートすることは、これからもずっと変わりません」
こうした指導により、子どもたちが楽しそうにサッカーをしたり、成長していく姿を見ることが、西村さんにとっての大きなやりがいだそう。また、子どもたちの成長を通じ、自身の成長も実感していると話します。
「子どもは必ず成長します。彼らの成長を追い求めながら、自分も一緒に考え、人間的に成長していると感じます。やはりいくつになっても成長は止まらないですし、僕自身の夢も広がっていきますね」
海外を知るからこそできる指導を。夢は、いつか再び世界へ
西村さんの夢は、旅や仕事、老後の生活を問わず、いずれ再び海外の生活にふれることだとか。
「海外での経験は、僕の人生にとってすごく大きな影響がありました。モノの考え方や見方も大きく養われましたね。だから、いずれは日本のみならず、何らかの形でまた海外に携われたらいいですね」
この春にはスクールの中学生16人をドイツに連れていき、オーストリア代表で、現在、ブンデスリーガ1部の「レバークーゼン」でプレーをしている教え子を訪ねる予定だそう。非公開トレーニングに中学生たちを招待してくれるのだとか。ほかにも、現地の子どもたちと試合をしたり、日本にはない8万人収容のサッカー専用スタジアム(ドルトムント)で観客動員数が世界ナンバーワンのブンデスリーガの試合を観戦するほか、ケルン大聖堂などの世界遺産も見たり、現地の中学校を訪問して英語の授業も受ける予定です。
「こうして子どもたちの今後の可能性を広げたい。それも僕が長年、海外にいたからこそ経験させられることだと思っています」
サッカーを通じた子どもたちの指導から、47歳になった今もなお、自身の夢も可能性も広げている西村さん。
「人生はやはり、やりたいことをやることが大切だと思っています。今までやりたいことをやってきた結果が今に至っているので、これからも子どもを指導する楽しさを感じつつ、自分なりに人生を歩んでいきたいですね」
そうした生き生きとした西村さんの姿を見せることも、きっと子どもたちの成長の糧になっていくことでしょう。
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会える場所 | 一般社団法人Traum Akademie ドイツサッカースクール 長野市川中島町四ツ屋1193-17 電話 080-8422-909 ホームページ https://www.traumakademie.com/ |
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