No.023
越
将俊さん
専門学校教師/アーティスト
未来の自分をデザインする生徒の背中を押す
進化し続ける教師兼アーティスト
文・写真 Takashi Anzai
先生という人種が苦手で、恩師と呼べる存在に出会えたのは30歳を過ぎた大学院時代という編集部・安斎。
今回の取材を通して、実はちょっと嫉妬しました。もし若いころにこんな熱くて面白い先生と出会っていたら、人生はまったく違うものになっていたかもしれない、この人に教わる生徒が羨ましいと思ってしまいました。
その先生とは、岡学園トータルデザインアカデミーの越将俊さん。
同校でデザインとマーケティングを教えながら、彫像をはじめとしたアーティスト活動でも高い評価を得ています。
「よく言われるのが、アーティストは飯を食べられるか。しかし、そもそもアートだけで飯を食べていかなければならない理由なんてないんです。若い子たちの表現活動を、そういう判断基準で制限してはいけないと思うんです。それでワクワクして人生が楽しくなればいいんです」
同校の就職率は91%(2013年)と高い数字を誇ります。デザイン系としては、就職支援に力を入れた手堅い学校というイメージを持っていましたが、そんな私の予想に反して、越さんの言葉はとても大らかで力強く響きました。
「学生には、遠回りをしてもいいじゃない、と伝えています。ショートカットして一本の道を行くのはきれいかもしれない。でも、遠回りすると視野が広がって、人生の幅が広がる。視野が狭いことほどさびしい人生はないなと思っています。そのためには人生経験が豊かでなくてはならないし、失敗が多くなければならないし、それならなるべく遠回りしていきな、そうした方が楽しいよと」
越さんがアーティストとして作品をコンペなどに出し始めたのは30歳を過ぎてから。それまで大学で経営学を学び、ダブルスクールでファッションデザインを学び、その後イタリアのフィレンツェとピエトラサンタで彫刻の工房で働いたという経歴を持っています。だからこそ、その言葉には重みがあります。
「デザインを学んで、就職はどうするんですか?ってよく聞かれます。そしたら、『発想力を鍛えることが仕事にとって何より大事なことなんだよ』と伝えています。美術とかデザインってまさに発想力です。いま学んでいることが大学に行くよりよっぽど社会の役に立つんだからと」
「自分は大学に進学しましたが、他の選択肢が見つからなかったんです。こういう世界があるよ、デザインとかアートってこういう可能性があるんだよ、ということを言ってくれる大人がいなかった。今の自分なら、アートやりなよ、デザインやりなよって言ってあげられます」
越さんは大学進学という進路について「他の選択肢がなく、行ってみたものの想像とは大きく異なっていました。悪い意味で(笑)」と振り返りますが、たった1年で軌道修正します。
大学2年生の頃からは情報誌に掲載されている展示会を全て網羅するほど、ギャラリーや美術館へ通い詰めました。そして3年生からは大学に通いながら、前述の通りファッション系の専門学校に入り、4年生では当時望んでいた分野への就職も決まりました。しかし、それを蹴って単身イタリアへ渡ります。そこで3年間、ファッションの原点である立体造形の世界を究めようと彫刻の工房で働きました。
「どうしても納得いかなかったのが、就職してからの仕事が単なるパーツでしかないと思えたんです。そこの世界しか知らないパーツだとすごくさみしいし、人生が小さくなっちゃう。自分の原点は何か、何を究めたいのかを考えると、世界に出て色んな国の人たちの考え方や文化を取り入れたいと思いました」
現在、岡学園のディレクターとして教鞭を取る越さんですが、パーツという感覚とは程遠い毎日を送っています。仕事を語るとき、越さんの表情は生き生きとしていました。そして、もう一つの顔であるアーティストとしての活動にも仕事が良い影響を与えているといいます。
デザインの発想の仕方とマーケティングを担当している
「デザインやアートって手が衰えるということよりも、頭が衰えることが一番いけないんじゃないかなと思うんです。自分は学校で最新のデザインを学生たちと一緒に見続けているんですよ。こんな環境ってほとんどないです。毎日やる授業はデザインだし、学生からは斬新なアイディアが出て来るし、常に頭はフル回転なんですよ」
「技術に使う時間は少ないんですけれども、30歳くらいになって自分はまったく衰えていなくて、むしろ美術をずっとやっている人よりも進化しているかもしれないと感じ始めて、そしたらコンテストにも通ることができて。自分はやっぱり時代性にマッチしようとしてきたのが、結果としてよかったのだと思います」
「あかね色の空」10×20×6cm テラコッタ 2011年
6月3日から6月29日まで長野市のギャラリー82で開かれる第2回「メタモルフォーシス」展には2点を出展します。越さんの作品は、彫像としては比較的小さなものが多いのですが、その理由をこう話します。
「自分はデザインをやっているので、家の中に飾れないもの、ビジネスとして売れないものをつくるのが嫌なんです。空間の中にちょこっと置いてある、そういうイメージでつくっています」
「モノを基礎から作るのではなくて、川に落ちていた石から型を取ったり、コーンから型を取ったり、言ってしまえばガラクタみたいなものも素材を変えれば空間を変えることができると言うことを見てほしい。最近は敢えてそういう作品を多く作っています」
「未来の自分をデザインする」。それが岡学園のキャッチフレーズです。学校という空間に越さんのような教師がいれば、生徒たちは熱くて面白い人生をデザインできそうな気がしました。そして、「遠回りした方が人間の幅が広くなる」という言葉に勇気をもらいました。
「未来の自分をデザインする」岡学園 トータルデザインアカデミー。越さんは同校のディレクターを務めている
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会える場所 | 岡学園 トータルデザインアカデミー 長野市岡田町96-5 電話 026-226-5719 ホームページ http://www.okagakuen.com/ 第2回「メタモルフォーシス」展 |
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