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No.300

高野

正彦さん

エレキギター演奏ボランティア

大好きなギターの演奏と体験談で、
施設で過ごすひと時を楽しく笑顔に!

文・写真 合津幸

若年性アルツハイマー症の奥さまを介護するかたわら、介護施設や病院、地域の「お茶のみサロン」等でエレキギターの演奏ボランティア活動を行っている高野正彦さん。今年度、内閣府のエイジレス・ライフ実践事例に選出され、エイジレス章を授与されました。そんな高野さんの活動とそこに込められた想いをご紹介します。

介護がきっかけでボランティアに

長野市信更町で暮らす高野さんは、72歳の現在も月に5〜6回のエレキギターによる演奏ボランティア活動を精力的に行っています。訪問地域は長野市や千曲市を中心に、依頼があれば中信エリアに出向くこともあるそうです。

演歌好きは小学生の時から、ギター演奏は高校生の頃から行っていた高野さんですが、ボランティアを始めたのは今から6〜7年前のこと。奥さまの栄子さんが通うデイサービス施設を見学したことがきっかけでした。

「私と同い年の妻が、若年性アルツハイマーと診断されたのが55歳。それから10年くらいは自分で歩くこともできたのだけど、少しずつ自由がきかなくなってきましてね。ずっと自宅で介護をしてきたけれど、1人では大変になったため、週に何度かデイサービスを利用させてもらうことにしたんです」

レパートリーは30曲以上。毎回季節や参加者の年齢に合うものなど、10曲前後を選んで演奏している

そこで高野さんが目にしたのは、施設の利用者さんがレクリエーションの時間にカラオケ曲で歌ったり、手遊びをしたりして過ごす様子でした。

「ふと、私がエレキギターを弾いて、皆さんに歌ってもらってはどうだろう? と、思い付いたんです。さっそく施設の担当者に提案してみたところ快くOKしてくださったので、手始めに2〜3回演歌を演奏させてもらいました。すると、皆さん声を出して歌ってくれて、喜んでくださったんです。その笑顔を見ていたら私自身元気が湧いてきて、何より大好きなギターを久しぶりに弾けるのが楽しくて。すぐに他の施設にも売り込みに回りました」

ところが、最初はボランティアを申し出ても、アコースティックギターではなくエレキギターと演歌の組み合わせをイメージできない方が多く、あまり良い反応は得られなかったそうです。

「エレキギターで演歌? と、不思議がられました。でも、長年勤めた病院の元同僚に声を掛けてもらったり、地域の集まりに参加したりして地道に活動し続けたら、いくつかの施設や病院から繰り返し声が掛かるようになったんです」

マイク片手にのびのびと歌ったり、手拍子をしながら声を出したり。午後のひと時が音と笑顔に満たされる

歌って過ごす、楽しい時間を

大好きなエレキギターを演奏して、たくさんの人に笑顔を運ぶ。
確かに高野さんにとっても有意義な時間なようですが、それでも奥さまの介護との両立は大変ではないのでしょうか?

「エレキギターは大好きだし、たくさんの人に笑顔になってもらえるのは私にとっても大きな喜び。義務や責任ではなく、好きでやっていることだから全然苦じゃありません。時間も1時間程度ですし、曲は楽譜を見なくても弾けるからそれほど負担もないですしね。それに、こうして私自身がリフレッシュさせてもらえるからこそ、妻とも笑顔で向き合えるんですから」

そんな高野さんが活動において大切にしていることがいくつかあります。
演奏に関しては、第一に高野さんはギターを弾くことに徹して、皆さんに思い切り歌って楽しんでいただくこと。第二に主な対象を70〜90代の高齢者と想定して、できるだけ誰もが自然に口ずさむことのできる、演歌等のなじみのある曲を選ぶこと、です。

「曲は知っていても歌詞がわからない」という方のために、友人が書いてくれた大きな文字の歌詞一覧を掲示

「よく『高野さんも歌ってよ』って言われるんだけど、歌うとギターが疎かになっちゃうから(笑)。それに、これは私の演奏を聴いてもらうためではなく、集まってくださった皆さんに楽しく歌っていただくことが目的です。ですから、それを意識した曲選びと演奏を心掛けています」

その甲斐あって、たくさんの嬉しい反応・反響がありました。何人かは思い出深い曲の登場に涙を流して喜んでくださり、普段はニコリともせずに座っていた女性は何曲も大声で楽しそうに歌い、あちこちで「また来てね」「今度はあの曲をやってよ」「楽しみにしていたの」と声を掛けてもらいました。

それでも参加者の人数や施設の特性によっては、盛り上がり方に大きな差があります。そのため、曲の間にどんな話しをしようか、どの程度のジョークを交えようか、どのくらいのペースで進めるべきかと、その場その場で探りながら工夫しながらの演奏を続けているそうです。

曲と曲の間隔を調整したり話の内容を選んだりして、最大限楽しく有意義な時間になるよう工夫を凝らす

体験を共有し、助け合いの心を育もう

ところで、高野さんには演奏以外にも大切にしていることがあります。それは、奥さまの介護を通して感じたことや実体験を語ることです。

15年超という長きにわたり、介護を実践しながら人の温かさや助け合うことの大切さに触れて来た高野さん。それらの体験を、演奏ボランティアを通じて出会った人々と共有しようとしているのです。

「介護も助け合いも他人事ではありません。いつ自分が当事者になるかわからないし、困っている人がいたら助けるのが当たり前の世の中であってほしい。願望や理想ではなく事実を語ることで、無理なく理解を深めてもらいたいと思っています」

こうしてギター演奏および介護体験を行っている高野さんは、内閣府が長寿国・日本において重要視する[高齢者が年齢にとらわれず自らの責任と能力において自由で生き生きとした生活を送ること=エイジレス・ライフ]の平成27年度実践事例 実践者に選ばれました。

「長年弾いているからね、指が曲を覚えている。でも、反応がイマイチだと緊張して間違えちゃう」と、苦笑い

「私の活動が多くの人に元気や勇気を与えられたら、それももちろん嬉しいです。それどころか逆に受章を機に新たな訪問依頼が舞い込んだり、友人に報告がてら活動を紹介する機会も増えたりして、私自身にも勢いが付きました」

一方で、栄子さんの症状は確実に進行しています。一昨年は浴室で倒れて約1ヵ月間入院。退院後は自宅介護にて、ほぼ寝たきりの生活を2年間続けました。しかし、食事をとることすらままならない状況に、施設への入所をやむなく決意。

現在は90歳を超えるお父様と長野市信更町で暮らしつつ日々施設の奥さまを訪ね、ボランティア活動も以前と変わらず継続しています。

「妻のことも父のことも、明日はどうなるかわかりません。それでも、元気でいる限りはボランティア活動を続けます。やはり、笑顔で楽しく過ごすひとときを大切にしたいですから」

何歳になっても、前向きでパワフルな生き方を貫いている高野さん。私たちもぜひ見習いたいですね。

家族や友人を想い、社会とのつながりを大切するパワフルでエイジレスな姿に、刺激を受ける人も多いはず

(2016/01/12掲載)

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