No.182
和田
照子さん
ガールガイド・ガールスカウト世界連盟理事 一般社団法人日本経済団体連合会
体験はアクションにつながる
世界に広がるガールスカウトの輪
文・写真 Rumiko Miyairi
憧れたスカイブルーのワンピース
「スカイブルーのワンピースにベレー帽がかっこよくて、その制服姿に憧れて入ったんです」
ガールスカウトに入ったきっかけをニコニコと話すのは、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)に勤務しながら、ガールガイド・ガールスカウト世界連盟の理事を務める和田照子さん。
和田さんが、ガールスカウトに入団したのは中学1年生のころでした。当時、近所でボランティアとしてガールスカウトのリーダーをしている方から、和田さんの6才はなれた妹に入団の誘いの声が掛かりました。そしてガールスカウトの体験をすることになった妹に、和田さんは付き添い程度で行ったときのことでした。
すでに2才はなれた弟がボーイスカウトに入っていて男の子にそんな活動があることを知っていましたが、女の子にもそれに似たものがあることを知らない和田さんでした。それくらいの心持ちで行ってみると、それとは裏腹にガールスカウトの光景は思いのほかワクワクしたそうです。
「みんなお揃いの制服姿でピッと敬礼している姿がすごくかっこよく見えましたね。それに、学校ではできそうもない楽しそうな体験もしていましたので、すごく興味が湧きました」
目を輝かせて和田さんは、そう当時を振り返ります。
「ガールスカウトは、女性が社会に出たとき、自分自身で考えて行動でき、社会の一員として貢献できるようになることが目標なので、いろいろな体験をしてそれぞれの気持ちを育てる場を作っています。社会の中で自信を持ち、生き生きとしていられるようにと、士気も高まりました。どんな活動も楽しかったですね。少女から大人の女性まで参加して、ひとつの団を作っていますから、チームワークやリーダーシップの大切さも学べました」
ガールスカウトの活動は、土曜日・日曜日の週末で行います。部活などで忙しい中学生には、参加することが厳しくなる傾向。和田さんも合唱部に所属していましたが、幸いその活動は土曜日が中心だったことで、日曜日のガールスカウトに参加できました。そして、和田さんは、ガールスカウトの活動を高校3年生まで続けることができました。高校生になったガールスカウトは「レンジャー」と呼ばれ、身に付けたことを人やチームのため、そして世の中に生かしていくという目的を持って行動するようになります。
ベレー帽に制服のワンピースを着て颯爽と活動した和田さん。そんな和田さんに憧れた少女たちが、次々とガールスカウトの世界に飛び込んだかもしれません。
ガールスカウトの活動は、ワクワクするものがいっぱいある。「団のみんなと電車でGO!!」と題したプチ旅行もその一つ![写真提供・和田照子さん]
感謝して仕事と社会活動を両立
大学進学を機に上京することになった和田さんは、高校3年生まで続けたガールスカウトは登録だけを続け、日常の活動からは一旦遠ざかります。そして、進学した早稲田大学法学部を卒業後、さらに東京大学大学院の法学政治学研究科で学んだ和田さんは、そこを修了し1995年、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)に就職します。
「ガールスカウトは、少女のころから地元で活動するので、そこを離れると、なかなか活動が続けにくくなるケースが多くて非常にもったいないと思っています。私は大学院生のとき、ガールスカウトを通じて紹介された政府の青少年国際交流プログラムの実行委員長を引き受け、色々なお手伝いはしましたが、その後、就職してからは仕事が忙しくて、しばらくガールスカウトには関われませんでした」
経団連での和田さんの仕事は、企業の皆さんの声を政策提言としてとりまとめ、政府に提案して実現していくこと、つまり企業と政府の間のパイプをつなぐことです。必要な情報交換や意思疎通が円滑に進むための窓口となります。海外の法律事務所が日本企業向けのセミナーを開催するお手伝いをすることもあり、海を越えたグローバルな視点と巧みなコミュニケーション力と判断力を要するポジションに携わっていることが伝わってきました。
帰宅時間は、自分ではなかなかコントロールできない、という和田さんはスキルアップのための努力も惜しみません。
「自分は、今何ができるのかをいつも考えています。就職してもっと仕事に生かせるものを掴もうと思い、フルブライト奨学金のプログラムでアメリカに留学しました。1年目はワシントンDCにあるジョージタウン大学のロースクールで法律を学び、翌年、国際通貨基金(IMF)でインターンとして勉強させてもらいました」
この留学で、米国ニューヨーク州弁護士の資格を取り帰国した和田さん。勤務を続けながら留学できたことや日頃から職場に理解してもらっているからできることがたくさんある、と感謝の気持ちも表します。
「仕事をしながらガールスカウトの活動もさせてもらえていて、両方で学んだことを互いに役立てていきたいと思っています。ひとつの組織だけで通じるロジックに基づいて、インサイダーだけで運営しているのではバランスよく進めないこともあると思っています。ガールスカウトでの経験も、経団連での仕事も、両方から得た経験が相乗効果をもたらすことを目指しています」
そのとき自分にできること
社会人になって仕事に充実した日々を送る和田さん。
しばらく遠ざかっていたガールスカウトに再び関わるきっかけになったのは、和田さんの海外での留学経験や経団連で働く姿を見てきたガールスカウトの先輩から、ガールスカウト日本連盟の理事に推薦されたときでした。2005年、就職してから10年が経ったときのことでした。
「ガールスカウト日本連盟の理事に推薦していただき、ずいぶん悩みましたが最終的にはご恩返しだと思って引き受けました。しばらくガールスカウトから離れていたので、不安もありましたが、理事会の皆さんは先進的な考え方を持っている方ばかりで支えていただきました。おかげで公益的な活動の運営に携わることができました。ガールスカウトの教育はボランティアによって支えられています。そういったボランティアの皆さんが、どうすれば気持ちよく活動ができるか、などを話し合う機会に恵まれました。そして副会長と会長の大役も務め終えることができました」
2011年、和田さんがガールスカウト日本連盟の会長職を任期満了になる矢先、東日本大震災が起こりました。
「それまでは、理事として『ガールスカウトのために何ができるか』を思っていましたが、震災をうけ、そのときには『ガールスカウトが世の中に何ができるか』を真剣に考えました」
未曾有の被害を生んだ震災以来、「自分にできること」を自らで問いかけた人も大勢いたと思います。その思いが行動力となり支援する活動などが行われてきました。今も全国で応援するイベントなどが開かれるなど、人と人の交流の輪も広がっています。和田さんもそのとき、目の前のことを真剣に受け止めて考え、そして、自分にできることを模索します。
「日本連盟の会長をしていた時期に、ガールスカウトの国際的なイベントに参加して、世界でもガールスカウトの役割や使命などをディスカッションし研修をさせてもらっていました。そんなとき、ガールスカウト日本連盟の会長をした経験などから、ガールスカウト世界連盟の理事になってみないかと、声を掛けてもらいました。世界を見ると、アジア人の理事としての発言者はあまり多くないので、私なりに社会に奉仕したいという強い思いを持って立候補しました」
こうして和田さんは、今までのあらゆる経験を自信につなげて立候補し、2011年7月、エジンバラで開催された世界会議での選挙の結果、ガールガイド・ガールスカウト世界連盟理事に就任しました。
ユニフォーム姿で颯爽とした和田さん。2014年、香港で開かれたガールスカウト世界会議開催中、世界の仲間と撮った一枚[写真提供・和田照子さん]
世界で活躍するリーダーがほっとする瞬間
ガールスカウトの精神を貫こうとする和田さん。和田さんによると、ガールスカウトは100年以上前から「社会に役立つ人を育む」という理念に基づいてきたといいます。
「ガールスカウトの活動は体験することを大事に考えています。街でゴミ拾いをすることでも、老人ホームでお年寄りのために歌ったりすることでも何でもいいんですが、どんな些細なことでも、喜んでくれる人はいますよ。例えば、私自身も子どものころ、老人ホームで自分たちの歌に涙して喜んでくれる方々に出会ったことがあります。実際に自分の活動を喜んでもらえるという体験を実感することが意欲につながり、自分から行動できるようになるんだと思います」
数えきれないほど心に響く体験をした和田さんだから、数えきれないほどの人の気持ちに出会ってきました。だから自身で、経験したものをフルに活かし歩く勇気があります。
「いろんな場面で講演などさせてもらい、プレゼンテーションのスキルやコミュニケーション能力を高めることも、学ばせてもらいました。ガールスカウトを伝える立場に責任を持ち、少女たちが健やかに育つように手助けをしていきたいです」
世界中の少女たちに向けてリーダーシップをとっている和田さん。
つねに自分の役割を意識し、ガールスカウトを通じて世の中に役立て、また、どんな出来事もチャンスにつなげる、そんなエネルギーを感じました。一方で、人に感謝し慈しむ心も持っています。
そんな和田さんは、これから叶えたいこととして「大学生やOLになっても、ガールスカウトとしての活動ができるサークルのような場を作りたい」と夢を持ちます。
体験を大事にする活動「ガールスカウト食堂へようこそ」では、食材の買い物から調理室の準備や料理などまで仲間と協力して行った[写真提供・和田照子さん]
どこに行っても新しい出会いを大事にする和田さんに取材の最後は、長野への思いを聞いてみると、きりりとした面持ちから少しほっとした表情でこういいます。
「やはり、お茶うけにお葉漬けが出る長野。この文化が昔から大好きです」
長野では、寒さが一段と強まる霜月から師走になるころ、あちこちで収獲した野沢菜を漬ける文化があります。漬物をお茶うけに温かいお茶でゆっくり温まる。そうして、厳しい冬の間はこたつでぬくまる、そんな安らぎかたを何気なしにして育った人もいるでしょう。きっと、和田さんもほっとできる、そんな瞬間だったと思いました。
長野で育った和田さんが、世界を舞台に輝かしい活躍をしています。
またひとつ、長野に誇りが増えました。
和田さんが登録しているガールスカウト長野県第41団では、たくさんの仲間と出会い、心が育まれる体験イベントが満載。2014年のクリスマス会では、フラワーアレンジメントをお花の先生に教えてもらえた[写真提供・和田照子さん]
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